葦原明倫館

「わたしは死んでも、ハイ・シェンは死なない。再び災いが降りかかれば、新たなハイ・シェンが生まれ、プレッシオの敵を殺すだろう」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　人喰い勇者ハイ・シェンの伝説　最後の言葉より抜粋

　――――――――――

　自由都市プレッシオ。
　その街はシャンバラ・カナン間の空の孤島にあります。
　立地などの関係のためか、かつての自然災害や国家間の争いの影響も少なく、また、古くから自立性が非常に高くもありました。
　過去に、この街独自の「王」も存在していたほどです。

　都市の「悪王」からの独立を記念して、街の中央に建てられた動かない時計塔プレッシオ。
　街外れの野原に咲き乱れた一面の鈴蘭畑。数百年前、自由都市プレッシオを悪王の圧政から解放させた人喰い勇者ハイ・シェンの伝説。
　時の流れに取り残され、歴史のある建築物が色濃く残るこの街は、別名御伽の街と呼ばれ観光業により繁栄していました。

　そんなこの街で、一世一代のカーニバルが行われようとしています。
　一週間にかけて行われるその催事は、人喰い勇者ハイ・シェンの生誕三百年を祝うためのものです。
　お陰で自由都市プレッシオは昼夜活気に溢れ、町民はこれから起こるであろうお祭りに想いを馳せて、せわしなく準備を進めていました。

　しかし、その裏。
　騒がしい日常に包まれたこの街の暗部で。
　ゆっくりと、けれど確実に。
　悪意と憎悪がこの街を侵し始めていました。

　カーニバル、数日前
　自由都市プレッシオの裏社会を仕切る犯罪結社コルッテロは、この街を掌握するための計画の最終段階に入ろうとしていました。

　カーニバル、前日
　コルッテロの構成員である獣人の少女――リュカは計画を破綻させるため、計画の鍵を持ち出し逃げ出しました。

　カーニバル、一日目
　高校の卒業旅行で観光のためにこの街にやって来た日本人の少年――彦星明人は、傷だらけになったリュカと出会いました。

　カーニバル、二日目
　明人の従者であるヴァルキリー――アルマ・ウェルバは一日目以降、音信不通となった明人を心配して公安組織に捜索願いを出しました。

　カーニバル、三日目
　カーニバルが行われる一週間、警備を任された特別警備部隊のリーダー李　梅琳（り・めいりん）に、明人の捜索が要請されました。

「――運命の歯車が軋む。動かぬはずの秒針が揺れる。
　御伽の街の時計塔のように止まっていた時間は進み始めた」

　カーニバル、四日目
　宵闇。ビルの屋上にて夜風を浴び、一人の少女が美しい金髪をなびかせます。

「動く、動く、動く。回る、回る、回る。
　めくるめく発条仕掛けのように、動き出した運命はもう止まらない」

　月明かりに照らされたその少女――ヴィータ・インケルタ（う゛ぃーた・いんけるた）は端正な唇に手を当てます。

「さあ、ゲームのハジマリよ」

　ヴィータの顔に、闇色の笑みが広がっていきました。

「踊れ、踊れ、契約者たち。力を示せ。世界に示せ」

　唇が半月を描きます。底知れぬ昏い笑みは、哄笑に近いほど大きくなりました。

「最後に笑うのは、他の誰でもなくこのわたしなのだから――」

　ヴィータの言葉とほぼ同時。彼女の視線の先で、花火が打ち上がります。
　それは喧騒に包まれた深夜に。
　彩るように火の花をパッと咲かせ。
　燃え盛る花弁を地面へ枯れ落とします。

「きゃは♪」

　ヴィータは恍惚とした瞳で花火を見ながら、嗤いました。
　星影さやかな夜。木霊する花開くような、美しい音色。
　それが始まりでした。
　数多の想いが渦巻く、凶暴で無慈悲な街をめぐる騒乱の始まりでした――。

　こんにちは。初めましての方は初めまして。小川大流です。
　この度、初めてキャンペーンシナリオを担当させて頂くことになりました。
　二部構成を予定していますが、どうなるかは分かりません。よろしくお願い致します。

　今回の主な目的はリュカと彦星明人を探し出すことです。
　彼女らは逃避行を続けており、コルッテロがその後を追っています。
　また、今回は私の以前のシナリオで登場したキャラクターが再登場します。
　しかし、そのシナリオに参加していない方、内容を知らない方でも全く問題ありません。該当シナリオ参加、という点だけで判定が特に有利に働くということもありません。

