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消えゆく花のように

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シナリオガイド

戦いに終止符が打たれる……。消えよ、クランジの亡霊。お前たちの夢は終わった。
シナリオ名:消えゆく花のように / 担当マスター: 桂木京介

 両開きの自動ドアが音もなく開くと、単身、テーブルにつく金 鋭峰(じん・るいふぉん)の姿が見えました。
 この場所に慣れている人であれば、部屋の様子が普段と異なることに気がついたことでしょう。
 部屋は静かです。
 静かすぎるほどに。
 壁の大型モニターは消され、計器のたぐいも電源が落とされているようでした。
 本来なら多数の教導団員に満ちているべき場所なのに、鋭峰のそばにはごくわずか、最低限の側近しかいません。
 そして鋭峰の様子も、平常の存在感というか、獅子の如き迫力はなく、どこか精彩を欠いており病人のようにすら見えるのでした。
 鋭峰は両肘を付いて口元を覆い、暗い目で来訪者、つまりあなたたちを見つめています。
 やや猫背です。背筋を伸ばして胸を張り、決して姿勢を崩さぬ普段の彼からすれば、この状態は異例中の異例と言えましょう。
「よく応召してくれた」
 鋭峰は壁の全面モニターではなく、手元のタッチパネルPCをつけました。
「諸君を招いた理由についてはすでに述べたが、ここで実際に、私に届いた映像を見せよう」
 それは動画によるレターです。
 どこか、地下のような薄暗い場所でのようです。
 こちらに向かってニヤニヤと笑っているのは、薄桃色のモコモコした髪をシルクハットからのぞかせた小柄な少女です。
 シルクハットは妙に丈があって、少女の顔よりずっと大きく、黒い燕尾服を着ていることもあって、彼女は『ふしぎの国のアリス』に出てくるマッドハッターのようでした。もっとも、パンツスーツではなくスカートで、脚には網タイツを履いているようですけれど。
 少女は握りのところにボールのついたステッキを持ち、これをくるくる回しながらカメラに近づきました。
「初めまして。あたしはクランジさ。コードネームは『デルタ』、つまり『クランジΔ(デルタ)』ってことになるね」
 少女の右目には、鎖の付いた片眼鏡(モノクル)がありました。
 童顔ですけれどアンティーク趣味なのでしょうか。
「最強の人間型殺人兵器と言われた『クランジ』も、その凋落ぶりは目に余るものがあるねえ……。Χ(カイ)、Ψ(サイ)、Λ(ラムダ)、Η(イータ)、全部倒され、Φ(ファイ)、Ο(オミクロン)は血迷った末に死を選んだ。Ξ(クシー)もこの世にいない。Θ(シータ)は出来のイイ子だったが、結局敗死のお陀仏だ。あんたたちは知るまいが、Ε(イプシロン)……まあ、あの子は目障りだったけど……も死んでる」
 デルタはさらにカメラに接近して、ついには顔のみが画面に大写しになりました。
「けれど許せんのは裏切り者さ。Υ(ユプシロン)は今、『ユマ・ユウヅキ』だとか名乗って、こともあろうに契約者と結ばれたと聞いている。それは『パティ・ブラウアヒメル』ことΠ(パイ)も同じのようだね。Ρ(ロー)つまり『ローラ・ブラウアヒメル』も、Κ(カッパ)『カーネリアン・パークス』、Ι(イオタ)『イオリ・ウルズアイ』……全員、恥を知れと言いたい」
