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シナリオガイド

超高級ふかふかお布団の秘密を暴け!
シナリオ名:目覚めまであと5分 / 担当マスター: 有沢楓花

 パラミタ内海の中央部には、“原色の海”(プライマリー・シー)と呼ばれる海域があります。
 無数の青が織りなす海の色からその名を付けられたという美しい場所で、原色の海はどの国にも属していません。長年、三色の旗を掲げる三つの部族が、それぞれの住処を治めてきました。
 赤の旗を掲げ列島に住む、ゆる族を中心とする、ヌイ。
 緑の旗を掲げ海上の森に住む、花妖精と守護天使が代々治めるドリュス。
 青の旗を掲げ海底都市で鯨の女王に従う海の獣人部族アステリア。
 他国との交流も盛んとは言えないその海域でしたが、近年になって、各国の商人たちが効率を求めて移住を始めました。
 三つの部族が治めるほぼ中央の海には、小さな島があったのです。ここに部族長の許可を得て自治都市をつくりあげたのでした。
 自由都市、交易都市とも称されるその都市・ヴォルロスは、現在では原色の海における中立地帯であり、交易拠点ともなっています。

 ──ヴァイシャリーと、この海域での交易が始まってしばらく経ったある日のことです。
 百合園女学院の一室で、この春から百合園専攻科の女官コースで教鞭を取るエヴァット夫人は教鞭を取っていました。
「どんな時でも整頓、つまり清潔感が大事です。こちらは例ですが──」
 彼女たちの前には幾つものベッドがあります。今日はベッドメイキングの授業のようでした。
 様々な大きさと種類の広いベッドの上には、皺ひとつない幾種類ものシーツが敷かれ、布団が乗っています。
 どんなベッドでも、どんな素材でも完璧なベッドメイキングをするためのものですが……、
「先生、この羽毛布団は、どのようなものですか?」
 ひとつのベッドの前で、生徒が立ち止まりました。昨日夜更かしをした生徒でなくても、潜り込んでそのまま寝てしまいたい、とつい思ってしまうようなふかふか加減です。
 春眠暁を覚えずといいますが、一年中潜り込んでいたい肌触りと軽さでした。
「これは確かに珍しいものですね。ヴォルロスで最近とみに評判が高いという寝具店のものですね。
 上質な素材をふんだんに使用しているようです。この寝具店は、評判が良ければ実習や学生寮にも使用して欲しいと、売り込みに来ましたね」
「見事なものですわ。是非一度製造行程をこの目で見たいものですわね。念のため、品質にばらつきがあってはいけませんし」
 生徒会長のアナスタシア・ヤグディン(あなすたしあ・やぐでぃん)は、ヴォルロスへの滞在経験がありません。
「最近はヌイ族特製の着ぐるみでの観光というのもあるそうですわよ」
 社会科見学兼観光ということで、有志と共に、寝具店に見学に行くことを決めたのですが……。



