「もう、毎日毎日カップルだの縁結びだの、やんなっちゃう!」
立春の空に、悲痛な声がひときわ大きく響き渡りました。
ここは、空京にある小さな神社。
その規模にも関わらず、参拝客で大層な賑わいをみせています。
初詣からひと段落ついた筈のこの時期に、こんなにも人出があるのには理由がありました。
この神社に参拝すると、恋人が出来る。
この神社に詣でたカップルには、幸せが来る。
そんな恋愛交じりの御利益の噂が、どこからともなく流れていたからです。
そして、バレンタインという一大イベントを前に、苦しい時の神頼み、いやきっかけを求めてたくさんの人が押し寄せたのです。
突然の賑わいに、神社は嬉しい悲鳴だったのですが。
悲鳴は、嬉しいものだけではありませんでした。
「ああもうこれ以上カップルや恋人募集の願いを聞かされるなんてもう勘弁!」
それは、巫女のバイトをしていた一人の少女でした。
「早くバイトを終わらせてゆっくり趣味に浸りたいっていうのに……ああ、男×男、女×女、独占欲に人外に……」
少女の口が怪しげに歪みます。
どうやらこの少女、人には言えない趣味を持っているようで……
「そうよ、そういうカップルはたまにしか来ないんだもの! いっそ世の中全てそんなカップルになってしまえばいいのに……!」
ゴゴゴゴゴ……
少女が叫んだ、その時です。
神社の本殿が光りました。
光の中から出てきたのは、弓矢。
おごそかな威光を放つその弓矢は、少女の前で止まりました。
「これは……」
弓矢を手にした少女に、歓喜の表情が浮かびました。
「分かる、分かるわ。ありがとう神様! 私の願いを叶えてくれて!」
少女は矢をつがえると、周囲の参拝客に向かって次々と矢を放ち始めました。
ぷすっ。
「はうっ!」
ぷすぷすっ。
「おぉおっ!」
すると、不思議な事が起こりました。
「あ……あなた、あたしと付き合わない?」
「嬉しいです、お姉様!」
「君こそ僕の探し求めていた相手だ」
「俺で、いいのか?」
周囲の参拝客が次々と愛をささやき始めたのです。
しかも、同性に。
「あなたに会えて良かった!」
「…………」
中には狛犬に話しかけている参拝客もいます。
どうやら彼女が持った弓矢は、刺された者を次々とカップルにしてしまうようでした。
まるで、キューピッドの矢のように。
しかし困ったことに、彼女の弓矢はアブノーマル限定だったのです。
ノーマルな者たちが、次々と狙われていきます。
彼女の矢から逃れる方法は、ただひとつ。
自分たちはアブノーマルだと主張すること……