葦原明倫館

　うろうろうろうろ。

　決して狭くない社長室を、先程から歩き回っている人物がいました。
「社長、お飲み物をどうぞ」
「む。悪いな」
「いいえ」
　そんな人物――ドブーツ・ライキに、秘書はそっと水分補給を促します。椅子に座るように、とは言いません。何度言っても無駄だったからです。今では諦め、体調を崩さないようにと適度に水分補給を促すのみ。
　彼は、しかし微笑ましそうな顔でドブーツを見守っていました。ドブーツは、そんな秘書の様子に気づいているのかいないのか。突然バッと顔を上げ

「こういうのはどうだ？　『アガルタに支局を作った。一般公開はまだだが、特別に見せてやってもよいぞ』というのは」
「……そうですね。もう少しすな……ごほん。優しく言われてみてはいかがでしょうか？」
「むむ？　そうか……そうだな。たしかにこれでは威圧的か」

　妙案だ！　と言わんばかりのドブーツに秘書はやんわりと発言する。途中で彼が何を言いなおしたのか、ドブーツは疑問に思うことなく一理あると唸った。
　まあ何の話かといいますと、とある友達を上手に遊びに誘う方法、を模索しているのです。……こう見えても当人はとても真剣なのです。

　その時、部屋の電話が鳴りました。ドブーツは音に気づかず、また部屋をうろうろし始めていたので、秘書が電話に出ます。
「はい……はい……分かりました。社長」
「なんだ？」

「イキモ・ノスキーダ様からお電話です」

　ぴくり、とドブーツの足が止まりました。振り返った顔がひきつっています。汗がだらだらと流れていく様子を見るに、よくない想像をしているのでしょう。ふるふる、と首が横に振られました。いないことにしろ、という意味です。
　秘書は頷き

「社長は今、こちらにはおられません。どのようなご用件でしょう？」
　ドブーツは秘書の顔をうかがいます。……しかしまったく表情の変わらない彼から、イキモの用件を察するのはとても難しいことでした。しばしの間、ドブーツは息を潜めて審判の時を待つかのように緊張して、中途半端な姿勢で固まっていました。中々に足の筋力が鍛えられそうな姿勢で。

「はい……はい。承知いたしました。お伝えしておきます」

　アンティークな電話の受話器が音を立てて置かれた。ごくり、とドブーツはつばを飲みました。

「アガルタへ一緒に行かないか、というお誘いがありましたがどうされま」

「行ってやってもいいぞ！」


＊　＊　＊


　ドブーツが秘書の言葉を遮っていた頃、ジヴォート・ノスキーダ（じぼーと・のすきーだ）はというと

「ぜったい、行かねー！」

　ベッドや柱にしがみつく勢いで（実際はしがみついていない）、嫌がっていました。イキモはそんな態度にしゅんと肩を下げ

「……私と旅行するのは、そんなに嫌か？」
「え？」
「最近お前も忙しそうだったし、たまの休みくらいはゆっくりと思ったのだが……」

　ジヴォートは慌てました。いまだ、少し距離感のつかめない親子関係である２人ですが、互いが互いを大切だと思っているのです。父親の悲しむ姿は、苦手でした。すぐにそういう意味ではないのだと言えば、じゃあどういう意味だと聞き返されました。
　それは、仕事に集中することでずっと考えないようにしていたことでした。

「そ、れは」

　同行者が問題なのだ、とジヴォートにはいえませんでした。勢いに任せて、言ってはいけないことまで言ってしまいそうで。
　結局、父親の笑顔と泣き顔に『脅される』ように、ジヴォートは頷いたのでした。
「わかったよ」
「そうか！　よし、では他の皆さんも誘って大勢で行くとしよう。きっと楽しいぞ」

（……落ち着け。一緒に行って、途中で分かれたり抜け出したりすれば問題ない……そうだ。そうするか）

　はてさて、どうなるのでしょうか。

　あけましておめでとうございます。遅くなりましたが、ここにご挨拶を。
　今年もどうかよろしくお願いいたします。

　今回のシナリオは、ドブーツ君たちがアガルタに行く。
　言ってしまうとそれだけです。とはいっても、ジヴォート君とドブーツ君は、少しギクシャクしているようです。それをなんとかしようと、親心を働かせたイキモさんが今回の旅行を計画しました。旅行は大勢の方が楽しい、と参加者も募っています。彼らと顔見知り、知り合いじゃない方も関係なく、一緒に旅行を楽しむという『依頼』ですので、遠慮なく参加してあげてください。
　ですがどうも、ジヴォート君は脱走を企てているようです。それを阻止したり、応援したりして、２人に仲直り？（喧嘩したわけではありませんが）させよう、というのが主な趣旨です。
　もちろん、全然別に街を観光したり、土星くんを連れまわしたり、ニルヴァーナ人と遊んだり、お酒を飲んで酔って暴れまわって正座をさせられたり、アガルタ内であればなんでもござれです。
　以下に詳細をまとめてありますので、アクションをかける際の参考にしてください。
※アガルタとはニルヴァーナにある巨大な地下街のことです。詳細はコチラからどうぞ。出店者一覧もございます。

