ドン・マルドゥークの治める地、西カナン・ウヌグ。
砂の雨が降り、荒廃した地を更に制圧せんと、征服王の放ったモンスターが群れを成して、闊歩していました。
モンスターの群れが通りかかったのは、もともと村が広がっていた地です。
今ではすっかり砂に埋もれ、そのほとんどの建物が原型を留めていません。
人の気配も、なさそうです。
モンスターの群れの中、一際大きな個体の背に乗った神官服を着た男がそのモンスターを促し、通り過ぎようと歩を進めました。
けれども、別のモンスターがふいに、一点を見つめます。
視線の先――壊れた建物の影に、人の姿を見つけたのです。
それは、埋もれてしまった家屋から少しでも使えるものを回収しようと、避難先から訪れた村人たちです。
「――行け!」
男も村人たちに気付くと、にや……と笑ったかと思うと、そう指示を出しました。
男が乗った個体が駆け出すと、残りのモンスターもそれに続きます。
それぞれが上げる咆哮に、建物の影に居た村人たちも気付きました。
「うわっ!? モンスターッ!?」
「に、逃げろー!!」
一人の男性が駆け出すと、周りの人々も駆け出します。
四方八方、まるで蜘蛛の子を散らしたかのように逃げ惑う村人に、一人の男が声を上げました。
「皆さん落ち着いてください!」
男はドン・マルドゥークの部下の一人で、此度の村人たちの行動に立ち会っていた者です。
彼の声に今一度集まった村人たちに、ばらけてしまわないよう声を掛けます。
「相手の特徴でも分かれば、逃げやすいはずです。それまでは、建物の影に隠れながら、やり過ごしましょう」
告げる彼の言葉に、村人たちは頷きあい、モンスターの群れから逃げ回り始めました。
***
空飛ぶ古代戦艦ルミナスヴァルキリーに乗船するなどして、西カナンへと訪れた学生たちの中で、早速辺りの探索を始めていた学生は、遠くに砂煙が上がっているのに気付きました。
遠眼鏡が確認してみると、壊れた建物の間を駆け回る大きなイノシシのようなモンスターの姿、そしてその前方に逃げ惑う人の姿がいくつかずつあります。
真っ直ぐにしか駆けることが出来ないのか、建物にぶつかって止まっては方向転換をしているモンスターの間を人々は上手く逃げているようですが、追いつかれつつもあります。
「大変だ! すぐに助けに向かわないと……!」
探索していた学生たちは現場に向かう者、増援を呼びに戻る者の二手に分かれると早速動き始めました。