波羅蜜多実業高等学校

「小暮少尉、入ります！」

　シャンバラ教導団、校長室。
「入れ」
　ドアをノックした新入生、小暮　秀幸（こぐれ・ひでゆき）は、室内からの声に応じ、一歩足を踏み入れました。
　執務机に座る校長、金　鋭峰（じん・るいふぉん）は、いつも以上に厳しい面持ちです。秀幸は、これから命じられるであろう任務が容易くないであろうことを悟ります。

「先ほど、我が校の重要施設のひとつに、鏖殺寺院のテロリストが入り込んだとの情報があった」

　校長が告げた言葉に、秀幸は息を呑みました。
　鏖殺寺院。シャンバラ建国に反対するテロ組織です。
　教導団の重要施設ということは、現場は軍事施設。そのような場所へ、むざむざテロリストの侵入を許したとなれば、校長の表情の厳しさにも納得です。
　さらに続けて鋭峰が告げた情報に、秀幸は背中を冷や汗が伝うのを感じました。

「現場は飛空艇の修繕工場。テロリストの目的は現在修繕中の大型飛空艇だ」
「飛空艇でありますか……」
「そうだ。ただし、敵は一人だ」
「一人……？」

　秀幸は訝しげに眉をひそめます。
　飛空艇は教導団の重要な装備です。兵器としての脅威度も高く、テロリストが欲しがっても不思議はありません。
　しかし、そのような大きな目的を前に敵がたった一人とは、解せない話です。

「正確には、捕縛すべきテロリストが一人、というだけのことだ」
「……と、おっしゃいますと」
「テロリストが散布したウイルスにより、現在修繕工場の敷地内には、ゾンビ化した工場職員たちがひしめいている」
「ゾンビ……！？」

　秀幸も風の噂に聞き及んだ覚えがあります。
　鏖殺寺院がヒトをゾンビ化させるウイルスを作り出した、と。
　確か、教導団でもウイルスのサンプルを入手し、ワクチンの開発が急がれていたはずです。

「残念ながら、ワクチンは未完成だ。感染した工場職員たちを治療するには、テロリストが持っているワクチンを入手、複製する必要がある」

　事態の露見が早かったため、工場の周囲はすでに教導団によって封鎖されています。テロリストはワクチンを交渉材料に、自分の身の安全と飛空艇を要求しているようです。

「貴官への任務だ。ゾンビがひしめく工場内でテロリストを見つけ出し、これを捕縛、ワクチンを奪取せよ。また、修繕中の飛空艇への損害は、最小限に抑えろ。方法、人材は問わん」
「了解致しました！」

　敬礼で返す秀幸に、校長は事件の詳細データを渡します。
　と、データファイルに混じって、見慣れない赤と緑の薬液が入ったアンプルをそれぞれひとつずつ手渡されました。

「これは……？」
「ワクチンの研究過程で突発的に生まれた薬品だ。研究者間での通称は変貌剤。使用すれば、赤い薬液なら人格を保ったままゾンビ化することが可能になる」
「こちらの、緑の薬液は？」
「そちらを使用した場合、感染は防げないが、ゾンビに噛まれた際、望む姿のモンスターになれる。理性までは保てないがな。なにかの役に立つかもしれん。持って行きたまえ。必要なら、より多くの変貌剤を持ち出しても構わん」
「ハッ！　お心遣い、感謝致します！」

　もう一度、乱れのない敬礼を見せ、秀幸は校長室を後にします。
　間もなく、各学校には協力者を募る緊急の依頼が通達されました。

　初めまして。あるいはご無沙汰しております、七誌紗難です。
　今回のシナリオでは、小暮秀幸と共に、ゾンビがひしめく工場敷地内からテロリストを見つけ出し、捕縛。ワクチンを奪取するのが目的です。
　受かりやすいのはシャンバラ教導団の生徒ですが、各校にも依頼を出しています。他校生の方も奮ってご参加下さい。

