葦原明倫館

1946年、日本。
ただ何も無く青が広がる空の下、敗戦直後の大きな混乱の中で。


焼け野原だった地には、掘っ建て小屋が並んでいました。
芋、米、鍋、食器、軍靴、危険な酒、ラジオ部品……
多くの物が集まり、それらを求める雑踏と、混ざり合ってぶつかり合う沢山の声。
敗戦の傷を引きずる闇市には、常に猥雑さと奇妙な熱気が溢れていました。

満州から引き揚げて来たばかりの石原肥満という若き青年は、
そんな闇市の一つがある渋谷を中心に、様々な若者たちを束ね、一つの勢力を築きつつありました。

早急に力を持ち始めた彼に味方はまだ少なく、しかし、敵は多く、
肥満は常に命を狙われていました。

その日も肥満は、自身の命を狙った男を返り討ちにし、
雑然とした人だかりの真ん中に立っていたのでした。

男の死体を転がして。

「……妙だな。俺の命を狙ってるってよりかは、もっと別の……」

肥満は思い当って、いつも懐にしまっている勾玉を取り出しました。
満州から引き揚げてくる時に、満州国皇帝の宝から盗み出してきたものです。
他にも様々な物を持ち帰りましたが、これだけは、なんとなく売ることはなく、彼はいつも身に付けていました。

「相変わらず、薄汚いところで這いずり回っているね」

人だかりの中から、その場に似つかわしく無い小奇麗な格好をした男が取り巻きと共に現れ、肥満の前に立ちました。

「観世院か。その薄汚いところに何度も顔を出しやがって……今日は何の用だ？」
「面白い話を聞いたから、君に伝えてくてね。
　新宿を仕切っている一家が、ここ渋谷を狙っているという話、知ってるかい？
　3日後には渋谷に攻め込めるように準備を進めてるらしい」

つまり、新宿の大きな闇市を仕切っている暴力団が、肥満たちの縄張りを狙っているというのです。
観世院が試すように微笑みました。

「どうする？」
「逃げるかよ。逆に喰らってやる。
　俺は、いずれ“もう一つの世界”もひっくるめて、ガキどもが笑って暮らせるようにしてやる男だぜ？」

もう一つの世界。
勾玉を手に入れた頃からか、肥満の脳裏におぼろげに感じられるようになった戦乱と悲哀に満ちた世界……。

彼の夢は、この混乱の中で伸し上がり、日本だけではなく、この世界だけではなく、全ての世界を救うことでした。
そんな荒唐無稽な夢に共感する者は少ないものの、彼に何かを感じ、慕う者は多く居ました。


◆　◆　◆

2022年。

「まったく、あの犬はとんでもない事を押し付けてくれたものですぅ」

エリザベート・ワルプルギス（えりざべーと・わるぷるぎす）は、パラ実校長　石原肥満のもとに居ました。

「ほっほ、敵もなかなか面白いことを考えるのぅ」

　特殊なインテグラルが、石原肥満とパラミタの関係に気付き、過去へ跳んだのだと言います。
　2009年にパラミタと地球を繋げた“原因”を抹消するために。

「アムリアナ女王が封印されていたために、繋がるはずの無かったパラミタと地球。
　それを繋げた、わしを時代から消し去ろうというわけじゃな」

とはいえ、異なった未来を派生させぬよう現代へ影響を与えるための時間逆行には幾つかの条件があるため、
インテグラルも派手な手を打つ事は出来ない、というのが吉井　ゲルバッキー（よしい・げるばっきー）の見解でした。

ゲルバッキーは（ほぼ無理やり）特別な装置をエリザベートへ渡し、
彼女に、その装置の力と術とを組み合わせて、契約者たちと共に過去へ向かう事を依頼したのです。
ゲルバッキーは休暇がどうのとか抜かしていました。

「とにかく、パラミタと地球が繋がらなかったら私も困るですぅ?。
　これから皆と過去に跳んで、
　女王器である勾玉『リンク・オブ・フォーチュン』と、その持ち主である1946年の石原肥満を守るですぅ」


