シナリオガイド
絵の見る悪夢に囚われた人々を、悪夢に飛び込み救い出せ!
シナリオ名:【DD】『死にゆくものの眼差し』 / 担当マスター:
瑞山 真茂
空京美術館がついに開館の日を迎えました。
常設展示物はこれまでに何人もの冒険者や探険者が、遺蹟や迷宮から運びだした様々な骨董品と美術品、あるいはあちこちの有力者が寄贈して来た絵画などです。
そして、記念すべき最初の企画展は、没後40年を迎えたフランスの画家「アルベール・ビュルーレ」展となりました。
これは、ビュルーレ生前の最大の支援者のロデリック家秘蔵のコレクションより、先代から集められていた絵画作品のみならず、書簡や素描、生前の写真なども展示するものとなりました。
ビュルーレの作風は、シュールレアリズムと日本趣味の混交した上に風刺がきいたものです。その独特の作風は人気があり、美大生やファンが館内にイーゼルとスケッチブックを持ち込み模写をする姿も珍しくありません。
――異変は最初、そんな模写する人達の中から現れました。
展示期間も半ばを過ぎた休日の昼下がり、館内のあちこちで模写をしていた人達のスケッチブックに、一斉に同じモチーフが描かれ始めたのです。
それは、首のない、傷と汚れにまみれた男の上半身。模写中の人の前にある絵には、どれにもそんなものは描かれていません。そして、描いていた人達は紙面にチョークやペンを走らせ、スケッチブックのページをめくっては再び同じモチーフを描きだします。横から肩を揺すろうが頬を叩こうが「アリスキッス」をやろうが止まりません。
押さえ付けようとしても、強引に振りほどかれてしまいます。
次の異変は、展示中の絵に現れました。『死にゆくものの眼差し』という題がついたこの絵は、暗闇を背景に涙を流す双眸が精緻にアップで描かれたものです。その瞳の部分にいくつもの顔が浮かび上がったのでした。
その顔は、異変が起きた美大生や模写作業者のものでした。
事態の推移を見守っていた者達の中に、ある仮説と確信が生まれました。
(深淵を覗く者は、深淵からも覗かれているという)
(絵を模写していた人間の心は、絵の中に取り込まれてしまったのでは?)
(だとすれば、この画家の絵は――いや、絵の数々は、ある意味で生きている?)
(だが、絵の心に囚われた人達を助け出すには、何をどうすればいいのだろう?)
思いついた者のうち、ある者は知り合いに助けを求め、ある者は画家アルベール・ビュルーレについての調査を開始(必要な資料は展示されてもいますから)しました。
そしてある者は、夢への行き来に関わる女王器の事を思い出します。
――他人の夢の中に人の心を送り込む「夢門の鍵杖(ゆめとのかぎづえ)」。
――他人の見ている夢を水面に映し出す「遊夢酔鏡盤(ゆうむすいきょうばん)」。
これらはツァンダ家から蒼空学園に寄贈され、現在は研究の為に空京大学に預けられているものです。応用すれば、画家の絵に残る心の世界に飛び込む事が出来るかも知れません。
持ち出しには校長兼生徒会長の「御神楽環菜」、もしくはツァンダ家当主の娘「ミルザム・ツァンダ」を説得できればその手間を大分省けるかも知れません。
一方。
異変が起きた模写作業者達は、気がつくと画具と一緒に薄暗い岩砂漠の中にいました。
曇天の下、眼前には裸の巨人の上半身がそびえ立っています。腰から上が地面より生えたその巨人は、満身創痍で今もなおあちこちから血を流しており、首から上は垂れ込めた雲の中に隠れています。
周囲では、ヘルメットを被り、戦闘服を着て、古い小銃などで武装した日本風の餓鬼――言わば「餓鬼ソルジャー」達が、下卑た笑いを上げながら殺し合いをしています。
離れた所では家屋ほどの大きさの巨大なトカゲがノシノシと歩き回り、時折口から飛礫(つぶて)だらけのブレスを吐き出しています。
上空には轟音を立てながら飛び交う何羽もの巨大なハーピーの姿が見えます。
餓鬼ソルジャー、飛礫ブレスを吐くトカゲ、巨大なハーピー。それらはいずれも、ビュルーレが描いた絵に登場した事物です。
これらの奇っ怪な事物は、突然この世界に放り込まれた人達には襲いかかって来ようとはしません。その代わり、彼らは抗いがたい衝動に取り憑かれています。
その衝動は、「血まみれの巨人を描き、完成させたい」というものです。が、スケッチブックの紙面に目前の巨人の姿を何度描いても、その衝動が治まる事はありません。
死せる画家の残した絵が、今も見続けている悪夢。
その悪夢にとらわれた人達の精神は、果たして無事脱出できるのでしょうか。
担当マスターより
▼担当マスター
瑞山 真茂
▼マスターコメント
【DD】とはDream Diverの頭文字です。
本シナリオは全校の生徒が参加できます(美術館に来ていた、パートナーの心が絵の夢に捕まってしまった、知り合いや友人から連絡を受けた等)。
事態を解決させる為の手順は、おおよそ以下の通りになるでしょう。
A.画家ビュルーレについての情報の収集
B.女王器の手配
C.絵の見る夢への突入人員の確保
D.夢への突入
※A〜Cまでは並行して実施
また、本シナリオへの参加の仕方には下記の方法が考えられます。
1.調査要員
2.女王器運用要員
3.突入要員
4.絵の夢の中で何か行動
●1.調査要員
事態の打破の為には、どこかの段階で誰かが絵の見る悪夢に飛び込まなければならないでしょう。