　現場は、ヒラニプラ内の飛空艇修繕工場です。
　倉庫に似た建物が１０棟ずつ２列に連なり、建物周辺にはコンテナが積まれています。建物ひとつの大きさは地球の学校の体育館ほどです。
　建物の前には、飛空艇の離着陸用の滑走路が伸びています。
　現在、敷地内にはゾンビ化した工場職員３００名がひしめいています。


　現場が修繕工場ということで、条件があります。

・修繕中の飛空艇付近では、広範囲攻撃の武器・スキル・銃火器の使用を控える
　飛空艇に損害を与える恐れがあるので、できる限り飛空艇付近でのこれらの使用は避けて下さい。

・緑の変貌剤を投与して任務に望む場合、屋内には入れない
　緑の変貌剤を使用すると、ゾンビに噛まれた際、使用者は望む姿のモンスターに変貌します。
　この場合、理性を失ってしまいますので、変貌したモンスターの姿によっては、建物や飛空艇に過度な損害を与える危険があります。
　このため緑の変貌剤の使用者は、屋内へ踏み込むことを控え、活動範囲を滑走路上のみに限定して下さい。
　変貌剤の詳細については後述します。

　現在判明している、敵に関するデータは以下の通りです。

・ゾンビ
　ウイルスに感染した工場職員たちです。青いツナギ服を着ています。
　基本的に歩行、個体によっては走るものもいます。
　目は見えておらず、匂いや音に反応して行動します。
　頭部を潰さない限り活動は止まりません。頭部を潰しても、約１０分で再生してしまうので注意が必要です。
　身体を燃やす、などの手段を用いれば復活は阻止できますが、延焼による火事の予防、また感染者の治療が不可能になるため禁止行為とします。
　噛まれると噛まれた人間もゾンビ化してしまいます。
　ゾンビ化しても、テロリストからワクチンが奪えれば治療が可能です。ゾンビ化している際の記憶は残りません。
　その時になって迷っても手遅れかもしれません。あらかじめ、仲間がゾンビ化した際はどうするか、も決めておく必要があるでしょう。

・テロリスト
　鏖殺寺院の人間です。一人で、工場敷地内のどこかに隠れ潜んでいます。
　接近を勘づかれるとワクチンを処分される恐れがありますので、探索は慎重に。
　トミーガンで武装していることが確認されています。鏖殺寺院がウイルスを応用、開発した身体強化薬を使用しているとの情報がありますので、手加減せずとも死ぬことはありません。

　以下は、教導団から支給された薬品についてです。

・赤の変貌剤
　ゾンビウイルスの情報を入手し、ワクチンの研究を進めていた教導団内で、偶発的に生まれた薬品です。
　使用者は人格や記憶、思考能力を保ったままゾンビに変貌することができます。
　他のゾンビにも同類と認識され、襲われることはなくなります。
　ただし、運動神経の一部が麻痺するため、走ったり武器を使用したりすることができなくなります。
　表情を変えることもできませんが、言葉を発して仲間と意思疎通を図ることは可能です。

・緑の変貌剤
　同じく偶発的に生まれた薬品です。
　あらかじめ投与しておくことで、使用者はゾンビに噛まれた際、望む姿のモンスターに変貌できます。
　望む姿とは言っても、大きさは最大で、大型のクマ程度までです。
　変貌すると理性を失ってしまいますので、あらかじめ変貌後の自分をどうしてもらうか、仲間と相談しておくと良いかもしれません。変貌中の記憶は残りません。
　仲間がワクチンを奪取すれば治療は可能ですので、この薬品を使用しておいて、最初から囮になるという手も使えます。
　効果を得るまでには多少時間を要しますので、使用希望者は作戦前に投与しておきましょう。

　尚、健康を害する恐れがあり、二種類の変貌剤の併用はできませんので、ご了承下さい。

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