 作戦司令室内には、デルタに名指しされたユマ・ユウヅキ(ゆま・ゆうづき)、パティ・ブラウアヒメル(クランジ パイ(くらんじ・ぱい))、ローラ・ブラウアヒメル(クランジ ロー(くらんじ・ろー))、そしてカーネリアン・パークス(かーねりあん・ぱーくす)の姿があります。
 ユマは体を震わせ、拳を握って唇を噛みしめています。
 パティの肩には、ローラが手を乗せて沈黙します。
 カーネリアンは背を壁にもたれさせ、腕を組んで画面を冷ややかに見つめているのでした。
 イオリはまだ、この場に姿を見せていません。
「あたしは、全クランジの名代として、五人の裏切り者の断罪を宣言する」
 ニヤっと笑ってデルタは言いました。
「これについては、裏切り者たちに縁のある、とある人物にご協力を願うことができたよ」
 デルタは唐突に、カメラの前から離れました。
 するとデルタがいた場所に、椅子がひとつ、現れていました。
 椅子には一人の人物が座っています。いや、座らされているというのが正確なところでしょう。
 その人物は両腕と首に鉄の拘束具を取り付けられています。
 拘束具は椅子と一体化していました。
 写っていませんが、きっと腰や脚も同様なのでしょう。人物は身じろぎひとつしません。
 さらに口にまで、鋼鉄のマスクが装着されています。
「少佐……!」
 ユマ・ユウヅキが悲鳴のような声をあげました。
 それはまぎれもなく、ユージン・リュシュトマ少佐でした。
 数日前、彼は忽然と姿を消し、以来本日に至るまで行方不明となっていました。
 消息が絶えた当日、謎めいた女性がリュシュトマの私室から出てくるところが目撃されています。恐らくは彼女が、リュシュトマを拉致したものと考えられていました。
 リュシュトマは酷くやつれて見えました。
 右目は眼帯、左目は閉じられ、死んだようにぴくりとも動きません。生存を確認するのはこの映像からは困難でした。
「この男の身柄を返してほしいのなら、以下の地点に来てもらおうかね」
 続けてデルタが告げたのはある座標でした。鋭峰が補足します。
「無人の岩礁地帯だ。巨大な鍾乳洞が複数存在する」
「ゲームをしようじゃないか」
 デルタの話は続いています。彼女は再びカメラの前に来ると、仰々しい仕草をもって豊満な胸元から一枚のメモを取り出して開きました。
「招待するのはきっちり20人だけ。面倒だからこちらから指定するよ。ユマ、ローラ、パティ、カーネリアン、イオリ……あたしは裏切り者はもうクランジじゃないと思っているから、そっちの呼び名にしておくさね。それから……」
 どうやって調べたのか、デルタは続けて契約者やそのパートナー、きっちり15人の名前を読み上げたのです。
 それはここにいる全員とほぼ一致しました。
 つまり、鋭峰が招集したあなたたちです。
「人が多少、入れ替わっても良しとしよう。減ってもいいが20人を越えていたら即アウトだ。わかっていると思うが人数が一人でもオーバーしていたり、万が一大規模兵団でも差し向けたりしようものなら、老いぼれの命はないよ」
 デルタは『ゲーム』の開始時刻を翌朝6時と指定しました。
「指定の場所に来てもらおうか。いくつかの鍾乳洞にちょっとした趣向を用意しておく。目印は、鍾乳洞の入口に刻まれた文字さ。そうして別れて、好きな洞窟に入るといい。中ではちょっとした意向があんたたちを待ち受けていると思うよ。洞窟は5つ、うち過半数を抜けることができたらそっちの勝ち。失敗すればこちらの勝ちさね」
「デルタは……実在が疑われていたクランジだ」
 ぽつりとカーネリアンが言った。
