波羅蜜多実業高等学校

　ビルが、燃えています。


　まるで、一本の大きなろうそくのように。


「……私の能力を持ってしてもこの事態を回避できなかったとは、計算外でした。
　あの老人は私の能力の影響を受けにくい、ということでしょうか……？
　ならば、まずはあの老人を始末しなければいけませんね」

　ビルの持ち主である地球の貿易会社『ハッピークローバー』社社長、四葉　幸輝（よつば　こうき）は燃え盛るビルの最上階、パーティ会場で呟きました。
　ビルは多数の機晶爆弾でいくつも大きな穴が開けられ、パーティ会場、テナント階、地下駐車場、そして地下の研究施設の全てで火災が発生しています。
　その機晶爆弾を仕掛けてビルを破壊した張本人、未来からの使者　フューチャーＸ（みらいからのししゃ　ふゅーちゃーえっくす）はビルの屋上に立ち、不敵な笑みを浮かべました。

「ふん……こんな研究施設はビルごと焼き払ってくれる。
　儂はこのために未来からやって来た――この娘の命を救うために」

　フューチャーＸが地下の研究施設から持ち出した３ｍほどの大きさの生命維持カプセルには、一人の少女が入っています。
　褐色の肌を持つ１５歳くらいのその少女は、四葉　幸輝の娘である四葉　恋歌（よつば　れんか）のパートナーです。

「フューチャー・アーティファクトのお陰でこの娘、アニー・サントアルク（あにー・さんとあるく）の肉体は完全に回復している。
　だが……今すぐにアニーをカプセルから出せば……彼女は死ぬ。
　その運命からアニーを救うことが、儂が四葉　恋歌から受けた依頼だ。
　しかし、アニーを……アニーだけ助けても……駄目なのだ……」
　フューチャーＸはそのように主張し、アニーを救出しようとするコントラクターたちを妨害しました。

　そして、四葉　恋歌は地下の研究施設にいます。
「ああ……ようやく……たどり着いたと思ったのに……アニー……どうして……。
　あんな老人知らない……何が起こってるの……。
　みんなお願い……私は本当にどうなったっていい……だから、アニーを……」
　立ち上がる力もなく、天井に空いた穴を見つめる恋歌。

　幸輝は冷酷に、雇い入れたコントラクターに命令を出すでしょう。
「……事件を派手にして世間に研究のことを露見させるつもりでしょうが、そんなものはいくらでももみ消せます。
　それより、最大の不安因子であるフューチャーＸとかいうあの老人を始末してください。
　もし邪魔であれば、最悪アニーは始末しても構いません。そうすることで恋歌の動きを制限できるでしょう。
　まだ恋歌に死なれでもしたら厄介ですからね……もう少しかもしれないのです……。
　今はまだ『幸運を操る力』でしかないこの『能力』を――『運命に介入する力』に進化させるまで……」


　その時でした。


『……まだ、そんなことを言っているのですか……』


「！？」
　幸輝の耳に、誰かの囁きが届いたのです。
「その声――レンカか！？　まさかレンカなのか！？」
　珍しく、動揺した声を上げる幸輝。

「……雪……こんな地下に……？」
「……いや、この熱に近づいても溶けない。雪ではないが……これは……」

　恋歌やフューチャーＸが上を見上げると、空からいくつかの光が舞い降りて来ているところでした。
　いくつも、いくつも。
　幸輝の横をすり抜けて、ふわふわと降りていきます。
　そして、そのうちのひとつが恋歌にも囁きかけました。

　それは、まるで雪のような。
　白くて、透き通るような美しさの。
　ふわふわとして、とてもはかなげな――



『ねぇ、死んでよ恋歌』



　――悪意のカタマリでした。

「え――何――」
　その囁きは少しずつ。
『どうして、まだ生きてるの……？　あなたは四葉　恋歌でしょう？
　四葉　幸輝の犠牲になって死ぬために四葉　恋歌は存在するのだから、あなたは死ななくちゃ駄目じゃない』
「イヤ、何！？　……だって、だってアニーが……」
　少しずつ、恋歌の心に入り込んで。
『アニーは大丈夫、あなたが死んでもアニーが直接死ぬわけじゃない。
　あなたの友達がアニーを見捨てたりする筈ないでしょう？』
「……みんな……いい人……そう……こんな私とも、友達として接してくれる……」
　少しずつ、心の中を食い破って。
『それにあなたが死ねば、アニーはパラミタから解放される。あなたがやらなければいけないこと、でしょ？』
「……うん、アニーをパラミタから解放したかった……地球に帰してあげたい……」
　少しずつ、恋歌がひとつ頷くたびに。
『大丈夫、アニーはパートナーから解放されて地球に帰してもらえる。みんながアニーを助けてくれるよ。
　恋歌は死ぬんだよ。四葉　恋歌は死んだよ。１６人死んだよ。
　まさか自分だけ幸せになるつもりだった？　なれるつもりだったの？』
「そんなことない……アニーが助かれば、それでいい……わた、しは……」
　少しずつ、大事なものを剥ぎ取って。
『そうだよね、じゃあ死ななきゃ。
　どうせみんなは、あなたに騙されて利用されて友達ごっこをさせられていただけなんだもの。
　どうせあなたは、生まれることすら許されなかった存在でしょ？
　どうせ今までも、幸輝の道具としてしか生きてこなかったんでしょ？
　どうせ誰だって、気にしないよ。
　でもアニーはちゃんと助けてもらえる、大丈夫だよ』