　また、今回のシナリオはカーニバル五日目となります。
　最後に、今回は登場ＮＰＣが多いです。申し訳ありません。

　ここからはシナリオガイドに書かれていない補足情報になります。

　――――――――――

■リュカと彦星明人を探す場合

　人の多く集まる観光名所の、動かない時計塔プレッシオ、一面の鈴蘭畑、ハイ・シェンの所縁の地などで聞き込みをすると良いかもしれません。
　また、自由都市プレッシオの街中を徘徊するコルッテロのメンバーを締め上げて、問答するのも良いかもしれません。
　しかし、コルッテロのメンバーも同じことを考えているようで、その三箇所に多く集まっています。特別警備部隊の存在も耳に入っているため、戦闘になることは必須でしょう。
　市街戦となるため、その三箇所には人が多く、建物などの遮蔽物が多いです。

▲ヴィータ・インケルタが操る禁忌の魔法

　人間を生贄にすることで禁忌の存在を召喚する、彼女だけが知っている魔法です。
　この魔法の総称を世界の異物と言います。所以は、強力すぎて世界には存在してはいけないものだからです。
　彼女の言うゲームとは、主にこの魔法の実験という要素が強いようですが……。

●コルッテロ

　自由都市プレッシオの裏社会を仕切る犯罪結社です。
　彗星の如き速度で台頭し、瞬く間に裏社会を牛耳った歴史を持ちます。現トップはアウィス・オルトゥスです。
　組織の定義は「利益が出るなら、どんなことでもする」。麻薬の密売や殺人などに始まり、幼児誘拐や魔法道具を用いた洗脳による暗殺者の育成、販売などを行っています。
　豊富な資金力を生かして傭兵を雇っているようです。主に雇っているのはゲヘナフレイムという戦闘集団とラルウァ家という殺し屋一家です。
　この街の全てを掌握するため、リュカの持つ鍵を取り返したいようですが……。

●ゲヘナフレイム

　多人種で構成された戦闘集団です。
　誇りや忠義を持たず冷徹且つ残虐な性格を持ち、土地を転々として傭兵業に勤しんでいます。
　十五歳で成人と認定され、その際に舌に業火の刻印をつけられ、英才教育を受けた戦闘のプロ集団でもあります。
　この集団を作ったのは現在の長であるエリュシオンの元第三龍騎士団の龍騎士崩れです。
　肥大化し過ぎて飛ぶことの出来なくなった巨大な竜、イグニートを調教し、その背中に集落を築いています。集団内の人員は獣じみた思考を持ち、獲物を見つけると舌なめずりをおこなう癖を持ちます。
　部族内同士の結びつきは堅く、仲間意識は強いです。

●ラルウァ家

　パラミタで噂だけが歩いている家名です。
　闘争と、そして暗殺を生業とし、「戦慄のラルウァ家」と忌み名がついています。
　一応血族ではあるが、能力が優れ著しい成果を挙げた者は一族に入ることがあります。そのため、一族内でも種族はバラバラです。
　歴史は長く、パラミタ内で起こったあらゆる戦争や派閥争いなどに登場しています。
　※今回のシナリオではバトルには参加しません。が、探せばどこかで出会えるかもしれません。

●特別警備部隊

　外部の契約者たちで構成された部隊です。
　自由都市プレッシオの上層部にカーニバルが行われる一週間の警備強化を要請されて、この街にやって来ています。
　そのリーダーは李　梅琳です。他にもスナイパーの強化人間、煤原大介や機晶姫のフランが在籍しています。

●ヴィータ・インケルタ

　コルッテロに雇われているようです。
　が、何かを企んでいるようです。今回は戦闘になれば逃げ出すかもしれません。

◆ＮＰＣ

　リュカ
　十六歳　女性
　種族：獣人（狼の獣人）　クラス：盗賊（ローグ）
　家名も称号もない獣人の少女です。
　コルッテロに両親と弟を殺されていて、天涯孤独。その時に誘拐されて、洗脳を受けて暗殺者となりました。
　が、今は同じ境遇の組織の友人の協力により記憶を取り戻し、計画の鍵を持ち出し逃げています。
　家族と過ごした幸せだった記憶や、悲惨ながらも友人と過ごした記憶があるため、自由都市プレッシオを生まれ故郷として愛しています。意思が強く健気な少女です。
　今は、逃げています。

