いよいよ冬本番。ある日のイルミンスール魔法学校。
確かに外は寒いけど、寒いなら寒いで、まぁそれも楽しもうじゃないか――と、どうにものんびり言っていられない事態がイルミンスールを襲っていました。
学生寮全館の暖房停止。
原因不明のトラブルにより、三日前から学生寮の暖房が完全に停止。
先生や職員が上へ下への大騒ぎを繰り広げていますが、いまだ解決の目処がたちません。
具体的にどこが故障していると言うよりは、どうにも寮の動力源そのものに問題がある様子なのですが……。
ガチガチガチ……と震える生徒達のために、倉庫の奥から古い薪ストーブが引っ張り出されるやら、クモの巣が張りっぱなしだった暖炉に火が入るやら、緊急の対応がされたのですが、そうも燃やす物がある訳ではなし。このままの状態が続けば、いつどこで火事が起こっても不思議ではありません。
そんな中、生徒達はと言えば……こんなに寒いのでは、ベッドにもぐり込んでいるか、火のある近くにいる他どうしようもありません。
ここ、寮の談話室の暖炉前にもわらわらと生徒達が集まっていました。
そこへ――
「ケインがいなくなっちゃったぁ!!」
息を切らして飛び込んできた小さな姿はイルミンスールの教師ケイン先生のパートナー、魔女のブリュンヒルト。
聞けばケイン先生、昨日遠くからやって来るというヒルトの友人を迎えに出かけたまではよかったのですが、お騒がせ教師の本領発揮。そのまま音信不通になってしまっているので一緒に探して欲しいというのです。
「他の人は、誰も話、聞いてくれないし……」
確かに、ケイン先生の音信不通は気になりますが、イルミンスールは現在大混乱中。
「それどころじゃない」と言われてしまっても仕方がないのかも知れません。
とは言え、悄気返って涙を浮かべているブリュンヒルトの姿はひどく気の毒です。
「密猟者につかまってるかもしれないんだよ!?」
突然物騒な単語が飛び出して来ましたが、なるほどそう言えば冬のザンスカールで希少な生き物を捕らえる密猟団の噂がありました。多少大げさに語られたその話をブリュンヒルトは真に受けているのかも知れません。
なんにしろ、ここで背中を丸めているより、確実に体は暖まりそうな話です。
生徒達は、腰を上げました。