空京の静かな通り。
「……あぁ、アタシだけじゃ何も出来ないよぉ」
地上二階と地下は一階まである寂れたホラーハウスの前に立つカラフルな頭にど派手な服装の地球人の女性、ユルナ・キサラはため息をついていました。先代の経営者である父親から頼まれ、ハウスの経営者になったものの経営は上手くいきません。先代の頃から赤字でマニアしか来客しないハウスは今では、営業中止中です。
「はぁ、アタシはホラーよりもファンシーで占いとかジンクスとかが好きなのに」
ユルナはため息をつきながら、スタッフ達が辞職するきっかけとなった自分の不用意な発言を思い出していました。
「ホラーよりもファンシーなお菓子の国にした方が客数が増えて赤字は一気に解消だよ」
ホラーハウスを支えるスタッフは、父が厳選したホラー好きばかりで彼らはユルナのこの発言から彼女はハウスの責任者には値しないと見て全員辞めてしまいました。言いたい事をすぐに言葉にする口が災いしたのです。
「はぁ、お父さんもあんな方法でこのホラーハウスの経営者を決めるんだから……」
先代は子供達二人がホラーハウスを嫌がっているの知って目を閉じての自分じゃんけんで右手が負けたためユルナに決めたのだと彼女に話しました。父が亡くなる一ヵ月前の事です。
「……昔からお父さんはそれだから。ホラーも作り話も好きで」
亡くなった父を思い出していました。キサラ・グループ代表の父は仕事が忙しく、久しぶりの休日だと思ったらホラー映画に連れて行かれたり、夜な夜な自作の怖い話をしては自分達の反応を調査したりとホラーハウスの事を一番に考えていました。それでも彼なりに可愛がってはくれましたが。
「……このままじゃ、まずいよね。何とかしないと……そう言えば、これを任された時、ハウスのどこかに誰もが幸せになる宝物があるとか。グループの人もハウスの人も知らないって」
ユルナは経営を任された時に父に耳打ちされた事を思い出していました。
それが閃きを生み出しました。
「……だったら」
ユルナは、ホラーハウスを黒字にするために動き始めました。宝物の事とスタッフ募集を雑誌に載せ、自作したジンクスをネットでばらまきます。
『ホラーハウスを二人で無事に抜けたら結ばれる』
『一人で制覇したら試験や悩みが解決する』
『制覇したら幸せになる』
と思い立ったら動き出すユルナはあっという間に思いついた方法を全てし終え、人が来るのを待つ事にしました。
賑やかな空京の通りにある危機迫る会社の社長室。
「……宝物だと」
きっちりとスーツを着込んだ28歳の青年は雑誌のある記事を見て声を荒げていました。
「あのアホ子は何考えているんだ」
ヤエト・キサラはホラーハウスの記事を見ていました。彼は、ずっと前に家を出て自分で会社を経営しています。家族を顧みない父が嫌いで負けたくないという思いから経営者になった彼は父に勝つ事ばかりを考え、社員の事など後回しにして来ました。その結果が今現在。
「……あいつの事はどうでもいいが」
ヤエトはふと妹の事を思い出しました。経営者になってから全く家には帰っていません。帰っても四つ下の妹と喧嘩をするだけだからです。ヤエトは成績優秀だが社交性はあまりなく、ユルナはその反対のため互いにそりが合わないのです。
「……母さんも俺じゃなくてあのアホ子を心配しているし」
ヤエトは少し前にかかって来た電話を思い出していました。
「……経営者の先輩なんだから助けてあげたらどう? きっとあなたにとってもいいはずよ」
悠々自適に暮らす呑気者の母からの言葉。もちろん意地っ張りのヤエトが耳を貸すはずはありません。
「……宝物は気になるな。こっちも人を募集するか」
ヤエトは父が関係する会社や妹には関わりたくありませんが、宝物は気になるのでこっそり探してくれる者を見つける事にしました。
―――全てを整え、ホラーハウスは営業を再開しました。