様々な人たちの助けを借り、発展してきたアガルタ。
そんな街に、これからの発展を支える建造物ができあがろうとしていました。
「いよいよ、か」
「はい!」
そんな建物を見上げているのは、総責任者のハーリー・マハーリーとここエヴァーロングの責任者の男性(マグノス・ナイン)。
マグノスの目にはうっすらと涙が浮かんでおり、彼がどれだけこの建造物に力を注いできたかが分かります。
建造物の名は、エヴァーロング総合展示場。
中心に広大な劇場をもつ施設で、その名の通り様々なものを展示する場所。
劇場を囲むように作品の展示スペース(絵画・彫刻・発明品・文章など、置けるものなら形式は問わず。もちろん危険なものは不可)が設けられ、他にも小劇場をいくつかと販売店・飲食店などをそなえています。劇場内に施された飾りは作品たちを際立たせるようにひっそりと、しかししっかりと存在し、まるで建物自体が一つの作品のよう。
また中庭は植木職人たちが作り上げた傑作で、来場者はもとより職員達の癒しの場となるに違いありません。。
この建物だけで一日楽しめる、この芸術の街にもっとも相応しい施設なのです。
今までも個人経営の小さな劇場やギャラリーはありましたが、公的なものはありませんでした。これで街に住む芸術家・音楽家・役者や職人たちの努力の結晶を大勢に見てもらえます
「現在、セレモニーに先駆けて、一般からも作品を募集しているんですよ」
「そうか。セレモニーには呼んでくれ。俺も見てみたい」
「ぜひお願いします」
笑顔を浮かべたハーリーは、その場をマグノスに任せ、次の現場へと向かいます。
街のトップであるハーリーの忙しさは、以前ほどではなくなっていました。
何度か職を離れたことがあったのが、良い意味で周囲に責任感や危機感を抱かせたからです。
しかし最近はまた忙しくなっています。というのも今現在、先ほどの展示場以外にも大きなプロジェクトがいくつか動いているのです。
彼が次に訪れた先は、ひどくひんやりとしていました。
「ほお、これは美しいな」
感嘆の声を上げた彼の前には、青とも緑とも表現しがたい泉がありました。
それはアガルタのさらに地下にある泉です。
発見されて以後、観光の目玉の一つにしようと調査や整備が行われていました。ハーリーが部下に問いかけます。
「水はどうだ?」
「はい。このままでは飲めませんが、土星くんやニルヴァーナ人たちの協力もあり、浄化装置もほぼ完成に近づいております。水量も豊富なので緊急時の水の確保に役立てるかと思います。
観光に関してですが、ここの魔物たちは基本臆病で光に弱いのでよほどのことがない限り大丈夫でしょう。もちろん、安全対策を怠るつもりはありませんが」
どうやらこちらの状況も順調のようです。
ほとんど自らが行動せずとも進んでいくことに、部下達の成長を思って嬉しくもあり、同時に自分のすることがなくてつまらない・寂しい気持ちもあり、ハーリーはあいまいな顔で笑いました。
「ん〜……俺も年とったってことか」
「しゃちょ……失礼しました。総責任者なのですから、どしっと構えておくのが元々あなたの仕事ですよ」
商人時代からの秘書、メイアに心境を見透かされてしまい、さらに苦笑しながら、今日最後の視察場所へと向かいました。
作り物ではない、青い空がハーリーの目に眩しく映ります。ずっと地下にいたため、地上の光を懐かしく思いました。
アガルタは地下にある街。
地上には東西南北の出入り口付近に立てられた巨大な看板と、街へ入る人々の誘導やチェックを行う守人(もりびと)らが寝泊りできる小屋があるのみ。
のはずでした。
ですが今、ハーリーの目の前では重機が忙しなく動き、建物や道路を整備していました。
アガルタの空間は広大だ。街が4つすっぽりと入るほどなのですだから、大きさが良く分かるでしょう。
しかし、されど地下。
発展していくにつれ、土地はなくなっていきます。人が集まれば食料も必要となるため、農地も広大になっていき……かといって、広げることも出来ません。アガルタの空間はニルヴァーナの技術を駆使して作られた特殊な壁(一見すると岩のように見える)で支えられています。そこを崩せば、街全てが崩壊する危険があるのです。
もう土地に限界が来ていました。
ならば、とハーリーが考えたのが地上部の開拓でした。
地上部は気候の変化が激しくて危険な魔物も多く生息しています。危険地帯だらけであり、正直開拓は難しい……しかし、なしえる人材も資金力も協力者も、今のアガルタには在ります。
「土星もキルルも交通に関して協力してくれるっていってたしな。……あーでも、やっぱ人員は足りてないか」
「そうですね。展示場の建築は落ち着きましたが、セレモニーに泉観光の準備、地上部は魔物退治もあります。……それに」
「花火大会もあるしな」
「はぁ。やっぱりやるんですか? この忙しい時に」
どうやらハーリーは花火を街の空に咲かせたいそうです。偽者ではない、本物を。
「だからこそ打ち上げるんだ。未来に向けた、どでかいやつを、な」