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されど略奪者は罪を重ねる

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シナリオガイド

救うのか。殺すのか。それとも――
シナリオ名:されど略奪者は罪を重ねる / 担当マスター: 小川大流

「んー、もうすぐ春だってのに一向に暖かくなる気配がないなぁ」

 午後一時、シャンバラ教導団の食堂。
 金元 ななな(かねもと・ななな)はお昼ご飯を平らげ、机に突っ伏しながら、窓越しに風景を見ていました。

「もう、はやく暖かくなってよー。これじゃあおちおち昼寝も出来ないじゃないかぁ」
「……ななな殿は暑い寒いに関わらず、どこでもお昼寝をするじゃないか」

 ぶすっとリスのように頬を膨らませるなななに、小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)は呆れたように声をかけました。

「おっ、小暮くん。なななになにか用?」
「今日の朝、自分とななな殿に命令が下されたんだ。その報告に」
「命令……なんの?」
「自分が説明するよりも、これを見てもらったほうが早いと思う」

 小暮は脇に抱えていた書類の束をどんっと机の上に置きました。
 一枚目の書類にはでかでかとヒラニプラで起こる連続殺人事件についてと書かれています。

「下された命令はこの事件の解決。命令の詳細と自分なりに集めた情報を纏めておいたよ」
「ほぇ……すごい量。小暮くんは真面目だなぁ」

 なななは書類をペラペラとめくっていきます。
 小暮が集めてきた情報は、要点を述べれば以下の通り。

 殺人事件の被害は六件。二ヶ月前から起こり始め、十日に一回の間隔で行われている。方法は全て刺殺。時間は全て午後。
 六件目の犯行の数日後、匿名の人物の目撃情報から、容疑者を割り出すことに成功。
 容疑者の名前はウィルコ・フィロ。
 ヒラニプラ郊外に居を構える二十五歳のシャンバラ人で、双子の姉と二人暮らし。今は日雇い労働者だが、特殊部隊兵士の経歴を持つ。特殊部隊の頃の二つ名は略奪者のウィルコ。


 なななは書類をめくりながら、ふと湧きあがった疑問を小暮に問いかけました。

「なんでこんなに情報が揃っているのに、このウィルコって人を捕まえられていないの?」
「それは、自分も不思議なんだけど……」

 小暮が眼鏡を指で押し上げ、静かな声で答えます。

「容疑者を特定した後、十人ほどの教導団の生徒がすぐウィルコの逮捕に向かったんだ。
 けど、その翌日。十人の生徒全員が、ウィルコを逮捕するという命令をすっかり忘れて、学校に登校してきた」

 なななが小暮に視線を移し、首を傾げます。

「うん? うっかりしていて逮捕するのを忘れてたってこと?」
「違うよ。命令を受けたことをすっかりと忘れてたんだ。まるで、その事柄だけが記憶からすっぽりと抜け落ちたみたいに」
「……どういうこと?」
「分からないよ、自分にも」

 小暮は髪をぼりぼりと掻きます。

「けど、分かっていることは、今日にまた殺人が起こる可能性が高いってこと」
「……そっか。今日は六件目の犯行から十日後だもんね」
「うん、だからこそ迅速に……」
「急がなきゃ!」

 言葉を遮り、なななが立ち上がりました。

「ほら行くよ、小暮くん! 次の人が殺される前に!」
「あっ、ちょっと待って――っ」

 小暮の制止を振り切り、なななは走り出し、食堂から出て行きます。

「……ななな殿が迷走する確率92%。はぁ、他の契約者に助けを求めておこうか」

 小暮は呆れたようにため息をつき、制服のポケットから携帯電話を取り出しました。
 何回も響くコール音を耳にしながら、彼はなななが置いていった机の上の資料に目を落とします。
 めくられた最後のページにはこう書いてありました。

『ウィルコ・フィロの身柄の拘束が無理ならば、殺害を許可する』

 ――――――――――

 機晶都市ヒラニプラ郊外。人目につきにくい場所に廃ビルがありました。
 そこは数年前に景気が良いときに工事が始まり、景気が悪くなったので放置された本当の廃墟です。
 内装はまったくなく、壁も床も素材が剥き出し。そんな怪しい建物の四階の一室に、ウィルコ・フィロはいました。

