「野良猫……じゃなくて、野良獣人ですね」
と、目賀トレルは呟きました。
「にゃあん」
と、人懐こく鳴いて見せたのは獣人らしき猫娘。
トレルお嬢様は東シャンバラへ向かう途中で、猫耳と尻尾の生えた獣人らしき猫娘を見かけました。
無視しようとしたら目が合ってしまい、仕方なく近づいてみたトレルお嬢様でしたが……。
「ああ、お腹が空いてるんですか? でも私、これでも猫アレルギーだしなぁ」
と、2メートルほどの距離を置いて、猫娘の方へ小袋に入ったチョコレートを投げてやります。
猫娘の注意がチョコレートに向いたのを見ると、トレルお嬢様はすぐにその場を離れていきました。
異変に気づいたのはその数分後。
トレルお嬢様は誰かが後を付けてくることに気づき、ぱっと後ろを振り返りました。
「にゃーん」
そこにいたのは先ほどの猫娘。口には何故かネズミをくわえています。
困惑するトレルお嬢様に歩み寄ってくると、猫娘はネズミを地面へ落としました。褒めて褒めて、と言うようにじっとお嬢様を見つめます。
どうやら猫娘に気に入られたようです。相手はトレルお嬢様に懐いているようでしたが、お嬢様には迷惑なだけ。
「……ごめんなさいね」
と、トレルは猫娘を無視して歩き出しました。
しかし、その後も猫娘のストーカー行為は続いたのです。
ネズミの次はウサギ、その次はさらに大きな動物……と、だんだんとその行為はエスカレートしています。
ヴァイシャリー付近へ来た時、トレルお嬢様は知り合い全員にメールを一斉送信しました。
『猫娘にストーカーされてます。猫アレルギーなので、助けて下さい』
さすがに獲物をとってくることは諦めた猫娘ですが、このまま街へ入ったらどんなことになるか……トレルお嬢様は心配でした。
猫娘には学習能力があるらしいので、なりふりかまわずとんだ迷惑を起こしてくれるかもしれないのです。
どこからか商品を盗んできたり、街の人たちを巻き込む恐れもあります。
その前にどうにか、付いてこないよう分からせなければならないのですが、猫アレルギーなので迂闊に近づけません。
しかし、この猫娘は獣人ではありませんでした。猫型の機晶姫だったのです。
しかも一部では名前の知れた格闘家であり、頭が切れることでも有名でした。
実は……キマクで悪漢たちに襲われたところを命からがら逃げ出したのですが、記憶喪失になって猫化していたのです。
もちろん悪漢たちは、猫娘のことを忘れてはいません。今度こそとどめを刺すつもりでいます。
何も知らないトレルお嬢様がキマクへ行ったら、彼らの争いに巻き込まれるのは確実です。
もしかすると、人質に取られてしまうかも知れません!
そうなる前に記憶が取り戻せればいいのですが――。
* * *
今回、トレルお嬢様は東シャンバラを旅していきます。
ヴァイシャリー → ザンスカール → キマク → タシガン → 空京(自宅)
の順に回る予定ですが、予定は飽くまでも予定です。
トレルお嬢様は今回、女装をしており、いかにもお嬢様風の格好をしています。
猫娘一人では勝てなかった悪漢たちですが、仲間がいれば勝てるはず。お嬢様のためにも、力を合わせて立ち向かいましょう!!