東西シャンバラ合同修学旅行の一行は、京都にやって来ました。
京都駅までは、何の問題もなく来ることが出来たのですが……宿に着いて早々、中国風の衣冠に身を包んだ、髭面の偉丈夫が一行の元を訪れて来ました。関羽の知り合いというふれこみだったのですが、実は彼は、英霊・閻魔大王だったのです。
「我は、閻王である。地上の者にはない力を持つそちたちに、頼みがあって参った」
和風旅館の大広間に集められた生徒たちに向かって、閻魔大王は言いました。
「実は……うちの鬼どもが少々、手を滑らしてしもうてのぅ。季節外れなこの時期に、ナラカと現世を隔てる扉に隙間があき、亡者どもが現世にあふれ出してしまったのじゃ」
(お盆どころか、ハロウィンももう過ぎたっていうのに……季節外れすぎるわー!)
生徒たちの内心の総ツッコミも知らず、閻魔大王は生徒たちを見回します。
「既に扉は閉ざしたが、既に現世にさまよい出て亡者どもを、ナラカに送り返さねばならぬ。鬼どもの不手際ゆえ、こちらで解決したいところではあるが、鬼どもを地上へ出すと混乱に拍車がかかる。そこでそちたち、亡者どもをこちらに送り返す方法を教えるゆえ、手伝うてくれぬか? 手伝わずとも良いが……その時は鬼どもを地上へ出さねばならず、町は混乱、修学旅行どころではなくなるであろうなぁ」
そう言われてしまっては、手伝わざるを得ません。
亡者があふれ出している場所は4か所あり、場所ごとに送り返す方法が違うそうです。
……………
まず、六波羅蜜寺に現れたのは、平家の亡霊たちです。
『心を癒し、安らかにする楽の音を聞かせてたも……』
『我は、心躍るような、楽しい曲が聞きたいのう』
そう訴えているそうなので、彼らを満足させるような音楽を奏でれば、きっと、あの世へ戻ることでしょう。
……………
小野篁が冥界に通うために使ったという六道珍皇寺の裏の井戸からは、一般の、市井の人々の霊が現れ、僧たちの前でさめざめと泣きながら、生前の無念を語っていました。
「六道詣りの時のように、水塔婆に名を書いて清めてやれば成仏するに違いないのだが、話が長くてなかなか名を語ってくれぬ上に、こう人数が多くては手が足りませぬ! 手伝うてくれる者は居らぬか!」
ちなみに、水塔婆の数には限りがあり、名前を書き損じると帰ってもらえないそうなので、注意が必要です。
……………
『おとうちゃん、ひもじぃよう……』
『おかあさま、どこへ行ってしまったの……』
子育て地蔵として有名な西福寺に現れたのは、子供の亡霊ばかり。
「『幽霊の子育て飴』をあるだけ買うて参りましたが、足らぬ様子で……」
「この際何でも良い、子供が好きそうな菓子を用意して供えるのじゃ! それと、誰ぞ子守りの得意な者はおらぬか!? 菓子を作るまでの間、あやして時間を稼げ!」
庫裏はお菓子の用意でおおわらわ、年若い修行僧たちはどうにかして子供をあやそうと右往左往しています。
……………
そして一条戻り橋には、荒法師や武者などの、手荒な霊がうろついていました。
「ええいっ、あの世に戻りませいッ!」
「悪霊退散!!」
勇気ある僧侶たちが説得……もとい祈祷を続けており、どうにか戻り橋の周辺に押し込めてはあるのですが、あの世に押し戻すまでの力はありません。亡者そのものに実体はないのですが、念動力で物を動かせるため、街中に出られれば一般人に被害が出るでしょう。
(ただし、この念動力は、あまり重たいものを動かす力はないようで、集まった僧侶たちが吹き飛ばされたり、吊り上げられたりということは今のところ起きていません)
閻魔大王の話によれば、魔法や光条兵器、属性攻撃など、契約者の特殊攻撃でなら、亡者にダメージを与えることが出来るそうなので、そういった力を駆使して、腕ずくで戻ってもらう以外になさそうです。
……………
生徒たちは、おのおの、このうちどこか一カ所を選んで、亡者を追い返す手伝いをすることになりました。
皆さんの手で、平和な楽しい修学旅行を守りましょう!