　彦星明人（ひこぼしあきと）
　十八歳　男性
　種族：地球人　クラス：トラベラー（旅人）
　高校の卒業旅行でパラミタにやって来た十八歳の少年。カーニバルの噂を聞いて自由都市プレッシオに。
　天涯孤独の身だが、両親が残してくれた財産があるため不自由はしていない良家の坊ちゃんです。
　今は、音信不通です。

　アルマ・ウェルバ
　二十一歳　女性
　種族：ヴァルキリー　クラス：セネシャル（家令）
　没落貴族レーヴァンテイル（登場シナリオ：忘れられた英雄達）家の子孫です。何代前かに借金返済のため家名は商人に売り払っています。
　名前は偽名です。今は住み込みで彦星家に仕えており、稀に口が悪くなるのは遺伝のようです。メイド服を着ています。
　趣味は喫煙。腕がすこぶるに立ち、従者としての技能もほぼ完璧です。あらゆる武器の扱いに通じていますが、中でもマスケット銃がお気に入りのようです。
　西洋さながらの家を古いと嫌い、それゆえ東洋に興味を持ちました。日本関係の物が大好きで、密かに大和撫子に憧れている部分があります。
　今回は、特別警備部隊と共に一面の鈴蘭畑に向かうようです。

　【コルッテロ】

　ルベル・エクスハティオ
　二十歳　女性
　種族：シャンバラ人　クラス：ドラゴンライダー（龍の乗り手）。
　ゲヘナフレイムのメンバーです。
　ぼさぼさの赤髪が特徴的な少女で、ゲヘナフレイム内でエースと呼ばれるほどの実力者です。
　卓越した実力もさることながら、絶対的な判断力と芯を曲げない強い精神力を持ちます。姉御肌であるが、時折乙女らしい仕草をします。
　普段は自他共に厳しいが、稀に見せる健気さにハートを射抜かれた野郎共も少なくはありません。ゲヘナフレイム内ではアイドル的な人気を博しています。
　今回は、動かない時計塔プレッシオに向かうようです。

　ベリタス・ディメント
　二十七歳　男性
　種族：守護天使　クラス：ケンセイ（拳聖）
　ゲヘナフレイムのメンバーです。
　性格が破綻していて、ゲヘナフレイム内でもずば抜けたキチガイ。種族に反した異端児で、ゆえに郷土から追い出されました。
　四肢を切断して放っておいたり、目と耳を壊して帰ったり、相手を苦しめながら殺すのが性癖です。見下した口調がデフォルトで、超攻撃的な性格でもあります。
　今回は、一面の鈴蘭畑に向かうようです。

　ストゥルトゥス
　？？歳　男性
　種族：奈落人　クラス：ネクロマンサー（死霊術師）
　（登場シナリオ：亡き城主のための叙事詩）
　ゲヘナフレイムの客人で、夜のような男です。また、この名前は偽名であり、本来は愚者と名乗った壮年の容姿の男性です。
　憑依した身体の都合上、実力はあまり出せないので、策士に徹しています。
　今回は、ハイ・シェンの所縁の地に向かうようです。

　ヴィータ・インケルタ
　コルッテロに雇われているようです。
　が、何か他に企んでいる様子です。今回は戦闘になれば逃げ出すかもしれません。

　【特別警備部隊】

　李　梅琳
　特別警備部隊のリーダーです。
　今回は、動かない時計塔プレッシオに向かうようです。

　煤原大介（すすはらだいすけ）
　十八歳　男性
　種族：強化人間　クラス：スナイパー（狙撃手）
　（登場シナリオ：機械仕掛けの歌姫）
　記憶を失っていたが、他の契約者の協力のお陰で取り戻した強化人間の少年です。
　狙撃の腕は一級品で、フランの恋人でもあります。正義感の強い性格です。
　今回は、ハイ・シェンの所縁の地に向かうようです。

　フラン
　十三歳　女性
　種族：機晶姫　クラス：特になし
　（登場シナリオ：機械仕掛けの歌姫）
　機晶都市ヒラニプラの一大計画で生まれたが、失敗作として捨てられた過去があります。
　一時声を失っていましたが、他の契約者の協力によって取り戻しました。大人しく礼儀正しいが、案外毒舌です。
　今はシャンバラ教導団の衛生科に所属しており、大介が警備に行くということで自分も半ば無理やりついて行きました。
　今回は、ハイ・シェンの所縁の地に向かうようです。

・特別警備部隊として行動

・コルッテロに雇われた傭兵として行動

・情報収集を行う