「アテンション!(傾聴)」
大きく声が響きました。ここはパラミタの大地。特に癖のある生徒が送り込まれると評判のシャンバラ教導団分校、三郷キャンパスです。さすがにグラウンドに整列した新入生達はあからさまに表情には表していませんが、そわそわした様子は不安が期待を上回っていることを示しています。
やがて壇上に一人の女性士官が姿を現しました。前髪を切りそろえ、長い黒髪をなびかせた姿は日本人形を思わせます。もっとも、日本刀などを手にしていなければ、ですが。
「ようこそ、シャンバラ教導団、三郷キャンパスへ、皆さんを歓迎します」
女性士官は持っていた日本刀の鞘を突き立て、柄に両手をかけて周りを睥睨しました。
「私は本分校にて生徒会長をしています、和泉詩織と申します。これから皆さんはこの分校にて、技量を極め、訓練に励み、この大陸にて将来を担う人材として研鑽を積んで頂くこととなります。ご存知の通り、皆さんはこの分校を志願した、あるいは特に適性が高いと見なされた方がほとんどです。一部噂になっているとは思いますが、この三郷キャンパスは事実上の実戦体制にあります」
生徒達の間からはわずかにざわめきが聞こえます。三郷キャンパスが現地にて既に局地紛争レベルの戦いを行っているとの噂は早くからあったからです。
「この地には必ずしも友好関係を持つ勢力ばかりではありません。皆さんも戦いの中に身を投ずることとなるでしょうが広い視野と、プロフェッショナルな意識を持って高みを目指してください」
厳しい表情で和泉が壇を降りると代わって、何となく緊張感に欠ける士官が出てきました。ぽやぽやした感じが先ほどの和泉とは正反対です。
「あ〜、副会長の志賀正行です。早速ですが、皆さんはすぐにでも任務にかかって頂きます〜。私たち教導団はこの地方のラピト族の皆さんと友好関係にあり、まあ、この分校の土地を提供してもらっている訳ですが〜、敵対勢力が侵攻しつつあります。私たちはラピト族の部隊とともにこれを撃退せねばなりません。偵察部隊および補給部隊を早急に動かします。そちらにある程度回ってもらいますが、とりあえず、ほとんどの人はまず、訓練を行ってもらいます。敵勢力の戦力は我々より遥かに大きく、ラピト族部隊と協力しなければ苦戦は免れません。そのため、合同訓練を行い、部隊として一体化する必要があります」
最近まで銃器を知らなかった人々と協同で戦わねばならないのは実際厳しいと言えが、戦力比率では彼らが主体になるようです。
「この地方の政情は不安定です。今後、我々がラピト族を助けることが大きな意味を持ってきますのでしっかり訓練に励んでください……。あ、ちょうど、合同訓練に参加するラピト族部隊の皆さんが来たようです……」
志賀の視線の先に新入生達は振り向きました。そして皆はそのまま硬直しました。
向こうから迷彩服を着込みアサルトライフルを担いだまま整列行進してきたのは見間違いでなければウサギ、人間大のウサギの集団だったからです。
「え〜、ラピト族にはウサギの姿のゆる族の人たちが多いようでして……」
既に志賀の声を聞いている者はほとんどいませんでした。そして、完全武装のウサギの着ぐるみ集団は生徒達に向かって一斉に敬礼しました。
「よろしくお願いします!!」