【ジヴォートについて】
　彼は密かに脱走しようと考えています。これは彼の心の中だけで思っているのでＰＬ情報となります。計画なども彼の頭の中だけでされています。社長として、また皆さんと過ごすことによって鍛えられてきた全ての知識＆技量を『無駄に』使用して脱走します。
　また彼は、『ドブーツと顔を合わせて話しをする』のを異常に怖がっています。その恐怖から逃れるためならば、かなり無茶なことをする可能性があります。
　そしてなんだかんだで根っからのお坊ちゃんなので、街のならず者に狙われるかもしれません。身体能力は高いので多少なら１人でも防衛できますが、基本お人よしなので騙される可能性も高いです。
　彼にドブーツと向かい合わせるのか。それとも普通に観光させるのか。それとも……すべては皆さん次第です。
　今は切羽詰っている状況ですが、本来は純真で世間知らずなお人好しです。また動物大好きです。
　護衛の依頼もイキモ、プレジ、ドブーツの３者から出ているようです。
※依頼は観光か護衛、どちらかしか受けられません。どちらもはダブルアクションと判断させていただきますのでご了承ください。護衛のために観光の一団に紛れ込むのは可能ですが、観光部分の描写はほぼないとお考えください（あくまで護衛がメインとなります）。

【ドブーツについて】
　なんとかジヴォートに声をかけようとしますが、中々素直にできません。間にイキモや同行者を挟んで観光します。かなり寡黙です。空気が重たいです。「もう友を失いたくない」という気持ちは強いのですが、ジヴォートの怯えに気づいて一歩踏み込めないようです。どちらが友にとって幸せなのかと一生懸命考えています。
　なので他の事に意識を裂く余裕はなく、電柱にぶつかったり、足をもつれさせたり、何も入ってないカップでお茶を飲もうとしたりします。一応彼も社長ですので、失態を衆目にさらさないようにフォローしてあげてください。ちなみに秘書は温かく見守り、手は出さない方針のようです。
　このたび、アガルトピア中央区（Ａ）に支局を作った模様。自慢したいみたいなので、見学してやってください。
　偉そうな態度を取りますが、基本素直で優しい子です。常識や知識は持っていますが、運動神経はよくありません。とあるトラウマから、動物は苦手です。
※生年月日はジヴォートより半年後。

【２人の関係について】
　幼い頃からの友人で、ともに初めて出来た友達。そこにあと一人？　ジヴォートが飼っていた犬もいた。
　ジヴォートの提案で屋敷を抜け出した際、ドブーツの父を憎む相手に襲われ、それを犬が庇って２人の目前で死去。両者はその事件を自分のせいだ。自分のせいで相手から友を奪ったと思い、疎遠に。
　ドブーツはこのままではダメだ、と一歩踏み出そうとしているもののジヴォートには恐怖が大きい。
　上記の事件後、ジヴォートは動物達に依存し始め、ドブーツは反対に自分のせいで傷つけたくないため動物とは距離を置くようになる。

【その他、アガルタ関連のＮＰＣについて】
　上記に載っていないＮＰＣで、プレジ、土星くん、巡屋の人々、ハーリー、ニルヴァーナ人は登場可能です。またひさびさに我等がセレスティアーナ・アジュア（SNM9998851）様もＯＫです。
※ＮＰＣは１アカウントにつき１人を推奨。多くても２人まででお願いします。多いとＰＣの描写が薄くなります。

【出店・増改築について】
　いつも通り、新たに店を出店される方はまだまだ募集中です。すでに出されている方はそちらでアクションかけていただいてかまいません。
　増改築も可能です。
　掲示板などで書き込むと他の方がアクションをかけやすいと思いますので、よければぜひご利用ください。
※出店について
　常に店にいる必要はありません。雇った名無ＮＰＣに任せてもいいですし、気が向いたときだけ開く、と言う形でもかまいません。店を休んで観光してみたり、他のお店と協力してイベントを企画してみたり……お気の向くままにどうぞ。
　掲示板で店にいるかどうか書き込むと、他の方が行きやすいかもしれません。
　出店地区や説明はこちらで考えていますが、どうしてもこの場所がいい。どうしてもこの説明は書いてほしい、などがありましたらアクション内にご記入ください。
（アクションの書き方はサンプル４『アガルタに出店する！』を参考にしてください。あくまで一例ですので、必須の箇所が明記されていれば問題はありません）

　また出店者には店名の入った称号を送らせていただいております。
※称号は基本『キャッチコピー＋店名＋役職』でつけさせていただいてますが、キャッチや店名などが長く入りきらない場合は一部省略か店名のみとなります。
例：心を温かくする店『ラあメン』店長（サンプルより）

・ジヴォートと観光！

・ドブーツをフォローする！

・影から護衛！

・アガルタに出店する！

・土星くんで遊ぶ！