◆　◆　◆

1946年、新宿。

「あの……チョコレートは？」

桜井チヨは強面の男たちを見上げながら、おずおずと問いました。
男たちは小馬鹿にしたように笑っただけでした。

「うう……騙されたんだぁ」

チヨは縛られた格好で、さめざめと泣きました。

◆

渋谷署。

「……厄介な事になってきやがったなぁ」

渋谷署の副署長、山葉一郎は署員から、「近々大きな抗争が始まるかもしれない」という報告を聞いて、やれやれと肩をすくめました。

「肥満の野郎、無茶しなきゃいいが……」

◆

新宿の片隅。

「チヨが新宿の連中にさらわれた、か」

肥満は、自身の腹心である鷹山から、チヨ誘拐を聞かされていました。
桜井チヨは肥満が拾って育てている孤児の一人です。

「どうする？　肥満さん」
「……連中が仕掛けてくるのは、3日後だ。
　奴らは、その時の切り札として使うつもりだろう。
　それまでにチヨを助ける」

「だが、チヨを助けても、
　連中は渋谷攻めを決行するだろう……」

「お前は三日間の間に出来るだけ仲間を集めろ。

　3日後――
　奴らが渋谷を攻めて来た時、俺は渋谷で奴らを引き付ける。
　鷹山、お前は集めた連中と新宿を取れ」


歴史は、微かに音を立てて傾き始めようとしているのでした。

■2011年6月19日：追記
■マスターコメントの誤りを修正いたしました。「山葉組の組員」→「新宿側の組員」、「ウォン」→「組長」
■2011年6月16日：追記
■プレミアムシナリオについて説明を追記いたしました。


いつも蒼空のフロンティアにご参加いただき、誠に有難う御座います。
蒼空のフロンティア3周年記念シナリオ『蒼空のフロンティア・零　～１９４６年～』をお送りいたします。

本シナリオは蒼空のフロンティアの始まりに関わる内容となります。


このシナリオは『プレミアム　シナリオ』となり、ＭＣとＬＣの参加ポイントが他のシナリオと異なりますのでご注意ください。

■プレミアムシナリオについて
後日マニュアルに追加いたしますが、プレミアムシナリオの参加ポイントなどは以下のようになっています。

・参加ポイント
ＭＣ：200
ＬＣ：100

・アクション文字数
ＭＣ：900
ＬＣ：500

経験点：5000
Ｇ：6000

※リアクションの公開予定が通常のシナリオより１週間長くなります。アクション締切後変更されます。


■状況
地球とパラミタが繋がることを阻止するために、インテグラルが1946年の日本へと跳びました。
インテグラルの狙いは女王器である「勾玉」と、その持ち主である「石原肥満」です。
この石原肥満が、勾玉を使って2009年にパラミタと地球を繋げた張本人だからです。

インテグラルから勾玉と肥満を守るため、ＰＣは1946年の日本へと跳ぶことになります。


■1946年、渋谷と新宿の「闇市」の状況
闇市の利権を巡り、石原肥満らと新宿を仕切る暴力団との抗争が始まろうとしています。
インテグラルは新宿を仕切る暴力団組長の中に潜み、
組員、イレイザー・スポーンを操り、肥満を狙っています。
組長は新宿の何処かに身を潜めています。

桜井チヨは新宿の何処かに囚われています。
肥満は変装し、自ら新宿へ向かい、チヨを助け出そうとします。

闇市では実に様々な物が売り買いされており、
また、おにぎりやうどんなどの飲食を売る者も居ます。
一方で賭博を始めとした、いかがわしい商売も雑多に行われています。


■全面戦争
契約者らが1946年に到着した3日後に、渋谷と新宿の二ヶ所で肥満側と新宿の暴力団側による戦争が起きます。（この出来事は変えられません）
何人かの組員はインテグラルによって、契約者と渡り合えるほど強化されています。

