空京、聖アトラーテ病院。
「……僕の“死”は避けられないのですね」
蒼空学園の生徒である間宮隆(まみや・たかし)は医者の目を覗きこみます。
近頃体調がすぐれなかったタカシは検査に来ていたのです。
「そういう言い方も出来るかも知れない」
契約者の疾病を専門に扱う医者は頷くしかありませんでした。
記憶や人格まで段々と消滅する。
“心の尽きる病”と称されているこの奇病には、
治療方法が存在しないのです。
「パートナーには、
機晶姫のソフィアには影響ないのですか?」
「同じようになる可能性は極めて高い……」
「僕の事はいいんです。
ソフィアを助けることは出来ないんですか!?」
「機晶姫であれば、
パートナーの情報を消去すれば……」
それはタカシとソフィアが契約を解除する事を意味しています。
そしてタカシの脳には。
「パートナーを失ったのと同じだけの影響が出る。
死をも覚悟する必要がある」
「……それで、構いません」
タカシは既に決断していました。
ソフィアからタカシの情報を消去するには、
シャンバラ大荒野に研究所を構える、
吸血鬼の機晶技師ライナスが適任だろうという話になりました。
そしてソフィアはちょうどライナスの元を訪れていたのです。
★★★
「次はこの強化装甲をつけてテストするぞ」
「はい」
ライナスはソフィアや助手たちと共に機晶姫の強化パーツの開発を行っていたのです。
その時、ライナスの元にタカシからのメールが。
「……これは」
そこにはライナスにソフィアから自分の記憶を消去してほしいこと、
ソフィアは聞いてくれないだろうから自ら向かう事が書いてありました。
そして。
「ライナスさん、
私はどのパーツをつければよいのでしょうか?」
ソフィアにもタカシの病の影響が出始めていたのです。
(機晶石交換による同調エラーか。
“あの遺跡”にある医療用パーツなら二人を救う事も……)
ライナスはこれまでの研究から思い当たる事があったのです。
そして以前から目を付けていた遺跡に助手の一部を派遣することにしました。
しかし。
「ライナスが大規模な工廠跡を隠していたのは分かっていたんだ。
手に入れれば、軍隊に匹敵する機晶姫軍団が手に入る!」
鏖殺寺院と協力関係にある馬賊の頭目バルゴフは
手勢の軍事訓練を受けたオークとゴブリンを使って遺跡の包囲を始めたのです。