一人の男によって、扉を守る魔物が打ち倒され、その身を地面に沈めました。
「まったく、ずいぶんと手こずらせやがって」
「そうですね、こちらの被害も少なくはありません。ですが、ここを調査すれば調査は完了します。
人数が減った事によって多少の効率は落ちますがね」
身の丈もある大剣を振り、魔物を屠った彼はグルナ・ロッシュ、調査隊の隊長です。
その隣には、痩せ形の青年、アルエット・シーニュがいます。
アルエットの言葉通り、周囲の隊員達の被害は少なくはありませんでした。
傷だらけの者、立っているのがやっとの者、もう既に息をしていない者もいました。
「アルエット、その物言い……気に入らんな。全力で戦った者達に失礼だろう」
「そうですね……失言でした。申し訳ありません」
言葉では謝罪するアルエットでしたが、その表情は無表情のままでした。
身の丈もある大剣を背負い直すと、グルナは重そうで大きな扉を押して開きました。
扉の先には、大きな舞台のような四角い土台がありました。
土台を囲う様に複数のオベリスクが配置され、
その中心には何かの装置のような物がぽつん、と設置されています。
「なんだ……ほとんど何もないじゃねえか」
グルナは部屋の中心の装置に近づいていきます。
「グルナさん、僕は奥の扉が開くか調べてきます。その装置をお願いします」
「ああ、まかせろ」
グルナは装置を何とか起動できないか調べます。
しかし、装置は何の音も出さず、まるで電源が落ちているかのようでした。
グルナの周囲では調査隊の隊員が周囲を警戒しています。
遺跡の調査の場合、急なトラップの発動、魔物の襲撃が日常茶飯事の為でした。
「ふむ……何かを発生させる装置なのは間違いないが……今は機能していないようだな」
隊員の一人が少々怯えた表情でいいます。
「隊長〜あんまりそういう装置がいじらない方が……」
「そうは言うが、触らないと調べられないだろう?」
「いや、あの……遺跡の最深部の装置って、操作するとよくないことが
起きるってのが定番じゃないですかー!」
「ほう? 例えばどんな?」
隊員はさらに怯えた表情で話を続けます。
「た、例えば……巨大なモンスターに襲われるとか! 遺跡が崩れ始めるとか!!」
「はっはっはっは! お前は臆病だな! もし巨大なモンスターが出てきたとしたら倒せばいい、
遺跡が崩れるなら、さっさと逃げればいいだけだ」
豪快に笑い飛ばすと、グルナはアルエットの方を向きます。
「アルエット、そっちの扉は開きそうか?」
「……ええ。開きますよ……ただし、その奥に行くのは僕だけですが」
アルエットは表情を変えずに、何かのボタンを押します。
彼の隣の扉が開くと同時に、オベリスクが発光し、赤い膜の様なものが
四角い土台をすっぽりと覆ってしまいました。
「アルエットッ!! 貴様、何の真似だ!」
「何の真似? 分かりきった事を。この奥の封印されしモノを頂くんですよ。
でも、邪魔されるといけないので……あなた方は、ここで死んでください」
それだけ言うと、アルエットは開いた扉の奥に消えていきました。
「奴め、最初からこのつもりだったという事かッ! こんな膜なんぞッ!!」
グルナは大剣で赤い膜の様なものを攻撃しますが、触れた直後に身体に激痛が走り、
大きく吹き飛ばされてしまいました。
「ぬぐぅああああああああーーッ!!」
調査隊の周囲にゴーレムが次々と出現していきます。
彼は激痛に軋む体を起こし、調査隊に指示を飛ばします。
「ぐぅぅ……周辺の契約者達に救援要請を……出しておけ! 体力のない者、負傷している者を中心にし、密集隊形!
余裕のある者は負傷している者のフォローに当たれ! 救出が来るまで持ちこたえるぞ!」
グルナは次々と襲いくるゴーレムを両断し、他の調査隊員達を守っています。
調査隊も奮戦しますが、ここまでに受けた傷や疲労が積み重なり、
徐々にゴーレム達に押し込まれ、劣勢となっていきました。
調査隊の誰もが……長くはもたない、そう思い始めていました。