「そうだよね……私は、四葉　恋歌だもんね……」

『ねぇコントラクターのみんな、アニーを助けてよ。
　そして四葉　幸輝を殺してよ、彼が生きていたらまた人が死ぬよ。まだまだ多くの人が不幸になるよ。
　私たちの恨みを晴らしてよ――憎いよ、寂しいよ、悔しいよ――』

　そうしてその光――かつて幸輝の犠牲になった１６人の『四葉　恋歌』の亡霊――は、恋歌の周りにたくさん集まって。

「そうか……私が死んでもアニーは助けてもらえる……じゃあ……。
　……生きてちゃ……駄目だよね……。
　でも良かった……みんながいて……アニーを助けるためだけに……。
　私……みんなと友達になったのに……私って……ホント……」

　す、と。　ひときわ大きな光が恋歌の中に入っていって。

「……ホント……ラッキー……だな……」

　恋歌の瞳から、光を奪っていきました――。

　みなさんこんにちは、まるよしと申します。
　今回で１７本目のシナリオ、『ひとりぼっちのラッキーガール　後編』をお送りします。

　このシナリオは、前回の『ひとりぼっちのラッキーガール　前編』に参加していなくても後編のみ参加することができます。

　後編のみ参加する方は前回にあたる『ひとりぼっちのラッキーガール　前編』をご一読くださればと思います。
　以下に、全てのＰＣが知っていてもいい情報をまとめます。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆

　『ハッピークローバー』社の本社ビルは現在、大規模な火災に見舞われています。
　パーティに参加していた一般客の避難は終わり、現在このビルにいるのはコントラクターのみです。

　アニーは今現在、生命維持カプセルの中にいます。
　フューチャー・アーティファクトの力もあって、アニーの生命力は回復していますが、意識は失ったままです。
　しかし、フューチャーＸは今カプセルから出せばアニーは死ぬと主張しています。

　四葉　幸輝はまだパーティ会場にいます。
　四葉　恋歌は地下の研究施設にいます。
　フューチャーＸはビルの屋上にいます。

　前回のラストで恋歌が幸輝の『能力』や、恋歌とアニーとの関係、恋歌本人の事情をビル中に放送するという手段をとったため、全てのＰＣはその情報を持っていて構いません。
　また、地下の研究施設は崩壊していますが機器はまだ生きているため、現在恋歌がいるところまで進めば、前編で手に入らなかった更に深い情報を入手できるでしょう。
　ビルから地下施設までは機晶爆弾で穴だらけにされてしまっていますので、コントラクターであれば移動は容易です。前編でどこにいたかはあまり気にせずに舞台を帰ることが可能でしょう。

　前編で四葉　幸輝に雇われていたＰＣは『未来からの使者　フューチャーＸ』の処分を命令されます。
　また特にアニーを守る必要はないとされ、フューチャーＸを排除するためならばアニーを始末しても構わないと幸輝は命令するでしょう。
　ただし、恋歌自身の殺害は許可しません。パートナーロストのダメージはあっても、恋歌が死ななければ構わないというスタンスです。

　今回から空から降りてきた光、１６体の『過去の四葉　恋歌の亡霊』が登場します。
　彼女らは、過去において幸輝の『能力』の犠牲になり、四葉　恋歌として死んでいった過去の『恋歌』の亡霊であり、幸輝を憎み、恨んでいます。
　またそれと同様、何故か３年もの間を無事に過ごしてきた現在の四葉　恋歌をとても妬んでおり、どうにかして死に導こうとします。
　そして恋歌に直接憑依したのは、１６体の亡霊の他のもう１体『レンカ（と呼ばれた女性）の亡霊』です。彼女がどういう存在なのかはまだ明らかにされていませんが、幸輝と縁があり、幸輝と現在の恋歌を殺そうとしていることは間違いありません。
　恋歌を守ろうとするならば、全部で１７体の『亡霊』を何とかする必要があります。


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・掲示板であいさつをお願いします。
　ＭＣもしくはＬＣで『あいさつ掲示板』に書き込まれた場合、最初の発言のダイス目が『合計で６以下』だった場合、スタート時点で『恋歌の亡霊』に憑依されてしまいます。
　憑依されるのは、参加するＭＣかＬＣの中から１ＰＣだけを指定できます。
　亡霊に憑依されてしまったＰＣは精神的な攻撃を受けて一時的に正気を失い、直接的、あるいは間接的に幸輝や恋歌を殺そうとします。
　どのようにして回復にトライするかをアクションで指定してください。
　しかし、憑依されたＰＣはより深く彼女らと交わることができるかも知れません。
　また、『あいさつ掲示板』への書き込みをしなかった場合、リアクションの中で憑依されることはありません。


