空京大学

「あの……緊急の要件、とうかがいましたが」
　ルミーナ・レバレッジ（るみーな・ればれっじ）の口調は普段通りおだやかですが、顔には当惑の色がありありと浮かんでいます。
「そうよ、もう一度よく見て！」
　右手左手、その両方を肩の高さまで上げたまま、蒼空学園理事長兼校長兼生徒会長御神楽　環菜（みかぐら・かんな）は一歩、ルミーナに向けて大きく踏み出しました。
「意見を聞かせてちょうだい！　これは重要な選択よ！」
　両手をあげたまま、さらにずずい、と迫ります。
「どっちが似合うと思う！？　ビキニか、ワンピースか！？」
　そう、環菜の左右の手には、大胆なカットのビキニの水着と胸元の大きく開いたワンピースの水着、それぞれがハンガーに吊された状態で示されているのでした。ちなみに、どちらも色は鮮やかな白です。
「そんなこと言われましても……」
　ルミーナはますます当惑するのでした。

　皆さんもご存じかもしれませんが、環菜には少々わがままで気まぐれなところがあります。
　本日、「緊急事態よ！」といきなり理事長室に呼び出されたルミーナですが、駆けつけてみればわけもない、「私に似合う水着はどっちか選んで！」、などと環菜に命じられたのです。
「……わたくし、外回りの途中でしたのでこれにて失礼しますわ」
　くるり背を向けようとしたルミーナに、ちょっと待って、と環菜は声を上げました。
「水着はともかく、要件があるのは本当」

　環菜によれば、こういう話があるそうです。
　超巨大複合型プール施設『スプラッシュヘブン』のリニューアルオープン日に、学園の生徒が無料で招待されることになりました。
　透明の覆いに包まれたドーム型の室内は、プールまたプールのまさしく水飛沫天国です。広大なドームは優に数百人を容することができ、名物ウォータースライダーを筆頭とする様々に意匠を凝らしたプールの数々があるといいます。
　ただ、どれも「やりすぎ」感にあふれたもので、ウォータースライダーは最高時速102キロに達するという爆速のものだったり、飛び込み台は最高で高さ50メートルという殺人的なシロモノだったり、波の出るプールには、一時間に一回『台風時の高波』を再現してくれるという恐怖のサービスがあったり、カップル用の「これ密着しないでどうやって入るんだ？」と言いたくなるような極小定員二名プールがあったりと、色々な意味で多種多様だそうです。
　もちろん普通のプールもたくさんあるし、ゆったりと流れるプールやサウナもあります。たとえ泳げなくたって、大きな水面にビニールボートを浮かべ、ゆらゆら揺れているだけで夢心地でしょう。のんびり過ごすにもいい場所なのです。
　泳ぎ疲れたら世界の屋台がふんだんに並ぶプールサイドフードコートを楽しんでもいいでしょう。焼きそばタコ焼きソフトクリームといった定番中の定番に始まり、蕎麦、ピザ、ラーメン、カレーという庶民派の品揃えばかりか、ケバブ、トムヤンクン、ベトナムフォーといった変わり種が顔をのぞかせ、かと思えば懐石、フレンチのコース料理まであるそうです……プールサイドでしかも水着姿で食べるものなんでしょうか、それは？

「なかなか結構なお話ですわね。学生に伝達して参りましょう。お任せ下さいまし」
「お願いするわ。ただ、招待されたのだから気兼ねなく遊んでくればいいわけだけど……一つ困ったこともあるらしいの」

　現在このプールの隅には、どこから入り込んだのか、全長30メートルを優に超える巨大なカメが出現しており、場内で一番大きなプールを占有してどいてくれないというのです。カメがいるため、この時期になっても一般人向けに開放できないでいるのです。

「プール自体は直径80メートル程度の円形、このプールに入ってくる者をカメは容赦なく攻撃してくるみたいね。このカメ、数週間前からいついているそうよ。まったくどこから入ったのだか……カメだけに『のろい』がかかっているといったところかしら？」
「はい？」
「いや、今の、洒落だから」
「？」
　ルミーナは環菜のパートナー、才色兼備を絵に描いたような彼女なのですが、唯一残念な欠点があります。
　言葉遊びのたぐいがほとんど通じないということです。
「まあいいか……。ええと、得た情報を総合したところ、カメ自身もこの状況に戸惑って怯えているだけみたいだから、退治したりする必要はなさそうね。なだめすかして外に連れ出すことができればいいのだけど」

