葦原明倫館

　ヴァイシャリーの青年・フェルナン・シャントルイユ（ふぇるなん・しゃんとるいゆ）が企画した百合園女学院校長・桜井静香（さくらい・しずか）と巡る観光船は、無人島での二日目の夜を迎えようとしていました。このまま何事もなければ、翌朝には出航、お昼にはヴァイシャリーの街に到着の予定です。
　しかし、そう上手くはいかないようです。

　まず、夜中に島に近づいてきた、一隻のガレー船。それはオレンジ色のくちばしに黄色のボディに塗られた、アヒル型。マストの先にパラ実の旗が翻っています。
　恐らく初日に撃退した湖賊の仕返しなのでしょう。
　こちらの武器は、船本体の衝角に、カタパルトとバリスタ（大型の弩）。
　対してパラ実生が乗った敵アヒルガレー船の大きさは現在生徒が乗船している船とほぼ同じ大きさでしたが、前回の反省を踏まえたのか、大砲を何台も備えています。それに、ガレー船とは言っても三本のマストを備え、三角の帆を風で膨らませて、かなり速いスピードで迫ってきています。
「あの船の大きさから言って、三百人ほどは乗れそうですね」
　フェルナンは企画の責任者として、船長及び船員と協力し、降りかかる火の粉を払うつもりのようです。
「船はすぐに出航させましょう。壊されてしまっては、帰りの足がなくなってしまいますからね」
　目視できる限りだと、乗船しているのはパラ実生──パラ実生を名乗る、地元の蛮族のようです。

　ラズィーヤ・ヴァイシャリー（らずぃーや・う゛ぁいしゃりー）はというと、優雅に扇で扇ぎながら、
「ヴァイシャリー家は私掠免許など与えた覚えはありませんわ。湖賊の方は遠慮無くおまかせして、こちらはゆっくり眠らせていただこうかしら、ね、静香さん？」
「……ラィーヤさん。僕も……僕もお手伝いしてもいいかな？」
　静香はラズィーヤとは違う意見のようです。
「別に敵船に乗り込んでどうにかしようって考えてる訳じゃないよ……今朝みたいに、みんなに心配かけちゃうから。でも、何かできると思うんだ。ご飯作ったり、手当てしたり」
「それならわたくしも起きて、皆さんとお茶でもしようかしら。生徒達も、こんなことになって不安に違いないわ」
　ラズィーヤの方は、ラウンジでお茶会を開くつもりのようです。シェフに命じて、いつも通りのアフタヌーン・ティをするといいます。
「それにしても、静香さんが自分からそう言い出すなんて、何かあったのかしらね？」
「なっ、何にもないよ！」
　静香はぶんぶんと勢いよく首を振りました。
　そうは言ったものの、彼女自身には、今回の船旅で気にかかっていたことがあるのです。というのも、彼女は校長職にありながら生徒達に頼りっぱなしで、心配ばかりかけているからです。そのくせみんなに嘘をついていて、それがずっと後ろめたい気持ちになっているのでした。

　一方、フェルナンのパートナーである百合園生の村上　琴理（むらかみ・ことり）は、自分に海戦の心得がないということで、ゆるスター賭博から保護したお嬢様方及び、ゆるスターのお世話をしています。ゆるスターをお世話しているのは、ヴァイシャリーに戻り軍が来るまでに、ゆるスターが餓死してしまうからです。
　ちなみに賭博の胴元達は、捕まって船倉に放り込まれ、回収された証文などの資料はフェルナンの部屋に、装飾品類は船長の金庫に置いてあります。資料及び賭博の胴元の証言によると、どうもゆるスター賭博には黒幕がいたらしく、それが誰なのか口は割りませんが、ヴァイシャリーで金を持つ人物のようです。
「この子は……、“真珠”？」
　琴理が着ぐるみを脱がせ、手入れをしながら目を留めたのは、一匹の真っ白なゆるスターでした。美しい毛並みと気品に満ちあふれた姿には見覚えがあります。ゆるスターは上流階級の間で飼うことが流行っていますが、彼女はヴァイシャリーの社交界ではその美を称えられた、通称“真珠”と呼ばれる、有名なゆるスターです。生徒達も、パーティに出席したことがあれば、目にするか噂に聞いたことはあるでしょう。
「ヴァイシャリー軍に任せる前に、私と彼で……」
　彼女はそう呟くと、元の、薄汚れたままのねずみの着ぐるみを被せました。

　百合園女学院、ヴァイシャリー湖での冒険シナリオ第３話です。
　今回のシナリオは１話ごと、全３話のシナリオとなっており、今回が最終回です。
　各話はストーリー上繋がっていますが、出来事に関しては独立しているため、今回からの参加も大丈夫です。

　また、ヴァイシャリー湖上の観光（或いはお宝）を目的とした船旅のため、特に学校や男女の別での行動制限はありません。
　ただ、船室では男子と女子で客室が別れており、相互の夜間の行き来は禁止になっています。

・パートナーと夏休み

・湖賊と戦う

・静香と共に衛生兵

・ラズィーヤとお茶会