【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第2話/全3話) リアクション公開中! |
シナリオガイド錯綜する思惑。深まる謎。愛と憎とは表裏一体。混沌と秩序も……然り
シナリオ名:【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第2話/全3話) / 担当マスター:
桂木京介
この季節でも夜ともなれば冷えます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ おぼろな月からの光を、彼は背中に浴びています。 葦原明倫館の仁科 耀助(にしな・ようすけ)です。彼は両脚を揃え腕組みし、細長いオブジェの先端で、ヤドリギに憩う鷲のように静止しているのでした。オブジェは公園に設置された尖塔で高さは十数メートルに及び、足場といっても直径二十センチもないような部分しかありません。 「……」 彼は夜の公園を往く、黒い姿の女性を見おろしていました。 彼女は耀助の姿に気づいていないようです。 「苦しいんだよな……わかるよ」 耀助はそっと呟きました。 このときの彼の、哀しみすら感じさせるほどに一途な表情を、知る者はどれだけいるでしょう。自他共に認める軽薄なプレイボーイの姿はそこにありません。 黒い姿は既に、ただの女性ではありませんでした。 顔が真っ黒――どす黒い鱗です。ドラゴニュートに似ていますが、彼らのような知性はあまり感じられません。ライダースーツのような黒いツナギを着ており、前屈みになって歩いています。 彼女はまるで、夢遊病者のようにさまようのです。 けれど耀助は、降りていって彼女に声をかけたりはしません。ただ、その姿を遠目に見つめるだけでした。 今夜も動きはなさそうです。もうしばらく耀助は傍観の夜をすごすほかないのでしょうか。 冷たい風が、横笛のような音を立てました。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ グランツ教ツァンダ支部には、吹き抜けのフロアに特設された礼拝堂が存在します。 明け方の礼拝堂。彼女は、ほの白い旭日の光を浴びていました。 「人々に、自由を」 グランツ教の『マグス(東方の三博士)』、カスパールです。一見、若く美しい女性ですが、よく見ればどこか年齢不詳のところもあり、なにやら底知れぬ印象を与える姿でした。 「世界に、責務を」 カスパールの声に人々が唱和します。 礼拝堂には数十人もの信徒の姿があるのでした。彼らは早朝礼拝のために来たのです。礼拝堂には暖房設備はありません。ですのでここにいるのは、昨夜から続く身も凍るような寒さをものともせず集まった人々なのです。年齢も性別もバラバラ、けれどその大部分が、すがるような目をカスパールに向けていました。 「そしてすべての……完全なる調和を」 カスパールの声に、全員の声が被さりました。 ですがその声を突き破るかのように、 「邪教の神官め! 死ぬがいい!」 一人の信者が立ち上がりました。彼は血走った目で、腰から拳銃を抜き両手で構えたのです。 「天誅ッ!」 乾いた銃声がひとつ、谺(こだま)しました。 いえ、ひとつではありません。立て続けに、数発。 男とカスパールはわずか数歩の至近距離にありました。止めようがありません。 ところがカスパールは凄艶な笑みを浮かべ立っているではありませんか。硝煙の匂いこそあれ、あの、錆のような血の臭いはありませんでした。 先に言っておきます。銃弾は外れたわけではありませんでした。 ですが、命中したわけでもありませんでした。 「そんな……はずが……そんなはずながないッ!」 男は、信者数人に飛びかかられ拳銃も奪われています。まるで無抵抗でした。 彼が素直に武器を渡したのは、目の前の光景が信じられなかったからに違いありません。 カスパールの唇の赤が三日月型に歪んでいました。 「ご自身の常識でだけで、容易に物事に判断をしようとするものではありませんわ。それを先入観と申します……先入観に囚われていては、道を見失うのみです」 カスパールが片手を上げると、彼女の皮膚ないし服に触れる寸前で止まっていた弾丸が三つ、バラバラと床に落ちました。弾丸はまるで時間が止まったかのように、数センチの距離で空中停止していたのです。 暗殺犯の男は警備の者が引き立てていきました。男は呆然として、声を出すこともかなわない様子でした。 「私はかつて、銃撃を受けたことがありましてね……」 と、ふとカスパールが独り言を口にしたのですが、男はきっと、聞いていなかったでしょう。 