「パッフェル・シャウラ …… 十二星華の一人 ……」
白い肌、ロリータファッション、右目の眼帯。ローズピンクの髪と共に上げた顔から、パッフェルは静かに名乗り零した。
イルミンスール魔法学校校舎の南側に位置する大講義室では、生徒たちとベルバトス・ノーム教諭、そして十二星華の一人、パッフェルが対峙していた。
パッフェルが背にする壁には巨大な穴が開いており、その壁と向かい合う壁にも巨大な穴が開けられていた。前者は生徒の1人が開けた穴、もう1つはパッフェルが開けたものであるのだが。
騒ぎを聞いて駆けつけた生徒たちと共に、ノーム教諭のパートナーであるアリシア・ルードは室内へと駆け込んできた。
「ノーム様。ご無事ですか?」
「アリシア、君は生徒たちの治療をしていたまえよ」
「しかし、」
ノーム教諭はパッフェルに向けた視線を外すことなく、ゆっくりと歩みを始めた。
「これだけの人数で囲んでいるんだ、君に逃げ場は無いよねぇ」
パッフェル取り囲んだ生徒たちが、一斉に構えを見せた。
冷たい表情に、妖しげな笑みが浮かんでゆく。パッフェルは瞳を見開くと、生徒たちの足元へ銃を乱射した。
銃声と破砕音、そして悲鳴が室内に響き渡る。逃げ惑う生徒や身を潜める生徒たちの中、数名の生徒がパッフェルに跳びかかろうとした時、「赤い光」が放たれた。
生徒たち、そしてノーム教諭とアリシアが視線を送った時には、赤い光に撃ち抜かれたユイード・リントワーグは、全身が水晶化していた。
「ユイードさん!!」
「アリシア! 待て」
ユイードに駆け寄ろうとしたアリシアを、教諭の声が引きとめた。パッフェルの銃口がアリシアに向けられていたのだ。
「その銃で、剣の花嫁たちを水晶化していたというわけかぃ?」
「女王器「青龍鱗」を私に …… 」
「女王器? 何のことだぃ?」
「ふざけるなら、パートナーも、あぁなるわ」
ユイードの体は、全身が水晶と化していた。逃げようとしたまま、駆け出したまま、怯えた表情をして……。
「ふざけてなどいない。ここには無いんだ」
銃口を向けたまま歩み寄ったパッフェルは、アリシアの首を掴んで、銃口を頭へと突き付けた。
「あんな貴重な品を、持ち歩いているほうが不自然だろう?」
「………… それもそうね ………… いいわ」
パッフェルはアリシアに銃を向けたまま、ゆっくりと歩き出した。
「明日、陽が昇る時、イルミンスールの森にある「毒苺のなる巨樹の下」に女王器を持ってくるのね」
生徒たち、そしてノーム教諭が見つめる中、アリシアを盾に、パッフェルは悠々と部屋を後にしていった。