「……いたたたた……」
 守護天使の青年は、後頭部の痛みで目を覚ましました。
 いえ、ずきずきするのが後頭部だけで、全身、特に背中が鈍い痛みで支配されています。
「……何だこの床……、ううん、岩か……?」
 どうやら岩肌に寝かされていたために体が痛かったようです。彼は半身をゆっくり起こすと、周囲を見回します。
 周囲には同じように、二、三人の守護天使が横たわっていました。
 その岩でできた小部屋は、どうやら牢屋のようでした。鉄格子には、同じく鉄でできた扉が嵌っています。
 鉄格子を挟んで向かいにも同じような小部屋があるのが、通路の壁にかけられた松明がうすぼんやりとした灯りを放っているおかげで、ようやく分かりました。
「……大丈夫ですかー?」
 小さく声をかけて、転がっている守護天使を揺り動かそうとして、じゃら、という音に気づきます。
 彼の手足には枷が嵌められた上に鎖で壁に繋がれていたのです。壁から半径一メートルくらいしか動けなさそうで、これでは牢屋の出口にも近づけません。
 しかもそれには、魔力を封じる細工までしてありました。
 おまけに、転がっている守護天使は──単に眠っているのではなく、どうも気絶させられているようなのでした。周囲には羽根が散らばっています。
「…………」
 魔法が使えないのでは、無暗に揺り起こすわけにもいきません。もし何かあっても治療もできないのです。
 その時コツコツと遠くから足音と話し声がして、彼は急いで床に伏せ、気絶しているふりをしました。
「……評判は急上昇です……売れ行きは……。このまま……ば……」
「……そうだな。試作品の受けもよかった。一年後には新規事業として、服飾部門を立ち上げるのもいいだろう。その際はお前に任せよう」
「ありがとうございます。光の翼で織った布、ドレスにすればどれだけの貴婦人が買い漁るか……」
 声からして、どうも中年の男と、部下の女のようです。彼らは牢屋の前で足を止めました。松明かカンテラでも持っているのか、周囲が明るく照らされました。
「おっと、忘れては困るな。その前にゆる族のシェアを充分に奪うのだ」
「失礼しました。社長の野望は、ぬいぐるみ兵器の販売──見た目ゆる族爆弾の開発でしたね。ぬいぐるみの爆発物だけでも恐ろしいのに、ゆる族の爆発だと思われれば、濡れ衣を着せることもできる……」
 青年は深く深く息を吐いて、それからふっと思い出しました。
 一緒にリフレッシュ休暇とやらで、観光と綿の補充の案内役を務めさせた──以前、濡れ衣を着せられて困ったのはお前のせいだとかなんとか、身に覚えのない理由で──あの、薄汚れた熊のぬいぐるみ、に見えるゆる族のことを。どこかに彼も囚われているのでしょうか。
 薄目を開けて見ると、牢屋の向かいにも光が届いています。
 そこにはぬいぐるみが積み上げられています。大小の着ぐるみは、熊、うさぎ、猫、犬、カバ、ラクダ、アンパン、ぬいぐるみを抱いたぬいぐるみ、人間サイズの美少女型の着ぐるみまでがありました。
 彼らも犠牲者なのでしょうか、それとも試作品なのでしょうか……?
「あははは」
「ふふふふふ」
 再び、声と足音が遠くなっていきます。そして、疲労のせいで、再び青年の意識も遠くなっていきました。
 かすかな潮の匂いと遠くに聞こえる漣の音に包まれながら……。



