恐竜騎士団団長 選定神バージェスが病に伏した事をきっかけに始まった、恐竜騎士団の新団長を決めるための決定戦。
もともと恐竜騎士団は祖国であるエリュシオン帝国に、あまりよい感情を持たれていませんでした。
恐竜騎士団を存続させるためにも、内外に自分達の力を示すためにも、次期団長の選出と、その為のパフォーマンスが必要だったのです。
賭博を開いて注目を集め、また新しい風としてキマクで採用した風紀委員もこの決戦に参加を表明しました。
概ね順調に、些事は力で握りつぶして、いよいよ決戦の日を迎えました。
「いい天気ね。戦争するには、晴れてるのが一番よ」
快晴の空を泳ぐプレデターXの頭の上、ラミナ・クロスは眼下の戦場を見下ろしていました
暴れまわるには十分な広さがあります。そこに、いくつもの勢力があり、それぞれが戦開始のゴングを待ちわびているのです。
これが間もなく衝突し、最も強い奴が最後に残るまで戦い続ける。
「機械人形とも、やりあってみたかったのよね」
細かい規定は特にありません。恐竜を持ち込もうが、イコンを使おうが、とにかく相手の王様を全員倒せばそれで勝ちが決まります
ある種競技という事になっているが、別に相手の命を尊ぶ必要も無いのです。
久々にできる大暴れに、ラミナは昂ぶっていました。
表向きにはちゃんとしたリーダーをしてみせていようが、暴力に惚れ込んでここまできた恐竜騎士団の一人なのです。
「さぁ、精一杯楽しみましょう……うふふ」
「道は俺が切り開く、策などいらぬ、全て切リ捨てればよい」
ソー・ルマークは高々と剣を掲げると、そう宣言しました。
「いささか不釣合いな者も紛れ込んでいるが、構わぬ。全て切り捨て、我等の力がどういうものか、教えてやればいい」
暴力こそが全てを支配できる。それが、バージェスの教えです。
最も忠実に、その教えを再現できるのは自分しかいないとソーは自負していました。
力さえあればいいのだ、それ以外は所詮は見せかけの盾でしかない。友達ごっこをするラミナや、このタイミングで名乗りをあげた風紀委員を、そもそもソーは快く思っていないのです。
ですが、言葉もまた見せかけの盾でしかありません。
だからこそ、参加するのを止めるようなことはせず、今ここで本当の力を証明すればいいと考えていました。
ある一線を越えた暴力は、恐怖を超えて、信仰の対象になります。
多くの観衆の目が集まるこの日は、それを証明するのに最も相応しい日です。
「ここに居る全ての敵を刀の錆びにしてくれる」
「おーおー、盛り上がってら」
巨大モニターには、多くの恐竜騎士団の様子が、それなりの質の映像で映っていました。
多くの人が、賭けの結末を見るためにモニターの前に集まっています。
そんな一団から少し離れたところでコランダムは映像を眺めていました。
「ま、せいぜい頑張ってくれよな」
彼の仕事はまだ残っていますが、この日を迎えるのに比べれば簡単なものばかりです。
気疲れする調整の日々を思えば、もう仕事は終わってしまったもののように思えさえします。
「なるべく人の心に残るよう、派手にやっとけよ」
誰が勝つかはわかりませんが、どう足掻いても恐竜騎士団の求心力は下がるでしょう。
そのためには、ここで威厳を見せる必要があるのです。生放送では編集をする事はできないので、一発勝負でいいところを見せる必要があります。
ここの結果次第では、恐竜騎士団の存続も危ぶまれるます。一方、大きくアピールできれば、存続への希望にもなります。
「さて、俺はおっさんに挨拶にでも行ってくるかね。起きてりゃいいんだが」
多くの人の注目と運命を乗せた決戦が、今始まろうとしています。
果たしてこの決戦のあとに、彼らに居場所は残っているのでしょうか。