空京の街には、様々な人の分身が溢れていました。
しかも、その分身は元となる人物と少し性格が違ったりするようで……。
「そこのお嬢さーん! 俺と一緒にお茶しなーい?」
「やめろーー! 俺はそんな軟弱じゃなーーい!!」
とっても大変そうです。
なぜ、こんなことになってしまったのかというと……――
――騒ぎ発生の数時間前、事件発生地は病院の中庭。
「……分身薬。そんなの使っても無意味だよ」
12歳の地球人の少女は不機嫌そうに言いました。
「無意味じゃないよ。これで走ってるところを見て不安なんか吹っ飛ばそう。手術は絶対に成功するんだから。あとは美絵華(みえか)ちゃんの心の持ちようだよ!」
少女が座る車椅子を押している若い看護師が励まします。
この二人の近くに分身薬の入った霧吹きを持つ悪戯好きのロズフェル兄弟がいました。
「俺達がたまたま病院に来ててラッキーだぜ」
「ほんの少し体に振りかけるだけで自分の思い通りに動く分身が生まれるんだ」
実は友人の見舞いに来ていた双子は帰り際に美絵華の心を明るく変えたいと悩んでいた看護師の話をたまたま耳にして助力を名乗り出たのです。ちなみに薬は楽して宿題を終わらせようと二人が作成を進めていた物です。
「……最初は薬で治るって言ってたのに全然治らなかった。手術だって失敗してずっと歩けないままに決まってる。夕花(ゆうか)さんだって本当はそう思ってるんでしょ」
美絵華は思い出していました。走っている途中に突然両足が痺れて力を失って動けなくなってしまった時のことや苦い薬に長い検査、時々襲う痛みや力を失って動かなくなった足。
「美絵華ちゃん、今度は凄腕のお医者さんが悪いところをあっという間に取り除くんだから大丈夫だって。歩けるし、また走れるって。走るのがすごく得意だったんでしょう」
美絵華が入院してからずっと担当し、姉妹のように仲良くなった彼女は誰よりも美絵華が元気になって欲しいと思い、今日も昨日と同じように励まします。
「とりあえず、分身を見てからだ。解除薬はここに置いておくぞ。キスミ、かけろ」
「おう、シュッと!」
薬の効果を早く知りたいロズフェル兄弟は解除薬の入った霧吹きを近くのベンチに置きました。
そして、薬を美絵華にかけようとした瞬間、
ボフンッ!!
凄まじい音と共に木っ端微塵に爆発して液体は天高く舞い上がり、
「わぁ、綺麗!!」
ちらりちらりと輝きながら降って美絵華は思わず、声を上げます。
「……分身」
分身薬の雨を浴びて美絵華の分身は生まれたかと思うとベンチに置いてある解除薬をバトンのように持って走り去りました。
「……爆発って、あれの代用品に違うのを入れたのは失敗だったか?」
「ヒスミ、オレ達の分身が!」
薬を浴びて騒ぐロズフェル兄弟。どうやら薬は失敗昨だったようです。
生まれた彼らの分身は楽しそうに病院の壁に落書きをしています。
「おいおいおいおい」
「やめろ!!!」
二人はやめさせようとするも分身達はすばしっこくなかなか捕まえることが出来ず、悪戯は病院の外にも広がります。
「……追うぞ、キスミ!! もしかしたら街もひどいことに……」
「とりあえず、助けがいるぞ。近くの掲示板に適当に書き込んでからだ」
猛スピードで病院を飛び出し、周辺の人々を巻き込んだこの騒ぎに救援が来ることを信じて近くの掲示板に事情を書き込み、自分達の分身捕獲に急ぎました。
「……大丈夫? 美絵華ちゃん」
中庭で唯一助かっていたのはたまたま木陰にいた夕花だけでした。
「……うん。でも」
頷きながら、薬のせいでめちゃくちゃな分身に振り回されている人々を見て美絵華は責任を感じていました。自分のせいだと。