「姉さん。ホットミルクが出来たよ。今、持って行くからね」

 ウィルコは電磁調理器で温めたミルクをコップに注ぎ、ベッドで上半身を起こす美しい女性――シエロ・フィロに近づきました。

「ウィルコ。いつも迷惑をかけてごめんね」
「二人きりの姉弟なんだから、そんなのは言いっこなしだよ。
 ほら、ホットミルク。熱くない? 姉さん」

 湯気をたてるミルクを受け取り、シエロは優しく微笑みます。

「もう熱いかどうかなんて分からないわよ」
「……そうだよね。ごめん」
「気にしないで。二人きりの姉弟なんだから、でしょ?」
「うん……そうだね」

 ウィルコはホットミルクを口に運ぶシエロを見つめます。
 シエロは半年前、病気を患ってしまいました。その病気は、発症すると人の機能をゆっくりと奪ってゆき、やがて死に至らしめます。
 それはウィルコが特殊部隊の兵士だった頃に貯めた莫大な貯金をはたいても、決して治ることのなかった原因不明の不知の病でした。

「やっぱりウィルコが作ったホットミルクが一番だね。ありがとう」

 ミルクを飲み込んだシエロは笑いました。
 ウィルコは姉の笑みを受けて、思います。

(本当は、もう味覚なんてないくせに……)

 それどころか、視覚も、触覚も、嗅覚も。下半身だって動きません。正常と変わらないのは聴覚ぐらいです。
 ウィルコはそんな姉を見て、肌に指がくいこむほど強く右腕を握り締めました。

(……なんで、姉さんがこんな目に合わなくちゃいけないんだよっ)

 彼らの人生は、決して幸福とは言い難いものでした。
 幼い頃に両親に捨てられ、二人で生きる為に自分は兵士となり、過酷な任務をやっとのことで生き抜いてきました。
 そして――やっと、二人で生きていけるだけのお金が貯まって兵士を辞めたというのに。

(チクショウッ! なんでだよ。なんで、姉さんは幸せになれないんだ。姉さんが何をしたっていうんだっ!)

 ウィルコは組んだ両手を額に当てて俯きました。
 その雰囲気を察したのか、シエロが姉として家族として責任を負って詫びました。

「ウィルコ……ごめんね」
「姉さん」
「ごめんねぇ……私が姉でごめんねぇ……」
「……姉さんは何も悪くない。悪いのは、こんな運命を仕組んだ神様だ」

 ウィルコは立ち上がり、ぽたぽたと涙を流すシエロの目元を指で拭い、額にキスをしました。

「仕事、行ってくるよ。枕元に薬と水を置いてるからちゃんと飲んでね」

 ウィルコはシエロが泣き止んだのを確認し、玄関へと向かいます。
 古びた扉を開ければ、待ち伏せしていたかのように、横から声をかけられました。

「ニーハオ。相変わらず美しい姉弟愛だねぇ。泣かせるじゃないか」
「……盗み聞きとは趣味が悪いな、ダオレン

 ウィルコはキッと射抜くような視線を声の主へと向けました。
 ダオレンと呼ばれた右目の下の刺青が特徴的な若い男は、大げさに肩を竦めます。

「つれないねぇ。僕の名前を呼ぶときはもっと愛を込めておくれ」
「用件はそれだけか?」
「そんなわけないじゃないか。分かっているくせに」
「チッ……」
「おお、怖いねぇ」

 ダオレンはおどけたようにそう言うと、黒いコートのポケットから丁寧に折りたたんだ紙を取り出し、ウィルコに手渡しました。

「これが今回のターゲットだよ。今回もどうぞよろしく」

 ウィルコは折りたたまれた紙を開き、確認します。
 それには金元なななというフルネームと彼女に対する情報が事細かく書かれていました。

「いつもの報酬は用意してあるんだろうな?」
「ああ、もちろん。君の姉さんを延命させるための薬だろう」

 それは現代医療では治療方法すら分からない彼女の病気に対する、延命のための薬。
 なぜダオレンがこの薬を持っているのかはウィルコには分からないが、そんなことは彼にとってどうでも良い些細なことでした。

