パラミタ内海に面した美しい海岸。
この一角に、古くからある海の家がありました。
「……ここがよさそうだな」
「ああ、誰も客がこなさそうなボロい店だし、ビーチバレーのコートを作るにはもってこいだ」
数日後、すぐ近くの漁村にて。
「ええ〜っ、海の家を売っちゃうの!?」
海の家を経営している一家の一人娘、クラリスは驚きました。
「そうだよ、もうすっかり店も古くなってお客がこないし、改装するようなお金も家にはないし、買ってくれる人が現れて嬉しいぐらいだよ」
クラリスの母が言いました。クラリスの一家は毎年夏の間、家族で海の家を開いてきました。でもここ数年はほとんどお客がこない状態でした。
というのも、昔は地元の住民が海水浴に来ることが多い海岸でしたが、最近では美しい景観からリゾート目的ではるばるやってくる観光客が増えたのです。
観光客向けのおしゃれな海の家やみやげ物屋が増えてにぎわう一方で、古い店はいまいち人気が出ないため、数が減りつつある、という事実もありました。
「それで、お店を買う人は海の家を続けてくれるの?」
「いや、なんでも観光客向けにびーちばれーというスポーツをする場所にするそうよ」
そう、とクラリスは残念そうに言いました。
その後、散歩に出たクラリスは、いつの間にか海の家の前まできています。
「この店、小さい頃から毎年来るのが楽しみだったけど……壊されちゃうんだな」
「クラリスじゃないか、こんなところでどうした?」
クラリスが振り向くと、そこに幼なじみのエリオットがいました。小さい頃から読書好きだった彼は今、イルミンスールで司書をしているのです。
「じつは……」
クラリスは海の家のことを話しました。
「それで、クラリスはどうなの? この店を守らなくていいの?」
「ううん、もちろん残ってほしい!! できれば、売られないでほしいの」
だったら、行動しなきゃ、とエリオットは言います。
「でも……どうすれば」
「簡単だよ、海の家が繁盛するようにして、ご両親に売らないように考え直してもらうんだ」
海開きの日にまでにお店を改装したり、観光客むけのおいしい料理を用意するなど、できるだけのことをやってみよう、ということになりました。
「そう言っても、お店を綺麗にするお金も時間もないし、料理は好きだけどいっぱい作るのは大変ね……」
クラリスは一人では心細いと感じました。
「それは確かに……村で協力してくれる人がいるといいんだけど」
「うん……とにかく用意しながら、協力してくれる人を探してみる!」
「よし! ぼくも学校で知り合いに協力を頼んでみるよ」
時間はあまりありません、二人は準備を急いで始めることにしました。