波羅蜜多実業高等学校

　ホワイトデー間近のその日。
　空京某所にある義勇軍『プラヴダ』の基地を歩いていたジゼル・パルテノペー（じぜる・ぱるてのぺー）とキアラ・アルジェント（きあら・あるじぇんと）の前に一等軍曹レフを含む数人の兵士がやってきました。
「ジゼルちゃん、俺達に料理を教えて下さい！！」
「え……えぇっと……」
　兵士達の若さ溢れる勢いに若干気圧されつつ、ジゼルは聞き返します。
「どう言う事なのか、教えてくれる？」
　明るい微笑みに背中を押されて、レフが説明を始めたのはこんな話でした。
「――実はオレら、ヴァレンタイン・デイにプレゼントを貰ったんだよ。
　それでこの間そのお返しをデパートに買いにいったんだけど……」
　ふむふむと相槌をうちつつ、ジゼルとキアラは彼等の事を少し観察してみます。そういえば彼等はプラヴダの兵士の中でも、特に整った容姿をした青年――所謂イケメン達でした。複数の女の子からプレゼントを貰えたというのも頷けます。
「けどその帰りに……、変態微笑みデブに襲われたんだ！！」
　――変態微笑みデブ。
　それは文字通り微笑む変態デブ・プラヴダ少尉ドミトリーを指す本人公認の渾名です。

「ホワイト・デイ？　そんな乱れた性の儀式に参加するだなんて、君たちイケメンのオ×××は、毎晩どれだけの数のビッチをヌレヌレにしてるんだい？（＊プラヴダの男性一般兵は夜間の基地外行動に、外出許可が必要になります。そのような事が不可能なのは、少尉も当然分かっています）
　このままじゃ隊の規律までもが、そのビッチどものオマタみたいにガバガバのユルユルになるに違いないよ……困ったなァ……。
　そうだ！　そのお菓子、ボクが腹の中に処分しておいてあげるよ。ねぇ？」

　上官の独特のねちっこい口調を真似るレフ。
　ジゼルの頭の中には『ドミトリーが薄笑いを唇に貼付け、肉厚の手を差し出し、そこへお菓子を乗せるよう要求する姿』がアリアリと浮かびます。
「ジーマったら……」溜め息を漏らしているジゼルの横で、珍しい事にキアラが熱く拳を握りしめました。
「あんの変態微笑みデブ！　許せないっスよ！　こんなの……、自分がモテないから嫌がらせしてるに違いないっス！
　ホワイトデイのお返しを横取りするなんて女の子の敵！！
　つーか何時も何時も遠くから『アルジェントは今日はどんなエッチなぱんつを履いてるのかなぁウフフフ』とか言ってきて、マジセクハラキモいんだってば！！！」
　女の子の敵とはあんまりな言いようですが、ドミトリーの普段の素行、そして今回の下官のホワイトデーのプレゼントを奪い取る行為は正直全く庇護出来る部分が無く、流石のジゼルも閉口するしかありません。
「オレら元々所属してる地球の軍隊の給料はすげー少ねーし、プラヴダは衣食住は提供されるけど任務自体はボランティアだから。今月もう厳しくてまた買い揃えんのはちょっと……。
　だから考えたんだけど、手作りなら材料費とラッピングとかだけであんま金も掛からねー、手抜き感ねー。これっていいんじゃね？　って思ったんだよ」
　兵士達はキラキラと輝く瞳で、ジゼルに訴えかけます。
　ただその容姿に胡座をかいているだけではない。女性に対して努力を怠らないこの姿勢こそ、彼等がモテる最大の理由なのかもしれない。ジゼルはそう納得して、大きく頷きました。
「うん、分かったわ。そういう事なら私に出来る事は協力する！
　えーっとまず……、アレクに食堂を使わせて貰えるようにお願いしてみようかしら。それから……」
「話は聞かせて貰ったよ！！」
　片手は壁に、片手は腰に。長い足を交差させる完璧な斜めポーズでそこに立っていたのは、中尉ハインリヒ・シュヴァルツェンベルクです。少々決まり過ぎで、逆に美形が台無しになっている感がありました。
「実は俺もヴァレンタインデイに、恋人から手作りのチョコレートを貰ってね」
「ああ、パートナーさんにあげるついでの」
　どうだ！？　と言わんばかりの表情に、彼と仲の良いジゼルの無意識の突っ込みが入りますが、ハインリヒの唇はにんまりしたままです。バレンタインデーに恋人からチョコレートを貰ったという出来事自体は平々凡々珍しくも無く、別にどうだも糞も無いのですが、ハインリヒにとってバレンタインデーを平穏無事に過ごせたのは初めての体験で、年甲斐も無くはしゃぎたくなってしまったのでしょう。
　――何アレ超痛い。
　そんなキアラの生暖かい視線も端正な顔で弾き返し、ハインリヒは上官らしい威厳をギリッギリで保ったまま、下官達へ話し始めます。
「そこでパラミタにも根付いてきている日本の文化ホワイト・デイでお返しをしようと思い立ったんだ。
　けど三倍返し程度じゃ僕の愛は伝わらない。僕の」重過ぎる「愛を伝えるに相応しいのは、そう、手作り！
　買ったよ、カカオ工場をなッ！！」
「未来に生きてるのねハインツ」
「愛に生きてると言ってくれ。
　……それでまあ当然、余ったから。材料、好きに使いな」
「有り難う御座います！！」
　おかしな言動でも上官は上官と割り切って礼を言う兵士達を見て、ジゼルはにっこり微笑み、ホワイトデーに相応しい様々なレシピをうきうきと思い描き始めます。
「そうだ。折角だから友達も呼ぼうかしら」