　今回のシナリオでは、主に以下のような行動をとることができます。


・恋歌を救う。
　生きる希望やアニーへの想いを失ってしまった恋歌の正気を取り戻します。
　現在恋歌は『レンカの亡霊』に取り付かれており、簡単にその憑依を解くことはできません。
　また恋歌自身はコントラクターでありながら、全く特殊な（魔術や超能力など）力を持っていませんので、自らその憑依を解くことも不可能です。
　そしてそもそも、根本的に恋歌には自分の身の安全や命、未来への執着が感じられません。
　もとより存在しないものをどのように恋歌に思い起こさせるか、がポイントになる行動です。
　はっきりとは明かされていない恋歌の『能力』を探ったり予想したりすることで、彼女の人生の指針を見つけることができる……でしょうか？


・アニーを救出する。
　フューチャーＸはアニーが入ったカプセルを警護し、アニーをカプセルから出そうとする者を攻撃します。
　アニーの救出は当初からの恋歌の依頼であり、恋歌が正気を失った今でも、その願いは変わりません。
　しかし恋歌はフューチャーＸとの面識はなく、彼のことは何も知りません。
　その両者の齟齬の理由、フューチャーＸ自身の行動目的を探ったり予想したりすることで、アニー救出の手助けになるでしょう。
　いかにしてフューチャーＸを倒す、あるいは説得するか、がポイントの行動です。


・幸輝と対峙する。
　全ての事の発端である四葉　幸輝と直接対決することで、事態の収拾を図ります。
　幸輝はすでにモラルや人道というものが欠落し、自らの『能力』の研究に取り憑かれた狂人です。
　その幸輝にあえて人道を説き、人間としての理性を取り戻させるのか。
　それともこちらも人道を外れた『殺害』という手段を選択するのか。
　ですが、幸輝自身も自らの『能力』を活かして戦うことができ、パラミタに来てからの３年間で魔術や超能力を身につけていますので、簡単に殺せる相手ではありません。
　説得するならばその論法が、戦うならばいかにして幸輝の『能力』を封じるか、がポイントの行動です。
　また幸輝は、現在恋歌に憑依している『レンカの亡霊』に対してだけは、冷静さを失う傾向にあるようです。
　もちろん『幸輝の依頼を続行する』、または『新たに幸輝の依頼を受けてフューチャーＸを狙う』ことも可能です。


・亡霊を排除する。
　実体を持たない亡霊は、憑依していない状態でもＰＣ達に精神攻撃をしかけ、恋歌や幸輝を守ろうとするものを排除しようとします。
　精神攻撃以外にも様々な魔術で攻撃を仕掛けてきますが、こちらの物理攻撃は効きにくい状態です。なんらかの属性を付属した攻撃の方が効きやすいようです。
　それなりに強力な１７体の亡霊をどのように攻撃していくか、がポイントになる行動です。
　そして何故今、彼女らが降りてきたのかを探り、予想することで事態を解決に導けるかも知れません。

　もちろん、これら以外のアクションもお待ちしております。

　武装・スキルはアクションを投稿時の装備がダイレクトに反映されますので、アクション内で装備やスキルを使う場合にはご注意ください。
　残念ながら他ＧＭ様のシナリオは基本的に参照できませんのでご了承下さい。キャラの関係などをアクション内で『〜ということがあったので』と説明がある場合はその範囲内で表現したいと思います。
　公序良俗に反するアクションは採用できませんのでご注意下さい。

　恋歌、幸輝、アニー、フューチャーＸの他に登場するＮＰＣは、まるよしの管理下にある以下のＮＰＣに限ります。
　アクションがかからなかった場合、リアクションに登場しないことはあります。
　各ＮＰＣの詳細につきましては、お手数ですがマスターページをご参照下さい。

・ブレイズ・ブラス（シャンバラ人）……「フューチャーＸ！　何故あんたがそのペンダントを持っている、答えろぉ！！」
・ツァンダ付近の山　カメリア（地祇）……「えーと……色々大変なことに巻き込まれたようじゃが……恋歌の奴は大丈夫かの？」
・冬の精霊　ウィンター・ウィンター（精霊）……「パ、パーティでご馳走を食べていたら突然の爆発でスノー！！　大変でスノー！！」
・春の精霊　スプリング・スプリング（精霊）……「……色々と欲深いね、人間ってヤツは……で、ピョン」

　それでは、よろしくお願いいたします。

・四葉　恋歌を救う

・アニーを救出する

・四葉　幸輝と対峙する

・亡霊を排除する