空京に、冒険好きな学生が集まる一軒の店があります。
『ミス・スウェンソンのドーナツ屋』通称『ミスド』。美味しいドーナツとコーヒー、そして店員の可愛らしい制服でもちょっと有名な店ですが、学生たちにはそれ以上に、冒険好きな学生と冒険の情報が集まる店として知られています。オーナーはヨハンナ・スウェンソンという若い地球人の女性で、
「頑張ってる学生さんたちを見るのは楽しいし、ちょっとでも助けてあげたいのよ」
と言って、コーヒー一杯、ドーナツ一個で長居する学生も、温かく迎えてくれます。
その『ミスド』に、ある日の午後、珍しいお客がやって来ました。いえ、正確には倒れ込んで来たのです。
「た、助けて欲しいニャ……」
それは、人間の子供ほどの身長の、猫の着ぐるみのゆる族でした。元は白いらしい体は、砂にまみれて薄茶色です。
店に入るなり倒れてしまった彼に、店員が慌てて水が入ったコップを差し出すと、一気に飲み干してぺこんと頭を下げ、店にいた学生たちを見回しました。
「ボクはミャオル族のアイリと言うのニャ。砂漠にある村から、はるばる助けてくれる人を探しに来たのニャ」
アイリの話によると、ミャオル族は砂漠の中の小さなオアシスに村を作り、狩猟と採集で毎日の食べ物や生活に必要な道具の材料を集めて生活しているのですが、最近、村の周囲の砂漠に巨大なアリジゴクのようなモンスター、スナジゴクが数匹住み着いてしまい、狩猟や採集が満足に出来なくなってしまったそうです。
「スナジゴクは砂丘にすり鉢状の巣穴を掘って待ち伏せしているんニャけど、獲物の足音を聞きつけて、砂の中を先回りして罠を仕掛けるタチの悪いモンスターなのニャ。ボクたちも必死で戦ったけど、ケガ人が増えるだけで、歯が立たなかったのニャ……」
悔しそうにうつむくアイリに、ミス・スウェンソンがご自慢のドーナツを差し出します。それを一口かじると、アイリはぽろぽろと涙をこぼしました。
「オアシスの中でも、果物や草が少しは採れるニャ。だけど、村に住んでいる全員を養うには足らないのニャ。みんな、おなかをすかせているニャ……。だから、ボクはスナジゴクの包囲網を突破して、助けてくれる人を探しに来たんだニャ」
アイリは目に涙を浮かべて、床に額をこすりつけました。
「ここに来れば、誰か助けてくれる人が居るって聞いて来たのニャ。お願いニャ、スナジゴクを倒して、ボクたちの村を救って下さいニャ!」
「かわいそうに……ねえ皆さん、何とかしてアイリくんたちの村を救ってあげられないかしら? モンスターを退治するまでの皆さんの食料は私から提供するし、戻って来たらコーヒーとドーナツを好きなだけご馳走するから」
ミス・スウェンソンも、学生たちを見回します。