　そんな風に楽しげに話しはじめた彼等を、物陰から見つめる人物がありました。
「負負負負負そうウマくいくかなぁ…………？
　君たちイケメンを妬ましく思っているのは、ボクだけじゃないんだよぉ？」
　変態微笑みデブドミトリーと、彼の軍門に下る幾人かのモテ無い兵士達。
　その気配にハッと感づいたキアラは、端末の上で親指を高速で動かし始めます。メールの送信先は、彼女の友人の契約者達。
「見てろよ変態。
　絶対あんたらの思う通りなんかにはさせないっスからね！」
　斯くしてホワイトデーを前に、闘いの火蓋は基地の中で切って落とされるのでした！！

　皆さんこんにちは、東です。
　もうすぐホワイトデーということで、義勇軍プラヴダでは『お料理教室』と『下らない小競り合い』が同時に始まりそうな雰囲気です。なお、舞台となる基地の食堂は、普段から兵士でないお客様も受け入れ歓迎しております。
　今回のシナリオでは、以下のようなアクションで、シナリオをお楽しみ頂けます。
・ホワイトデーのお菓子を作る為、ジゼルにお料理を教えて貰う。
・イケメン兵士達へお菓子作りを教えてあげる。
・キアラとドミトリーの闘いにどちらかの陣営で参加する。
　それでは、皆さんの個性溢れるアクションをお待ちしております。

＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊

・こちらのシナリオでは、以下のＮＰＣにアクションをかけることが可能です。

【ジゼル・パルテノペー】
　レフらイケメン兵士や、ＰＣのリクエストに応えたレシピを教えてくれます。
　定食屋で様々なメニューを作る料理の腕は確かです。

【レフ・ニコラエヴィッチ・ストラヴィンスキー一等軍曹】
　プラヴダには珍しく小柄で童顔の（一応）青年。
　子供っぽい外見がコンプレックスな為、敢えて粗野な態度をとっていますが、それが女性にとって逆に可愛らしく映るようです。
　今回は他のイケメン兵士と一緒に、バレンタインデーに貰った数分のチョコレート菓子を作るつもりのようです。
　彼等とドミトリーとの間には残念ながら大きな階級の壁が有る為、嫌がらせをされると弱いです。

＊

【ハインリヒ・シュヴァルツェンベルク中尉】
　非常に上機嫌で、チョコレートの他にも様々な材料を提供してくれます。所謂財布です。
　その上料理上手で、手伝いもしてくれます。
　またこのシナリオに登場するＮＰＣの中ではドミトリーにとって唯一の上官になる為、彼の一言が鶴の一声にもなり得ます。
　便利、それが中間管理職。
　ジゼルとは違いオシャレなカフェやレストランで提供されるような繊細な（※良く分からん葉っぱがのっている類いだと思って下さい）料理（作る側）を好みます。

【トリグラフ：スヴァローグ、ペルーン、ダジボーグ、スヴェントヴィト、ヴォロス】
　二頭身の団子もとい山羊のぬいるぐみのような容姿のギフトたち。美味しそうなお菓子の香りにつられて、周囲を漂っています。
　料理の手伝いも出来ますが、手は小さく腕も短いので、子供が手伝う程度だと思って下さい。
　また、小競り合いに参加する場合はキアラ側で参加させる事が可能です。

＊

【キアラ・アルジェント一等軍曹】
　ドミトリー達の企みに気付き、仲間を集めて彼等を撃退しようとしています。
　ドミトリーには普段セクハラされている恨みもあって、これを機会に仕返しをしてやろうという魂胆もあるようです。

＊

【ドミトリー・アンドレーエヴィチ・チュバイス少尉】
　通称『変態微笑みデブ』もとい『ジーマ』。
　抜ける様に白い肌、銀髪にアイスブルーの瞳というアニメチックな配色をぶち壊す微笑みを貼付けた本物の変態。
　ねちっこく、常にセクハラと嫌がらせの心を忘れない素敵な人物です。
　そんな彼がレフらイケメン兵士がお菓子作りをすると聞いて、邪魔しない訳がありませんでした。

　ドミトリーと彼の軍門に下った兵士たち：
　これといってパッとしないフツメンから居るだけで女性から蔑まれるブサメンまで、
　『イケメンが憎たらしい』そんな想いからドミトリーのもとに集まった１０人程度の兵士達です。
　行動は基本的に子供の嫌がらせの領域。武器はゴム弾程度しか使用しません。

・お菓子作り♪

・微笑みデブ撃退！