「今回は、いつにも増して大サービスしておくよ」
「……それほどまでに危険な相手なのか?」
「ああ。今までの六件とは比べものにならないぐらいだよ。怖じ気付いたのかい?」
「別に。命の危険なんか数え切れないほど経験した」
「ヒュー。カッコいいねぇ」

 茶化す言葉を無視して、ウィルコは言い放ちます。

「一つ、頼みがある」
「君が僕に頼み事とは珍しいねぇ。どういう風の吹き回しかな?」
「黙れ。俺が帰ってくるまで姉さんを……いや、この部屋を守っておいて欲しい」
「守る? なんでだい?」
「……最近、俺が犯人だということが特定されたからだ」
「へぇ、珍しいねぇ。どこかでまずったのかな?」
「いいや、今まで俺のことを目撃した人物は全員――記憶を奪ってきた。ミスは考えられない」
「それもそうか。君の能力は便利だからねぇ。ま、ミスは本人が気づかないからミスというものだよ」

 ダオレンはくくくと笑います。

「分かったよ。王子様のご帰還までお姫様を守る役目を引き受けようじゃないか」
「……チッ、気味の悪い言い方をするな」

 ウィルコは吐き捨てるようにそう言って、踵を返します。
 ダオレンは彼の後ろ姿を蔑むかのような目で見つつ、爽やかな声で言いました。

「それじゃあサイツェン。君の武運を祈っているよ――略奪者のウィルコ」

担当マスターより

▼担当マスター

小川大流

▼マスターコメント

 こんにちは。初めましての方は初めまして。
 この度、シナリオを担当させて頂く小川大流です。
 現在担当しているキャンペーンシナリオについては、鋭意製作中ですので、もうしばらくお待ちいただけると幸いです。申し訳ございません。

 このシナリオの目的はただひとつ、金元なななを守ることです
 また、アクション次第では悲しい結果が訪れることになります。ご覚悟ください。

 ここからはシナリオガイドに書かれていない補足情報になります。

アクションのヒント

 ウィルコと接触するためには、ヒラニプラの市街地へと向かう必要があります。
 狙いは金元なななのため、彼と接触するためには、彼女の周りで行動することをお勧めします。
 シエロに出会うためには、郊外の廃ビルに向かう必要があります。
 しかし、彼女の部屋の近くにはダオレンがおり、恐らく妨害してくるでしょう。

ウィルコ・フィロ

 二十五歳のシャンバラ人。クラスはローグ。種族はシャンバラ人。
 強化繊維の戦闘服に袖を通し、膝まである軟金属製のブーツに足を入れています。
 研ぎ澄まされたいくつもの短剣を戦闘服の至る所に差して収納しており、見た目のわりに軽い漆黒のロングコートを纏っています。

 十年以上、特殊部隊の兵士として勤務していた経験があり、その戦闘技術は賞賛に値するほどです。
 そして、目的のため手段を選ばない冷徹な性格でもあります。
 戦い方は主に奇襲。暗殺をもっとも得意としており、真っ向きっての戦いは中々してくれません。
 また、彼は生まれつき特別な能力―他人の記憶や五感を奪う能力―を持っています。発動には何か条件があるようです。
 彼と戦う場合はそれにも気をつけてください。

シエロ・フィロ

 ウィルコの双子の姉であり、原因不明の不知の病を患っている美しい女性です。余命はあと一ヶ月ほどでしょう。
 ウィルコのやっていることを露も知りません。ただダオレンらしき人物とは病気にかかる以前会ったことがあるようです。
 ※彼女の病気は、プレイヤーでは治すことが出来ません

ダオレン

 東洋系の顔立ちの眉目秀麗の男性です。右目の下に刺青を彫っています。
 大型の自動拳銃を一丁、腰に装備しています。ウィルコには劣りますが腕は立つようです。
 彼の情報はほとんどありません。
 ただ種族は未来人であり、クラスはテクノクラートであることだけが分かっています。

NPC

 金元なななはウィルコを捕まえるために市街地に向かうようです。
 小暮秀幸は何か考えがあり、シエロに会うために廃ビルへ向かうようです。


▼サンプルアクション

・市街地へ向かう

・廃ビルに向かう

▼予約受付締切日 (予約枠が残っている為延長されています)

2013年03月01日10:30まで

▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)

2013年03月02日10:30まで

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2013年03月06日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2013年03月22日


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