葦原明倫館

「いつまでそんなことを続けるつもりだ、ミュラー！」

　夜の空京に、カールハインツ・ベッケンバウワー（かーるはいんつ・べっけんばうわー）の声がこだまします。
　ビルの間を軽やかに飛び回る影は、足を止めてカールハインツに応えました。

「久しぶりだな、カールハインツ。すっかり腑抜けになったようだ」

　影の正体は、ユルゲン・ミュラー。
　カールハインツの義賊時代の仲間です。彼は今でも怪盗家業を続けています。

「ミュラー、俺は気づいたんだ。理由がどうあれ、やはり盗みなど間違っている」

　過去に窃盗の報復として恋人を殺されたカールハインツは、ミュラーを説得しようとします。
　ですが、ミュラ−は残念そうに首を振り、衝撃の事実を口にしました。

「やはりお前は変わってしまった。だが、これを聞いてもまだそんなことが言えるか？
　――エリザの命が危ない」

「な……」

　エリザは、カールハインツとミュラーが義賊時代にかわいがっていた孤児院の少女です。
　ミュラーの話によれば、もともと心臓病を患っていたエリザの病状が最近悪化し、
　すぐにでも手術をしなければ死んでしまうということです。

「手術には莫大な費用がかかる。
　俺は盗みをやめる気はない。邪魔をするなら、例えお前でも容赦はしない。じゃあな」

　ミュラーは闇へと姿を消します。

「そんな、俺は……」　

　後には、膝をついたカールハインツだけが残されました。
　

「警察だ！　警察を呼べ！」

　数日後、空京の大商人ヴィシャスが、豪邸の自室で大騒ぎをしていました。
　悪徳商人と名高い彼の手には、くしゃくしゃになった手紙が握られています。
　手紙には、こう書かれていました。

　
　拝啓、ヴィシャス殿。
　明日の夜１０時、あなた自慢の宝石『竜の涙』を譲り受けに参上します。
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　怪盗　ユルゲン・ミュラー


「竜の涙は、その価値数億ゴルダ！　死んでも手放さんぞ！」

　ヴィシャスは、血相を変えて使用人達に指示を飛ばします。そこに、一人の少女がやってきました。

「どうしたの、パパ？」

「おお、アンゼリカ。なに、心配はいらないよ。
　ちょっと悪い人がやってくるみたいだからね。パパがやっつけるんだ。
　お前は自分の部屋で大人しくしていなさい」

「はーい」


　こうして、契約者である皆さんのもとにも竜の涙警備の依頼が舞い込んできました。
　病気の少女と、迫る怪盗の魔の手。
　
　あなたは、どうしますか？
　

☆☆☆PC同士のシナリオ上の対立は、PL同士の関係とは完全に別物です。気軽にご参加ください！☆☆☆

正解など出せないことの方が、世の中多いものです。
このシナリオでは、「あなたの正義」を貫いてください。

カールハインツは竜の涙護衛メンバーとしてミュラーと相対するつもりですが、彼の心は揺らいでいて、決定的な行動をとることはできません。

また、ミュラーは説得には応じないので、盗みを防ぐには彼を力で退けるしかありません。
一方、エリザの病気は重いものなので、スキルや特技、アイテムなどで治すことはできません。
治療にかかる費用も皆さんには払えないほど莫大なので、エリザを救う唯一の方法は、ミュラーに竜の涙を渡すことです。

竜の涙は金庫にしまわれ、周囲を警備員で固められていますが、ミュラーは百戦錬磨の手練れ。
契約者である皆さんが警備に当たらなければ、簡単に盗まれてしまうでしょう。
なお、ミュラーのクラスは盗賊で、器用さと身軽な身のこなしが特徴です。
頭も良く、簡単な罠にひっかかるような人物ではありません。
相手にするつもりの場合、頭に入れておいて損はないでしょう。

それでは、どうぞ皆様の決意をお見せください。

・ミュラーを退ける

・ミュラーに手を貸す

・俺が竜の涙を盗む

・アンゼリカについている