この時、肥満は渋谷で敵を迎え討ちます。
自身を囮に新宿側の意識を渋谷に向けさせ、
その間に腹心の鷹山らを使って、逆に新宿を攻め、新宿の闇市の利権を奪うためです。
そのため、肥満らは、それまでに組長の潜伏場所を探ろうとしています。


■未来への影響
通常、歴史を変えてしまうと新たな未来が派生してしまい、元の時代に影響を与えることは出来ませんが、
今回のタイムワープは特別なもので、幾つかの条件に縛られた状態で事を起こせば元の時代に影響を与えることが出来るようです。
1946年の闇市の抗争は「パラミタと地球が繋がる」ことに影響を及ぼせる希少なタイミングだといいます。

また、特殊なタイムワープのため、時間を遡った者には下記の条件が課せられます。

・その時代の人間に「その時代、その場所にあるはずのないもの（出来事・姿など）」を認識されるような行動をしようとすると、現代へと戻されてしまいます。

ただし、ほとんどの事は「見間違い」や「都市伝説」「集団幻覚」などとして片付けれるため、
基本的にはあまり気にする必要はありません。


■このシナリオで出来る事
・過去に遡ったＰＣ
ゲルバッキーの力で過去に遡ったＰＣです。

・過去のＰＣ
1946年のＰＣです。
魔女や機晶姫、吸血鬼などの長寿種族で1946年に地球に居たＰＣであれば登場できます。
何かを予感して東京を訪れていたりします。

便宜上、基本的に能力やスキル・アイテムは現代のＰＣと同様に扱います。
今回の件であまり目立ち過ぎるような事は、身の危険に繋がるので行えません。
※ただし、ほとんどの事は「見間違い」や「都市伝説」「集団幻覚」などとして片付けれるため、
　基本的にはあまり気にする必要はありません。

・過去の一般人（ＰＣ以外のキャラクター）
その時代に居る、このシナリオ　オリジナルのキャラクターとしても参加できます。
新宿側の組員や肥満の仲間、警察、ＧＨＱ、闇市で商売している者、ただ現場に居合わせた者などなど。

手段欄に名前や口調など簡単な設定をお書きください。
身体能力は一般人並で、アイテムやスキルなどを使うことは出来ません。

※ただし、インテグラルに操られ、肥満を狙う者については、
　身体能力は、元PCデータの総合レベルによります。

※肥満は異常に勘が良いため、
　「肥満・勾玉を狙う」方は肥満のそばからスタートすることは出来ません。



本シナリオでは、歴史上に実在した人物は登場させることは出来ません。


ちなみに1946年の秋葉原の闇市には、
ポータラカ人栽培キットで話題に上がる「吉井麹屋を空襲から守った」ゲルバッキーが野良犬としてウロついています。


■1946年のNPC
●石原肥満
満州から引き揚げて来た青年です。
やがて彼が、2009年にパラミタと地球を繋げる事になります。

●鷹山
肥満の腹心です。

●観世院　公彦
空襲を逃れた郊外に土地を持つ地主の息子ですが、
車を使って書生たちと共によく闇市へ現れます。
才のある者を見つけては、家に連れて帰って書生にしています。
どことなくジェイダスに似ています。

●山葉　一郎
渋谷署の副署長です。
署員たちと共に渋谷の事件を収めようとしています。
自ら先陣切って暴れる中年です。
どことなく山葉涼司に似ています。

●桜井　チヨ
肥満に拾われた孤児の一人です。
10歳の少女で、桜井静香に似ています。れっきとした女の子です。
新宿の勢力にさらわれています。

●エリザベート・ワルプルギス
過去に跳んだ時に、契約者たちとはぐれ、更に数日分、過去へ跳んでしまっていました。
その際、肥満に拾われ、
渋谷で肥満の拾った孤児たちと暮らしています。
時間跳躍に力を使ったため、あまり魔法は使えません。

エツコと名乗っています。
孤児たちと共にチョコをねだりに行くのが日課です。

・過去へ跳んで肥満を守る！

・一般人だが肥満の夢に乗る！

・過去のＬＣと共闘する！

・チヨを助けるために新宿闇市へ！