パラミタ大陸が現れて以降、彼の地に足を踏み入れる者は後を絶ちません。
彼らの背中を押すのは探究心であったり、知識欲であったり、はたまた野望であったりと様々です。
蒼空学園分校に通う東雲 優里(しののめ ゆうり)と東雲 風里(しののめ かざり)の姉弟も彼ら同様、駆け出しの冒険者です。
二人がパラミタ大陸で生活するようになってから早一か月。
訓練にも慣れてきた彼らならできる仕事があるのではないか、と担任の教師が探してきてくれたのですが……。
「……急募、北の山に住みつくようになったドラゴン退治……さすがに……ねえ?」
「こんがり美味しく焼けそうね。私たちが」
「除雪作業員募集中、道具は支給します……これなら僕たちにもできそうだね」
「私、単純作業って好まないのよ」
そう告げる風里の顔は満更でもなさそうです。
「じゃあこれは候補に入れておくね。あとは……荷物運びの護衛くらいかな」
「どこからどこまで運ぶのよ?」
「北部の街で合流して、森を抜けた先の蒼空学園分校までみたいだね」
「先生の言動から察して、先輩方が手助けしてくれるかもって話だし、優里一人でも平気そうね」
「でもこの森、前に野盗とか化け物が出て危険度高い時期があったって話聞いたよ?」
「前者は逮捕済み、後者は追い払ったって聞いてるわよ。優里は気にしすぎ……あら」
風里は依頼の書かれている用紙の中から一枚を抜き取ると軽く目を通しました。
そしてそっと自分のカバンにしまいました。
「どうしたの?」
「なんでもないわ。それより今日はこれからイコンの実習でしょう? 行くわよ」
「やっとだねえ。いつ配備されるのかって待ち遠しかったよ。ロボットは男のロマンだよねっ!」
「機械に弱いくせに好きね、優里は」
「フウリは得意だからいいよねー」
先を行く優里に見せないように風里はさっきしまった用紙を取り出します。
そこに書かれていたのはこんな内容のものでした。
『あなたも悪の秘密結社で世界征服を目指してみませんか? 主な業務:動物の保護(人間から動物を守ろう!)』
うんうん、と頷きながら風里は呟きました。
「悪くないわ。こういうの……」
彼女が思い浮かべるのは訓練の時に会った一風変わった人物の姿でした。
悪いことが地味に好き、人の困る顔を見ていると幸せになる、そんな倒錯した趣味を彼女は持っているようでした。
いつもの訓練に加えて、初のイコン実習、そして冒険者らしいお仕事。
初めて尽くしの生活を送る彼らの、ちょっと多忙な日常はまだ始まったばかりなのです。