「きゃあっ」
浮遊大陸の玄関口である大都市、空京の砂浜を見て、マルティ・ラミールはパートナーのイリス・ウッドの腰に飛びつきました。
マルティに遅れて砂浜へ目をやったイリスも、大きく瞳を見開きました。
「あれは……ファイアサラマンダーの繭!」
白く巨大なファイアサラマンダーの繭、その繭が大量に砂浜に転がっているのです。
「繭? 卵じゃないの?」
「ファイアサラマンダーの繭は殻のように固いのです。孵化すれば、その皮膚は鋼のように強固で、その身に炎を纏います」
通常、ファイアサラマンダーは空京の沖合いに位置する火山島に生息していますが、昨日の嵐で繭が流され、この砂浜に打ち上げられたのでしょう。
浜と繭とを見渡すイリス。「繭の大きさ、そしてこの温かい砂浜……」その表情が次第に強張っていきます。
「マルティ、至急ここを離れますよ」
「大至急、そうです、大至急です!」
イリスが振り向いた時、マルティは携帯電話に向かって叫んでいました。
「力持ちの人をたくさん、たくさんです」
「待って、マルティ! 一体どこに、誰にかけたのですか!」
マルティは生徒会に報告、そして繭を撤去する為に応援を要請したようです。マルティ自身もイルミンスール魔法学園の生徒会役員であり、明日の「海開き」の準備を指揮する為に、先行してこの砂浜にやってきたのです。
「大丈夫、応援を呼んだから、大丈夫」
「違います、逆です! 今すぐこの浜を封鎖、誰も近づけてはいけません!」
「でも、それだと海開きが」
「海開きは中止にするべきです! 繭はいつ孵化してもおかしくない、きっと温かい砂浜が繭の孵化を促しているんです。孵化したファイアサラマンダーは気性が荒く危険です、海開きは中止にするべきで」
「海開きはするのです!」
俯き叫ぶマルティの声がイリスの言葉を遮りました。マルティの体と声は小さく震えています。
「海開きはするのです。空京での海開きは、みんな、みんなが楽しみにしているのです。午後には各学校の生徒達が準備に来てくれます、明日の海開きには大勢の生徒が来ます。みんな、みんな楽しみにしているのです、だから」
ピキッピキィィィィッ
マルティが顔を上げた瞬間、繭の一つから音がしました、孵化が始まったようです。
2人は各学校に状況を報告、正式に応援を要請しました。
「事態収拾の為、明日の海開きを無事に迎える為に、みなさんの力を貸して下さい!」