空京

　地球とパラミタ――
　今、この２つの世界は、“最後の女王器”ゾディアックによって消滅の危機を迎えようとしていました。

　世界の消滅を目論むウゲン・タシガン（うげん・たしがん）が、
　女王アイシャ・シュヴァーラ（あいしゃ・しゅう゛ぁーら）を操り、シャンバラからゾディアックを強奪したのです。


　そして。
　太平洋に降りたゾディアックは、東京湾へと進路を取っていました。
　ポータラカ人によれば、東京湾には地球とパラミタを繋ぐ力場が存在しているのだといいます。
　ゾディアックは、その力場に干渉し、世界を消滅させようとしているのです。

　シャンバラは、日本を中心とした、シャンバラの各学校のバックについている先進諸国の軍とともに、太平洋上へ大部隊を展開していました。
　その中には、世界の危機を知って協力を申し出ていたヘクトルと、
　蒼十字に回収され、シャンバラで療養中だった龍騎士や従龍騎士たちの姿もあります。
　作戦内容は、ポータラカ人がゾディアックの停止装置を準備するまでの時間を稼ぐというもの。

　しかし――
　彼らがゾディアックを押し留めるために攻撃を仕掛けようとした、まさにその時、
　突如として海底から膨大な数のゴーストイコンと随伴歩兵アンデッドが姿を現しました。

　その群れは巨大な蚊柱のように吹き上がり、広がり、
　あっという間にゾディアックの姿を覆い隠し、シャンバラと地球の部隊をも黒く飲み込んで行きます。


■

　東京湾沿岸。
　ポータラカ人の空中ドック。

「ウゲンは、これほどまでの数を操っているというのか……」
　
　金　鋭峰（じん・るいふぉん）は、激しい戦いが繰り広げられている映像を睨みながら呻きました。
　彼の隣に羅　英照（ろー・いんざお）の姿はありません。
　英照は、ゾディアックとアイシャをウゲンに奪われた責任を取り、国軍の参謀長を辞任、その後、姿を消してしまっています。

「――まだ停止装置の準備は終わらないのか？」

　鋭峰の問いかけにポータラカ人が答えます。

（装置の準備は、じきに終わる。
　後はあなた方次第だ）

「どういう事だ？」

（ゾディアックを停止させるために、最も必要となるもの――
　それは、あなた方の『強い想い』だ）

「……想い？」

（ゾディアックはイコンの技術を基盤に造られており、女王の力を機体に巡らせる特殊な構造をしている。
　そして、女王の力には人々の心に敏感であるという特性がある。
　そのため、『女王の力に直接想いをぶつける』のが最も効果的な手段となる。
　装置は、あなた方の想いを集め、ゾディアック内部の女王の力に働きかけ、ゾディアックの停止を試みる。

　しかし、有効距離が短いため、
　装置を積んでいる空中ドックをゾディアックに接近させる必要がある）

「あのゴーストイコンとアンデッドの群れの奥へ突っ込まなければならないのか……」

　と、その時、英照からのテレパシーが届きました。

（ジン。聞こえるか？）

「英照！」

（遅れてすまなかった）

　英照は、ウゲンに気付かれぬよう秘密裏にゾディアックの内部へテレポートで潜入していたのでした。
　以前、アーデルハイトが有事を懸念して仕掛けておいたテレポートの簡易マーキングを使ったのです。

（座標用のクリスタルは全て仕掛け終えた。
　これでコリマ校長のテレポートで多くの者をこちらへ送ることが出来る。
　急ぎ、契約者を集めてくれ）

「分かった」

（ゾディアックの内部だが……
　幾つもの異空間が複数の扉を介して連なっている。
　そして、個々の空間は、その空間に居る者の記憶にある風景を再現することがあるようだ。
　どうやら、ポータラカの都市が隠されているのと似た仕掛けが、ウゲンの力の影響で妙な具合に変質しているらしいな）

「――ウゲンがその中に居るのか！？」

（先ほど発見され、現在、交戦中だ。
　しかし、奴がフラワシを使う気配は無い。
　ゾディアックの制御だのが余程応えているのか……
　とにかく、短時間引き付けるだけならば俺だけでも問題は無い。
　ジン。今の内に、女王と十二星華を救え）

