冒険好きの学生御用達の『ミス・スウェンソンのドーナツ屋』、通称『ミスド』では、恒例のハロウィンパーティーの準備が行われています。
「今年は、いつにもましてにぎやかになりそうよ」
名物の揚げパンプキンパイの仕込みをしながら、オーナーのミス・スウェンソンは言います。『ミスド』のハロウィンパーティーは、毎年、仮装をして来店したお客にはコーヒーとパンプキンパイのサービスがあり、趣向をこらした衣装を身に着けたお客でにぎわうのですが、今年はスナジゴク討伐で『ミスド』と学生たちの世話になった、砂漠のオアシスに住む直立猫型ゆる族・ミャオル族のアイリたちが店の手伝いに来ることになったため、
「ハロウィンパーティー In にゃんこカフェ『アイリのオアシス』」
という形で開催されることになったのです。にゃんこカフェと言うのは、その日に限ってミャオル族の少年少女たちが『ミスド』のウェイター・ウェイトレスをするというもので、ミャオル族たちに話し相手になってもらったり、撫でたりもふったり(もちろん、ミャオル族たちが嫌がらない範囲でですが)することもできます。もとはスナジゴク討伐で『ミスド』にかけてしまった経済的負担を減らそうと、ある学生が提案したものだったのですが、好評だったため、また行われることになったのです。
「にゃんこカフェにあわせて、猫系の仮装をしてくれてもいいし、もちろん、去年までみたいに思い思いの格好をしてくれてもいいわよ」
「学生さんたちのおかげで、村も元に戻ったニャ。だから、ちょっぴりだけど、村の皆からの差し入れを持って来たニャ。パーティーの日は弟妹たちもお手伝いに来るし、楽しんで行って欲しいニャ!」
コック帽をかぶり、白いエプロンをつけてお手伝い中のアイリがご機嫌で手を振ります。ミャオル族は砂漠で狩猟採集生活をしている一族ですから、差し入れはオアシスの湖で捕れる虫の唐揚げ、あたりかも知れませんが。
しかしその頃、店の裏では騒動が起きていました。
パンプキンパイ用に運ばれて来たカボチャに、いきなり顔のような模様が現れ、次々と浮き上がったのです。
「イタズラ …… イタズラ スルゾォー ……」
どうやら、ハロウィンの悪霊がカボチャに取り付いてしまったようです。
悪霊カボチャは、店の食品収納庫の中をぐるぐる飛び回り、暴れはじめました。カボチャを運んできた運送業者のフォッカー氏は、慌てて叫びました。
「誰かっ、誰か包丁と鍋を持って来てくれ!!」
憑依するカボチャがなくなれば、悪霊は去ります。どのみちパイに使うカボチャですので、片端からゆでて潰してしまおうと言うのです。
騒ぎを聞きつけた学生たちは、手に手に鍋やらナイフやら武器を持って駆けつけて来ました。
「悪霊そのものには武器も魔法も効かないからな! まず、とにかくこの、積んであるカボチャを何とかするんだ!」
元ミスド常連学生のフォッカー氏は、そう言いながら、学生たちに向かって無事なカボチャを放って行きます。
しかし、悪霊カボチャはけらけらと笑いながら飛び回り、牙の生えた口を開けて学生たちを威嚇します。
「イタズラ サセナキャ タベチャウゾー ……」
「気をつけろ、あいつにかじりつかれると、意識を乗っ取られて操られるぞ!」
悪霊カボチャはそれ自体の攻撃力はたいしたことはありません。厄介なのは、人間や動物の頭にかじりつき、寄生しようとすることです(ちなみに、寄生できるのはカボチャに憑依している間だけで、直接人間や動物に憑依はしません)。寄生された者は意識を乗っ取られ、悪霊カボチャの言いなりになってしまいます。かじりついている悪霊カボチャを倒すか引き剥がすかすれば、すぐに元に戻りはするのですが、寄生している間は宿主の能力をそのまま使って攻撃して来るので厄介です。フォッカー氏の警告を聞きつつ、学生たちは悪霊カボチャに向かって叫びました。
「食べられるのはそっちの方だ!! 大人しくパンプキンパイになりやがれ!!」
ミス・スウェンソンのパンプキンパイをご馳走になりながら仮装パーティーを楽しむために、悪霊カボチャをやっつけましょう!