「その能力は『創造』だと言われていた。土や水を材料にして、非現実的な光景を生み出すことができる……と」
「非現実的な光景?」
 パティの問いかけにカーネリアンは答えて、
「一旦洞窟に入れば、想像を絶するものが待ち受けていると考えておいたほうがいい。砂漠に通じているかもしれないし高山に通じているかもしれない。あるいは太古の原生林かもしれない。いずれにしても特殊なフィールドがあるに違いない。明らかに、デルタにとって有利なものが」
「そっちが勝ったら人質は解放しよう」
 デルタは『負けたら』という話をしませんでした。
「では待っているよ。あたしたちがね」
 デルタはステッキを伸ばしてカメラを触りました。
 すると、くるっとカメラが半回転して、同じ場所の別の一角を映し出したのです。
「あれは……Μ(ミュー)か!?」
 声を上げたのはカーネリアンです。
 水色の髪をした女性が一瞬フレーム内に収まりました。雪のように白い着物をまとっています。奇妙なのは、彼女が長い鉢巻のような布でその両眼を隠しているところでした。
 クランジΜ(ミュー)……と思われる女性は驚いたようにカメラを払いのけました。
 すると今度は、やはり女性ばかりの集団が映し出されたのです。
 その光景は、より大きな反応を巻き起こしました。
「これは……!」
「どういうことよ!」
 ユマは絶句し、パティは怒声を発します。ローラの顔からは血の気が引いていました。
 ほんの一瞬ですが、デルタと同じ部屋に控えている集団が見えたのです。
 ユマ・ユウヅキがいました。彼女は菫色の髪を長く腰まで伸ばしています。
 カーネリアン・パークスがいました。彼女は顔に黄金の半仮面をつけています。
 ローラ・ブラアヒメルも、パティ・ブラウアヒメルもいました。
 イオリ・ウルズアイは郵便配達夫のような服装で、大きな帽子を目深に被っています。
 大黒澪ことクランジΟ(オミクロン)が、双子の妹クランジΞ(クシー)と並んでいて、なんとファイス・G・クルーンことクランジΦ(ファイ)の姿まであります。
 ファイスは暗い目でカメラを見つめていました。いえ、彼女ばかりではありません。確認できたすべてのクランジが、眼球の代わりにガラス玉をはめられたような瞳をしていました。
 そこでブツッと音がしてビデオレターは終わりました。
「あれはなに!? 悪趣味にもほどがあるわ! 私たちの安っぽいコピーを用意したってこと!?」
 いきり立つパティをなだめるようにローラが言います。
「デルタが作ったと……思う。か、Κの言うとおりだとすると……」
 ローラはカーネリアンのほうをチラチラと見ていました。
 カーネリアンはローラの意味ありげな態度に気づかぬ様子で、
「自分もデルタとは面識がないため正確なところはわからないが、やつが動く物まで作れるとは聞いていない」
「……人形のようなものではないでしょうか」
 ユマが遠慮気味に声を上げました。
「私たちを討ち取ったら、記念に壊す、とか……」
「そうかもしれない」
 パティは言います。しかしこのとき、「でも」と言い出したい気持ちを彼女は懸命に抑えているのです。
 ――ユマの言う通りだと考えたいけど……おかしいよね、絶対。
 なぜなら、どうして自分たちのみならず、オミクロンやクシー、ファイの人形まであるのか、そのことが説明できないからです。
 それに……ごくわずかな時間ながらファイの唇が、歪んだようにも見えました。
 ちょうど、薄笑みを浮かべたかのように。