　それだけ伝えると英照のテレパシーは途切れてしまったのでした。


■

　ゾディアック内部。

　英照は人混みの中に立っていました。
　彼の周りにあったのは、２０１０年に開かれた上海万博の景色。
　賑やかな人の流れの間を、二人の少年が瞳を輝かせながら駆けて行きます。

（懐かしいな……ジン）

「援軍を呼んでた、ってところかな？」

　その声を聞き、英照は鞭を構えました。
　人混みの影に紛れたウゲンの気配が近づいて来るのが分かります。

「テレポートを使わないのか？
　やはり、もうフラワシを使う余裕が無いと見える」
「本当はフラワシなんかより、こっちの方が得意なんだよ」

　そう聞こえるが早いか、懐へと滑り込んだウゲンの拳によって英照の身体は吹っ飛んでいました。

「昔は、体術も僕の方が兄貴よりずっと優秀だったんだから」
「過去の栄光にすがるほど愚かなことは無いな」

　空中で態勢を整えた英照の鞭がウゲンへと放たれます。


■

　東京都内、新宿。

　既に都内の民間人の避難は終えられており、街はゴーストタウンのように静まり返っていました。
　
「ジークリンデさん！
　急に飛び出して、どうしたんですか？」

　ビルに囲まれた空っぽの街中で。
　ミルザム・ツァンダ（みるざむ・つぁんだ）の問いかけに、
　ジークリンデ・ウェルザング（じーくりんで・うぇるざんぐ）が小さく首を振ります。

「わからない……でも感じるの。
　とても小さいけれど、でも、だんだんとイメージは強くなっている。
　それは、多分このくらいの小さな“結晶”」

　ジークリンデが片手を軽く握りこんで見せ、続けます。

「それがあれば……
　もしかしたら、アイシャという人の心に触れることが出来るかもしれない」

　と――

「キミたちも“それ”を探すの？」

　ふいに現れた気配の方へ身構えると、そこにはシャムシエル・サビク（しゃむしえる・さびく）の姿がありました。

「ッ、生きていたのですか！？」
「ボクも感じるんだ」

　シャムシエルが虚ろな瞳で笑います。

「ゾディアックに呼応して震える、アムリアナの夢。
　それは、この地に封じられていた女王の力の残り香のようなもの。
　とても弱いものだけど――それを手に入れたら、ボクは、きっと女王になれる。
　パパの願いを叶えられる……」
「……“それ”は、どこに？」
「分からない。
　けど、気配はだんだん強くなってきてるから、きっと見つかるよ」

　言って、シャムシエルは飛び去って行ってしまいました。
　入れ替わるように、ビルの影から鏖殺寺院のイコンが姿を現します。
　ミルザムはジークリンデの腕を掴んで、すぐさまビルの影へと潜り込みました。
（……シャムシエル。
　今は亡きカンテミールによって生み出された十三人目の十二星華であり――
　その素体となっているのは本物の、ミルザム・ツァンダ。
　……いえ、今はそんなことより）
　背に重い銃撃の振動を受けながら狭い路地裏を駆け、ミルザムは携帯を開きました。

「都知事のミルザムです！
　至急応援を――――」



■行動指針

　鋭峰の声が契約者たちに伝えられます。

『東シャンバラを中心とした生徒は、
　ミルザムとジークリンデと共に『結晶』の探索を行う。
　現在、彼女たちは新宿の雑居ビル内に居る。
　新宿では、この混乱に乗じて都内に入り込んだ寺院のイコンと日本のイコン・ヤマトタケルが交戦中であるため、迂闊に外へ出られない状態だ。
　彼女たちと合流し、その後、護衛しながら『結晶』を探し出してくれ。

　『結晶』は、“東京に封じられていた前女王の力の名残り”だと推測される。
　記憶と力を全て失ったとはいえ、ジークリンデは前女王であるアムリアナ様自身でもある。
　結晶を手に入れることが出来れば、アイシャ女王をウゲンの支配から解放する切り札になるかもしれない。
　しかし、逆にシャムシエルに奪われれば厄介な事になると予想される。

