葦原明倫館

――世界樹イルミンスール中層　イルミンスール魔法学校　展望台　深夜

「七夕に　かしつる糸のうちはへて　年の緒長く　こひやわたらん」

　一人の少女が星空を見上げていた。
想いを託した短冊は夜風に吹かれ赤い軌跡を残してどこかに消えていった。



――世界樹イルミンスール下層　イルミンスール魔法学校　東回廊　早朝

　紅汀（くれない・なぎさ）が欠伸を噛み殺しながら歩いていると、すれ違っていく男子生徒の独り言が耳に入ってきました。

「こんな方法を思いつくなんて……。やはり俺は天才だ！」

　瞳を輝かせた男子生徒は飛び跳ねながら汀から離れていきました。

「な、なんなのかしら？」



――世界樹イルミンスール下層　イルミンスール魔法学校　エントランス　早朝

　エントランスに巨大な竹が聳え立っていました。

「な、な、な、――なんですか、これは！」

　汀は天を貫くように屹立する巨大な竹の異様に、そして、竹の周囲に蠢く普通ではない様子の生徒たちの姿に、立ち尽くすしかありません。

「プラチナ、ダイヤモンド、ルビー、なんでもある！　これで触媒には苦労しないぞ！」
「ああ、そんな、やめて下さいまし。ああ、違います。嫌ではないのです。あの、でも、私、まだ心の準備が――」
「奴を倒したと言うのに、なんだこの気持ちは……くそっ！」
「俺のコンサートに来てくれて有難う！　心を込めて歌います！」

　叫んでいたり、悶えていたり、暴れていたり、歌っていたり――濁った瞳で彼方を見つめ、虚空に手を伸ばしています。
とにかく生徒たちが正気ではないのは確かです。

　竹の横には一枚の立て看板がありました。

七夕についての説明

七夕は日本の伝統的な風習です
短冊に叶えたい願いを書き込んで竹に吊るして下さい
願いが叶うかもしれません

イルミンスール魔法学校　校長　エリザベート・ワルプルギス（えりざべーと・わるぷるぎす）

「ああ、これは私のせいってことですか、そうよ、ね」

　汀は呟くと深く深く溜息を吐き出します。
エリザベートに七夕を教えたのは汀だったからです。

「竹の先端に大きな短冊が掛かってるわ。校長の署名もある。その隣に普通の赤い短冊が掛かってる」

　汀の隣に居た女子生徒が何事か呟きました。
光学系魔法を応用した千里眼で竹の様子を観察しているようです。

「ここから読めそうですか？」
「少し待って、揺れてて焦点を合わせづらいの。ああ、何か視えた。赤い短冊の署名は――『紅』、ぐぁ……」

　首筋を一閃――。
汀は女子生徒を昏倒させました。

「はぁ、はぁ……。ふ、うふふふ、ふふ。なんで私の短冊があんなところにあるのよ！」

　目を血走らせた汀が校長室に向かってゆっくりと走り出そうと――しますが、一歩踏み出したところで足が止まります。

「ああ、でも短冊もどうにかしないと……。どうしよう」

イルミンスール魔法学校のエントランスに巨大な魔法の竹が出現しました。
エリザベートの言葉を信じるならば願いを叶えてくれる至高のマジックアイテムですが、短冊に願いを託した生徒の多くは正気を失っているようです。
しかし、まだエリザベートの悪戯、或いは、出来損ないのマジックアイテムなどと決め付ける事は出来ません。
本当に願いを叶えた生徒も数人居るようなのです。
これはどういうことでしょうか？
魔法の竹を用意したエリザベートの真意はなんなのでしょうか？

魔法の竹の頂きにはエリザベートの短冊と汀の短冊がかけられています。
そこには一体、何が書かれているのでしょうか？

エリザベートに七夕を教えた汀は校長室に殴りこみをかけるか、自分の短冊を回収するか迷っているようです。
校長室の防衛魔法は敵意に反応して作動します。
怒り心頭の汀が行けば校長室に行ってエリザベートに話を聞く事は困難になります。
汀が短冊の回収を選択すれば赤い短冊に何が書いてあったのか永遠に謎のままですが、それで良いのかもしれません。

・竹に願いを託してみる

・問答無用で竹を破壊する

・汀をなだめる

・エリザベート・ワルプルギスに問いただす

・短冊に何が書いてあるか確かめる