　いずれにせよ、話の要点は簡単です。
　プールで一日遊ぶもよし、こんな場所に来てしまって怖がっているカメを安全な屋外まで連れ出してあげるもよし、いずれにせよ、いよいよ本格始動する夏、その始まりをここで迎えよう！　思い出を作ろう！　ということなのです。

「もちろん私も行くつもりよ、この水着のどちらかを着て、ね」
「ではわたくしは、目付役として、環菜様のお側に控えましょう」
「泳がないの？」
「仕事ですから」
「ところで、水着どっちがいいか選んで！　自分じゃ決められないの」
「それもわたくしの仕事ですか……？」
「そうよ」

　夏です。心躍る夏がやってきました。
　青い空の下、巨大複合プール施設『スプラッシュヘブン』で一日を過ごしてみませんか？
　パートナーやお友達と一緒に、あるいは、最愛の人と。
　気になるあの人を誘ってみましょう。新しい出会いを求めてみてもいいでしょう。
　ゆったり過ごして疲れをとるのも楽しみ方、猛烈アトラクションでスリル体験するのも楽しみ方、食道楽にいそしむのだって立派な楽しみ方です。かわいそうなカメの窮状を救うべく、一肌脱ぐのもすばらしい行動といえましょう。
　どう楽しむか、どんな思い出を作るかはあなた次第です！　ご来場をお待ちしています！

　ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
　マスターの桂木京介（かつらぎ・きょうすけ）です。よろしくお願いします。

　このシナリオでは、巨大複合プール施設『スプラッシュヘブン』で一日過ごすことになります。
　学校による参加制限はありません。オープニングでは蒼空学園に招待状が届いていますが、同じものが各校に展開されているので他校の生徒も参加できます。

　このシナリオでできそうなことは、大きく分けて以下の４つでしょうか。

１……流れるプールや巨大プールで、一日ゆったりと過ごす。
　忙しい毎日で疲れている人向け。一人でも、誰かと一緒でも、くつろいでリフレッシュできそうですね。
　プール脇にトロピカルドリンクを置いて、水着姿で読書やお昼寝するのもリゾートっぽくて良いでしょう。
　水着姿にこだわりがあるかたは、「赤いビキニでトロピカル柄のパレオ」といった風にアクションに記述しておいて下さると助かります。
　なお、ドームの透明の覆いは紫外線を大きくカットしてくれますが、焼きたくない方は日焼け止めをお忘れなく！
　
２……爆速ウォータースライダーや高すぎ飛び込み台でスリリングな一日を過ごす。
　来たからにはガンガン遊びたい！　そんなチャレンジャーにもってこいの行動です。
　爆速ウォータースライダーは、特殊コーティングのされたビニールボートに乗って滑り降ります。ボート無しで試すと……摩擦でお尻が燃えちゃうかもしれませんよ！
　皆さんの能力は一般人を軽く超越しているので、飛び込み台から変な落ち方をしてもケガしたりはしません。でもやはり、華麗なダイブを見せたいところですね。
　波のプールの『高波警報』は一時間に一回、きっかりやってきます。すごいことになります。

３……世界の屋台料理を食べたり、カップル用プールで夢のような一日を過ごす。
　水着姿で色々巡り歩いてみましょう。
　水着でグルメというのもオツなものです。滅多にない料理なんかも見つかるかもしれません。
　カップル用プールは、ラブにひたりたい人たち向け。ちゃんと椰子の木陰で外からは見えにくくなっていたりします。「こんなに狭いとは思ってなかった」などと白々しく言い訳しつつ、パートナーを誘ってみては？

４……巨大カメを怖がらせないように説得し、プールから連れ出す。
　現場のプールに入るなり、カメは凄い勢いで突進してきます。なんとかなだめて敵ではないことを説明し、上手く外まで誘導したいものです。ドームの覆いは開閉ができますので、出て行くときは開けてもらえば良いでしょう。
　攻撃して追い出す、という手もありますが、逆に暴れて大変なことになるかもしれません。平和的にいきたいところです。この作戦には協力が必要になりそうです。なだめる役、足止めする役……といったように分業するのが効果的かもしれません。

　以上、やはり今回も、皆さんのアクションに込められた『想い』をできるだけ汲み取ってリアクションに反映させたく思っております。思い出作りのお手伝いをがんばります。

　皆様のご参加、楽しみにお待ち申し上げております。
　桂木京介でした。

・流れるプールや巨大プールで、一日ゆったりと過ごす。

・爆速ウォータースライダーや高すぎ飛び込み台でスリリングな一日を過ごす。

・世界の屋台料理を食べたり、カップル用プールで夢のような一日を過ごす。

・巨大カメを怖がらせないように説得し、プールから連れ出す。