　なんとか、シャムシエルより先に『結晶』を手に入れてくれ。


　西シャンバラを中心とした生徒は、
　ゾディアック停止装置を積んだ空中ドックを、ゴーストイコンとアンデッドの群れの中へ送り込む。
　圧倒的な数への対処のため、医療班、整備班などのサポートも、いつも以上に重要となるだろう。
　また、装置を使う間、ドックはエネルギーをそちらへ集中させるので無防備になってしまう。
　そのため、ドックへの侵入を狙うアンデッド随伴歩兵の対応も必要だ。

　……ゾディアックが東京湾に侵入すれば、世界消滅へのプロセスが開始される。
　そうなれば、各国は“最終手段”を用いるだろう。
　もし、それで世界消滅を止められたとしても、辺り一帯は壊滅することになる。
　慎重に、だが、迅速に作戦を遂行してほしい。


　ロイヤルガードを中心とした生徒は、
　ゾディアック内部へと向かい、女王と十二星華の救出を試みる。
　内部は幾つもの異空間で構成されており、一つの空間には他の空間に渡るための扉が複数存在している。
　そして、この空間は、そこに居る者の記憶を反映して構築されることがあるらしい。

　ポータラカ人によれば、これは本来ゾディアックが有しているはずのない機能だ。
　おそらく、ウゲンが仕掛けたものでもない。
　力のバランスが引き起こした完全なイレギュラーだと考えていい。

　また、内部にはウゲンが居る。
　そして、今、ウゲンはフラワシが使えない状況にあるらしい。
　奴を倒す千載一遇の好機なのかもしれないが……相手は、あのドージェの弟だ。
　決して無茶はするな。


　以上だ。

　――諸君。
　今、この最悪な状況を打破出来るのは君たちしかいない。
　そして君たちならばそれが出来る。
　世界を、救ってくれ』


■

　エリュシオン帝国。

「……これで、我はパラミタを救うことができる」

　少し若返った様子の大帝アスコルドは、融合装置から出て、笑いました。
　そして、彼は、そばに控えていた白輝精に問いかけました。

「アイリスは？」
「例のイコンの起動に成功したところです。
　これから出撃し、地球へ向かいます」


　――ユグドラシルの地下。

「……凄まじい力だ」

　アイリス・ブルーエアリアル（あいりす・ぶるーえありある）は、イコンのコックピットの中で喉を揺らしました。

　強靭な筋肉が盛り上がる巨大な四本の人間の腕、牙を剥く五つの獣の頭部。
　そのイコンは『兵器』というより、怪物や神と称するに相応しい姿をしていました。

「この子、外に出たがってるよ」

　高原　瀬蓮（たかはら・せれん）の言葉にアイリスはうなずきました。

「出してやるさ。
　……ゾディアックを、食らい尽くして貰う」

『蒼空のフロンティア』のグランドシナリオ　戦乱の絆、第二部の第四回です。

前回ご参加いただけなかった、あるいはまだリアクションを全て読んでない方も、
前回の最終ページと今回のガイドさえ見れば基本的な情報は得られますので問題なくシナリオに参加できます。


■今回のシナリオ区分の執筆マスター
参加したいシナリオ区分の番号をアクションの目的欄に記入してください。


【１】都内での『結晶』探索：九道雷（イコン参加可）　
　東シャンバラ（イルミンスール魔法学校、薔薇の学舎、百合園女学院）を中心に行われる作戦です。
　シャムシエルに協力している鏖殺寺院は、彼女と同じく『シャンバラと地球の融合』を目的とする一派のようです。
　既に日本のイコン部隊が対応に出ていますが、寺院に押されています。
　そこに東シャンバラの部隊が増援としてかけつける形になります。

　『結晶』は東京の地下に存在する空間にあると見られ、
　都内の地下に絡み合う地下鉄トンネルの何処かから行くことが出来そうです。
　シャムシエルはカンテミールの力を一部受け継いだらしく、
　地下鉄を制御してＰＣたちを襲ってきます。地下鉄は車両に潜む特殊な機晶姫を倒せば収束させる事が可能です。
　また、東京の地下に詳しい高根沢理子も合流します。