当然、信者は騒然としていますが、「静粛に願います」とカスパールが少し声を上げると、水を打ったように静まり返りました。 まるで何事もなかったかのように彼女は一礼し、今朝の礼拝が終わったことを告げました。 「……さて、私は少し、疲れました。これからしばらく、自室にて行(ぎょう)に入ります。どうしても用事がない限りは立ち入らないで下さいませ……もっとも、私の部屋のドアは、簡単には開きませんけれども」 と言い残すと、カスパールは春風のように悠然と自室に消えてしまいました。 行、というのはグランツ教でいうところの瞑想のことです。瞑想によって自我と向き合うことをこの宗教は推奨しており、カスパールのような高位の者であれば、行の期間は数日にも及ぶと言います。 グランツ教ツァンダ支部におけるカスパールの部屋は、決して判りにくい場所にあるものではありません。むしろ、誰でも簡単にたどり着けそうな目立つところにあります。ただしそのドアには不思議な特徴がありました。鍵穴や電子ロックの設備はなく、奇妙な文字盤が中央に取り付けられているのです。 文字盤上方のパネルには漢字が一文字だけ描かれており、その下にゴルフボール大の穴が四つ、水平に並んでいます。さらには皿のようなものが脇に設置されていて、中に金属球が四つ入っていました。 どうやらこのボールをいくつか穴に入れるとドアが開くもののようです。穴は金属球が一つ入ると埋まってしまう構造でした。 ここで、穴に球が入って埋まった状態を『●』と表現するものとします。また、穴が埋まっていない状態を同様に『―』とします。現在、穴は四つとも埋まっていませんので、『―、―、―、―』という状態です。 漢字パネルは何度か変更されてきたようです。これまでの情報をお伝えしましょう。 漢字パネルの文字が『宋』だったとき、扉は『―、●、●、●』の組み合わせで開きました。つまり、一番左の穴を残して、他のすべての穴に球を入れた状態です。 漢字パネルが『元』だったとき、扉は『―、●、―、―』の組み合わせで開きました。このときは球を一つしか使っていないということになります。 漢字パネルが『清』だったとき、扉は『●、―、●、●』の組み合わせで開いています。 さて本日、漢字パネルは『明』とあります。中国の王朝名のようですね。このとき、球をいくつどのような組み合わせで穴に入れれば扉は開くでしょうか? どうやらこの謎を解かない限りカスパールの部屋には入れないようです。 間違えれば警報が鳴り響くかもしれません。軽々しく手を出すべきではないかもしれません。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ その日の朝、蒼空学園を訪れたアルセーネ・竹取(あるせーね・たけとり)は、校長にあることを申し出ていました。 「希望する方に龍の舞を伝授したいと思います。本来、門外不出のこの技術でしたが、現在の情勢を鑑みるに、私一人が修得しておいてよいものではないと判断しました。 龍の舞は龍への捧げものです。猛る龍を鎮めるが本意ですので、好戦的な方には不向きかもしれません。ただし、激しい部分を持ちながらも、ときとして心を水のように静かにできる人であれば、きっと体得できることでしょう。 一挙一足に厳しい作法がありますので、急ぎという事情もあっていささか峻烈な指導になるやもしれません。それでも、どうか、一人でも多くの人に龍の舞を身につけていただきたいのです。遠からずこれが、必要になる日が来ます。 人を集めてくださいませんか。希望する方であれば所属も男女も問うことなく……」 申し出は、受理されました。 担当マスターより▼担当マスター ▼マスターコメント
お読みいただきありがとうございます。ツァンダを舞台としたキャンペーンシナリオ、第二話の登場です。 ▼サンプルアクション ・ローラ・ブラウアヒメルを追って事件の黒幕を見つける ・カスパールに接触する ・ドラゴニュートらしき人物を誘い出す ・アルセーネ・竹取から『龍の舞』を習得する ▼予約受付締切日 (既に締切を迎えました) 2012年11月06日10:30まで ▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました) 2012年11月07日10:30まで ▼アクション締切日(既に締切を迎えました) 2012年11月11日10:30まで ▼リアクション公開予定日(現在公開中です) 2012年12月03日 |
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