 金鋭峰は黙ったままでした。
 誰にも「行け」と命令しません。
 罠と知りつつ死地へあなたたちを向かわせる権限はないと考えているからでしょう。
 リュシュトマの救出を優先するのは『私事』です。本来なれば鋭峰は、長年の敵クランジにとどめを刺すため、軍を出動させるべきなのです。たとえ非情であっても、自分はそうするべき立場であると知っているのです。
「自分は、行こう。あえてデルタの企みに乗ってやる」 
 このとき、最初に決断したのは意外にもカーネリアン・パークスでした。
「リュシュトマのためでも鋭峰のためでもない。自分の宿命と決着をつけるために」
 すぐにユマも応じました。
「私にとって、少佐は親代わりです」
 それ以上のことをユマは言いません。しかし、揺るがぬ決意がその瞳には見えています。
「私たちも」
「行くよ」
 パティ、ローラも立て続けに告げました。
 さあ、あなたはここで何と答えますか?
 デルタの仕掛ける『ゲーム』に、勝つ自信はありますか?
 心してお答え下さい。
 『クランジ』の名を過去のものにするのか、あるいはなお脅威として存続させることにするのか……そのゆくえは、この一戦にかかっているのですから!

担当マスターより

▼担当マスター

桂木京介

▼マスターコメント

 マスターの桂木京介です。よろしくお願いします。

【シナリオ概要】
 最後のクランジ、Δ(デルタ)そしてΜ(ミュー)と対決するシナリオです。
 このシナリオでは、契約者かパートナーのどちらか一人しか決戦の地に赴くことはできません。(※)
 決戦の地に行くことのできないLCはモニターなどで応援するだけのアクションを行うか、本文中には登場させず参戦キャラクターのアクション補足に枠を使うか等の扱いになります。

 ※イオリ・ウルズアイの契約者のみ、MC(ないし参戦LC)とイオリの両方の参戦アクションを投稿することができます。

【五つの鍾乳洞】
 以下五つの中から一つを選んで中に入ることになります。いずれも、2〜3のギリシャ文字が入口に刻まれています。
(1)Φ、Υ、Τ
(2)Ο、Ξ
(3)Π、Ρ
(4)Η、Ι
(5)Κ、Μ

 どの洞窟に進んでも、ギリシャ文字が現すクランジのクローン体ないしクランジ本人が敵として待ち構えています。
 敵を倒し奥まで進むことができれば『突破』となります。五つのうち最低でも過半数を突破することが勝利条件です。
 誰も選ばなかった鍾乳洞は自動的に『突破失敗』とみなされますので、参加キャラクター様の間で相談するなどして、漏れのないように工夫されてはいかがでしょうか。

【各鍾乳洞の説明】
(1)Φ、Υ、Τ
 熱帯の密林がひろがっています。Φのクローン体(『Φc』と表記します)は電磁鞭で単純攻撃をするだけの存在ですが、Υのクローン体(Υc)は登場当時の冷徹なキャラクターで、Τのクローン体(Τc)は腕から高熱を発する『ヒートハンド』という能力を有しています。

(2)Ο、Ξ
 シナリオ『Zanna Bianca――ザナ・ビアンカ』を彷彿とさせる積雪地帯が戦場となります。オミクロンのクローンとクシーのクローン(ΟcとΞc)は双子らしく息の合った行動を見せるでしょう。また、あのクローン(?)も登場するかもしれません。

(3)Π、Ρ
 蒼空学園そっくりの無人の学校が舞台となります。Πcの超音波、Ρcの怪力、いずれも脅威です。両者ともにかつての強さを残しているため、五つの鍾乳洞で一番の強敵になるかもしれません。

(4)Η、Ι
 高層ビルが立ち並んでいるビル街が戦場となります。ビルはいずれも廃墟です。Ιcがスナイプを仕掛けてくるでしょう。合間を縫ってΗcも周囲の重力を変動させる攻撃を仕掛けてきます。Ηが情緒不安定なのがつけいる隙になるかもしれません。

(5)Κ、Μ
 東南アジアの大都市のような混雑した繁華街が舞台で、マネキンのような人形が群衆のように闊歩しごった返しています。群衆の中には変身能力を使ったΚcが紛れています。Μはクローン体ではなく実際のクランジです。彼女は、目にした対象の時間の流れを極端に遅くする『メデューサ・アイズ』という能力を持っています。

【NPCについて】
 ユマ、パティ、ローラ、カーネリアンは、特に指定がなければ自分と同じギリシャ文字の洞窟に入ろうとします。(上手く説得できれば行く先を変えます)
 パティ以外のNPCはいずれも、かつての戦闘能力を失い弱体化しています。一対一で自分のクローン体と出会えばひとたまりもないでしょう。また、パティも戦闘の勘はかなり鈍っているため、戦力としてはそれほど期待できないかもしれません。

 NPCとアクションを絡めたい場合、どのNPCと接触を持つか、そして、該当NPCとのこれまでの関係(初対面なのか友人同士なのか等)を書いておいてくれると大変助かります。


 以上、想像の翼をはためかせてアクションをかけてみてください。
 ご覧のように戦闘中心のシナリオではありますが、クローン体も心がないわけではありません。むしろ、死亡直前、あるいは契約者側に転向する直前の記憶を(個体差はありますが)保持しているので、力づくではなく心に訴えかけるようなアクションで倒すというのもいいかもしれません。

 それでは皆様のご参加を楽しみにお待ち申し上げております。
 次はリアクションでお目にかかりましょう!

 桂木京介でした。

▼サンプルアクション

・洞窟の一つを選んでクローン体と戦う。

・黒幕デルタを倒す。

▼予約受付締切日 (既に締切を迎えました)

2014年09月19日10:30まで

▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)

2014年09月20日10:30まで

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2014年09月24日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2014年10月07日


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