　作戦は東シャンバラを中心に行われますが、それ以外の生徒でも参加できます。

主なＮＰＣ：ジークリンデ、ミルザム、高根沢理子、シャムシエル


【２】東京湾沖の戦い：森水鷲葉（イコン参加可）
　　西シャンバラ（蒼空学園、シャンバラ教導団、葦原明倫館、空京大学、天御柱学院）を中心に行われる作戦です。 　空中ドックはリング状の宇宙ステーションのような形の巨大施設です。
　シャンバラの飛空艦や地球の艦隊などが出て、空中ドックの支援を行います。

　金鋭峰は総司令として旗艦で指揮をとっていますが、いざとなれば関羽と赤兎馬で戦いに出ます。空を飛べないイコンでも、空中ドック、飛空艇、空母などをイコンの足場にすることが可能です。

　ヘクトルはシャンバラから借りたイーグリットで空中ドックの道を作るために戦います。
　また、龍騎士、従龍騎士たちもシャンバラに協力しています。


　随伴歩兵アンデッドは人間サイズのモンスターです。
　ゴーストイコン同様、一体一体の強さはそれほどではありませんが、こちらも尋常ではない数が出現しているために油断は禁物です。
　また、ゴーストイコンやアンデットたちは融合して巨大になって襲ってくるケースもあるようです。

　アイリスのイコンはパラミタから高速でゾディアックに向かって接近しています。

　作戦は西シャンバラを中心に行われますが、それ以外の生徒でも参加できます。

主なＮＰＣ：金鋭峰、関羽、ヘクトル、アイリス、高原瀬蓮


【３】ゾディアック内部：村上収束
　特殊な異空間です。
　再現された景色は、人などの生物以外は実体化しています。
　風景に紛れて吸血鬼の暗殺者たちがＰＣたちを襲ってきます。

　また、契約者たちには、女王と十二星華の緊急脱出を行うためのプログラムが渡されています。
　十二星華に関しては、いずれかの空間にそれぞれの神騎があり、
　それにプログラムを使えば、その位置に本人を脱出させることができます。

　アイシャは異空間の何処かから繋がるコックピットに居ます。
　また、今回は女王の位置を探るためにアイシャのパートナーであるセレスティアーナが同行します。

　作戦はロイヤルガードを中心に行われますが、それ以外の生徒でも参加できます。

主なＮＰＣ：東西ロイヤルガード、ヴィルヘルム、アイシャ、羅英照、セレスティアーナ、前回ゾディアックに搭乗したままの十二星華、ウゲン


【４】その他：村上収束
　他の区分に登場する場所などと関係のないアクションはこちらとなります。採用率は厳しくなりますのでご注意ください。

■その他注意事項

●ゾディアック停止装置へ送る『想い』について
世界を消滅させようとしているゾディアックを停止させるには、多くの強い想いが必要となります。

想いを送る方は、アクション内に『【想】』と記入し、その後ろに想いを込めた台詞を書いてください。

想いは、都内、東京湾沖、ゾディアック内部のどの場所に居ても装置に集められます。

こちらの台詞は、アクションの採用不採用とは関係無くリアクション上に反映される可能性があります。

●七曜について
・前回シャンバラに捕らえられなかった七曜は、ゾディアック内部の防衛を命じられています。
　また、こちらの七曜は『ウゲンの目的が、地球とパラミタの破壊にある』という情報を得られてはいません。

・前回シャンバラに捕らえられた七曜は、
　監視付きで、シャンバラの作戦に参加することが出来る可能性があります。



それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

５月１７日追記
ゾディアック内部にいる十二星華は以下となります。
・アレナ
・テティス
・ティセラ
・セイニィ
・パッフェル
・エメネア
・ホイップ

・ペリフェラルシナリオ『恐竜騎士団の陰謀』で指名手配になった方の行動制限
エリュシオン領（キマクなど）で活動しない限りは
指名手配による影響を受ける事はございません。

・【１】寺院イコンを倒す

・【２】ゴーストイコンを倒す！

・【３】ウゲンを倒す！

・【４】アスコルドをカツアゲする！