しかし、飛び込む夢がどんなもので、何をどうすればその夢が終わりになるのかについては、できるだけの調査をした方が無難です。絵に込められているであろう画家の妄執、執念の正体を突き止めるには、画家についての情報を集め、分析する手順が必須です。
幸い資料や手がかりは、展示物等に揃っています。さらに幸運な事に、本日はこれらの持ち主であるロデリック家の現当主、コルバン・ロデリック氏が来館していますので、交渉すれば画家の書簡や素描を直接手に取る程度の事は許可してもらえるでしょう。
「それしかない」というくらいに状況が切羽詰まれば、コレクションの破棄についてもロデリック氏は良しとするでしょう。しかし、そうなった場合は破棄を提案してきた相手に相応の賠償が請求されます。金額のケタは天文学的な数値になり、個人で負担するのは絶望的なものになる事が予想されます。
●2.女王器運用要員
女王器「夢門の鍵杖」と「遊夢酔鏡盤」の迅速な持ち出しには、御神楽環菜あるいはミルザム・ツァンダの許可が必要です。彼女に対して強力なコネを持つ者からの交渉があると、事態は大分楽に推移するでしょう。
しかし、許可を得ても空京大学から美術館まで女王器を持ち込むのは相当な手間です。お世辞にも近所にあるとは言えませんし、「遊夢酔鏡盤」は直径2メートルにもなる大きな器です。迅速かつ安全な輸送となると、最低限トラックが必要でしょう。
また、これらの女王器は、使用に際して制御者がひとりはついていなければなりません。
「夢門の鍵杖」は、これ一本で数十人もの精神を他人の夢に行き来させられる代物ですが、状態を維持する為に誰かが絶えず杖を構え、精神を集中させていなければなりません。ある程度はSPも消費します。
「遊夢酔鏡盤」も同様ですが、この女王器は器の部分になみなみと酒を注がねばならず、しかも注がれた酒を飲む(!)ものですからさらに酒の継ぎ足し要員が必要です。
※なお、精神集中は必要ですが、他人と会話するくらいの事は可能です。
※夢の中に入った人達との会話は、女王器の状態を維持している人にしかできません。
●3.突入要員
最終的な実行部隊です。他人の心の中にドカドカと上がり込むわけですから、相当な妨害が予想されます。
夢の中では普通にスキルが使えます。夢の中ですので、それらしい理屈が通っていればスキルを複数組み合わせたコンビネーション技の使用も可能とします(例:「武器の聖化」+「乱撃ソニックブレード」で聖なる衝撃波を周囲にバラまく等)。
また、突入時に装備していた武器や防具、道具等も持ち込みは可能です(ペットの類は不可)。
なお、画家の作品や書簡等を見ると分かりますが、画家は生前に二度の世界大戦を経験した結果、銃火器などの近代兵器には強い軽蔑や怒りを抱いています。夢の中での戦闘にこれらを用いた場合、効果については不安があるかも知れません。
もっとも、作品の中には中世風の騎士や戦士が「餓鬼ソルジャー」の部隊相手に敗走するという絵もありますので、白兵武器もどこまで通用するのか不安が残りますが……。
●4.絵の夢の中で何か行動
本シナリオの被害者です。今すぐ何か危険が及び、ケガやダメージを負うという事もなさそうですが、できるだけ早く現状から脱出した方が無難でしょう。
「巨人の絵を完成させる」という衝動に突き動かされていますが、ある程度の経験を積んだキャラクターなら正気に返り、「これは誰かの夢の中だ」と悟る事は可能です。自力で夢から脱出し、眼を覚ます事さえできるでしょう(夢の中で頬を思いっきりつねる等)。しかし、有名な画家の内面を直接見聞きし、触れさえするという経験はなかなかできるものではありません。
また、何回描いても消えない「巨人の絵を描く衝動」ですが、これを死せる画家からのダメ出しと思ってみると、有名な画家から直接教えを受けていると考える事も可能です。
とは言うものの、この夢に囚われているのはそんな「経験を積んだキャラクター」だけではありません。武器も魔法もスキルも使えない普通の美大生や美術ファンも何人かいます。こちらの方は、夢の中でもリアルの方でも、頬を叩こうが肩を揺すろうが「巨人の絵を描く衝動」から勝機に戻る事はありません。
※なお、「友人や知り合いに相談し、助けを求める」というアクションは、上記に並行して行えるものとします。
※このシナリオはフィクションであり
※実際の人物・団体とは関係がありません。
※ですので、アルベール・ビュルーレについてPLサイドで検索をかけても
※何も出て来ないと思います。
▼サンプルアクション
・画家についての調査をする
・御神楽環菜あるいはミルザム・ツァンダに交渉し、女王器の持ち出しと使用の許可を得る。
・夢の中に突入する
・囚われた夢の中で、ひたすら絵を描き続ける
・女王器の使用と維持
▼予約受付締切日
(予約枠が残っている為延長されています)
2010年07月24日10:30まで
▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)
2010年07月25日10:30まで
▼アクション締切日(既に締切を迎えました)
2010年07月29日10:30まで
▼リアクション公開予定日(現在公開中です)
2010年08月10日