「──それで、昨日の朝から出かけたまま帰ってこない、と……?」
 ある日の朝の事です。ヴォルロスにある、一件の宿屋兼酒場。その客室で、数人が膝を付きあわせるように座っていました。
「ははあ、そういうわけでございます」
 ヌイ族の、カバの着ぐるみ姿をした族長、ドン・カバチョは、ヴァイシャリー艦隊の海軍提督フランセット・ドゥラクロワ(ふらんせっと・どぅらくろわ)に向かって、大きく頷きました。
「何しろ列島はのんびりしたものでして、はい。都会は珍しいとはいえ何度か遊びに来ている筈なのでございますが……。
 しかも今回は私ども族長一族のカバの姿が嫌だとかで、新しい着ぐるみで飛び出したようでして、姿も検討が付かないのでございます。
 姪が事件にでも巻き込まれたのではないかと思いまして」
「そんな大げさな。年頃の娘さんなら一晩くらい帰ってこなくったって──」
 艦隊の船医の青年は肩を竦めましたが、聞いたフランセットの顔は真剣でした。
「その可能性はあるな。ここ数か月起こっているゆる族及び守護天使の連続失踪事件はこちらでも把握している」
「あれ、そうなんですか?」
「ああ。地元住民のほか商人、観光客。それに、昨日はイルミンスールから訪れた客人も行方不明になっていると聞いている。今報告を待っているが──」
「──提督!」
 その時、扉がノックされたかと思うと、ばんっと扉を開いて飛び込んできた少年がいました。
「おっと、……失礼いたしました」
セバスティアーノか。話せ」
 慌てて敬礼を取る黒髪のどこか幼い印象の少年は、上官の命令に、話し始めました。
「はっ。イルミンスールより訪れた客人の正体が判明いたしました。
 ゆる族のモップス・ベアー(もっぷす・べあー)。彼の案内役として、ドリュス族長ドリュアス・ハマドリュアデスの補佐を務める守護天使のご子息が一人」
「子息は多くいるはずだが……誰かは特定できなかったのか」
「す、済みませんっ! 確かヨハンかトマスか、ジョージだったかラファエルだったか……。困ったことにその父親である族長補佐も、名前を覚えてないそうで──こちらが写真です」
 そうして彼が取り出したのは、一枚の写真(※扉絵)だったのです。
 確かに、集団で埋没しそうな雰囲気の守護天使でした。
「……引き続き捜索を続けてくれ。事件性が認められる、少々手荒なことになったとしても、可及的速やかに確保を──」
 それが……、と、ドン・カバチョは言いにくそうに口を挟みました。
「ちょっと困ったことがあるのでございます。ご存じのようにゆる族はチャックを開けると爆発するのでございます。
 実はですね、姪のユルルの着ぐるみには我らヌイ族の特別製・秘伝のバク──むにゃむにゃ、が仕掛けられておりまして……ハイ」
「爆発するのか……?」
「ええ。それはもう派手に。多分建物ごと吹っ飛ぶでしょうな。
 本人は無事でしょうが、周りはどうなることやら……。クレーターで瓦礫掃除なんて趣味はございませんでしょう?
 それに、万が一、しおれてしまっても困りますし……いえいえ、こちらの事情ですハイ」
 フランセットは眉をひそめると、失礼と断って携帯電話を取り出しました。
「従妹殿か。……済まないが、……ああ、現地の契約者に協力を……」
 一時間ほどの後、電話を受けて宿を訪れたのは、生徒会の会計を務める村上 琴理(むらかみ・ことり)でした。
 観光に来た百合園生たちに同行して、宿や諸々の手配などをしていたのです。パートナーが海の獣人たちの問題解決のためここを訪れているのに同行していたため、多少は慣れていたのです。
 彼女は気難しげな顔で、早口でフランセットに言いました。
「ええ、こちらに来ている地球人の契約者たちには協力を求めました。私たち百合園生も全面的に協力します。
 実は非常に申しあげにくいのですが、今朝着ぐるみで観光に出かけた生徒達が──生徒会長を含めまして──まだ戻っていないのです。
 いえ、まだ帰る時間ではないのですが、参加者の携帯電話が不通で……」
「つまり、事件性が認められます」
 言葉を引き取ったのは、横にいた彼女のパートナーフェルナン・シャントルイユ(ふぇるなん・しゃんとるいゆ)でした。
「百合園の生徒会長らが訪れる筈だった<フラフィー寝具店>にも当たってみたのですが、店主によると訪れた生徒はいないとのことですが……、その後どこかに出かけられました。どうやら何か隠し事があるようです」
「それならば、部下に店の動向を調べさせよう。
 実は幾つか気にかかることがあってな。たとえばあのドン・カバチョが、姪が行方不明になっただけで、捜索を我々に頼るだろうか?」
 こうして、行方不明者たちの捜索が始まったのでした。

担当マスターより

▼担当マスター

有沢楓花

▼マスターコメント

■2012年5月10日:追記
「LCメイン(主体)」のアクションの書き方につきまして追記致しました。



 こんにちは、有沢です。
 今回は、交易都市ヴォルロスの連続失踪事件を解決するシナリオです。
 失踪事件は、ヴォルロスでここ数か月発生しています。失踪するのは決まって守護天使、ゆる族、そしてヴァルキリーです。
 当初は事件だと思われていませんでしたが、失踪者が徐々に増えているため、街を支配する商人達の議会で雇った傭兵の一部が捜査にあたっていますが、進展がありません。
 ヌイ族の族長の姪・ユルルが失踪するに至り、たまたま寄港していたフランセットに相談し、海兵隊や、ラズィーヤや百合園生徒会を通して契約者たちに協力が呼び掛けられました。
 同時にどうやら百合園の生徒会長も連絡が取れないため、捜索対象になっています。彼女たちは寝具店に行く予定でしたが、まず最近ヌイ族がヴォルロスで始めた、観光客向けの「着ぐるみ体験」(舞妓さん体験のようなもの)を利用しており、そこまでの姿は確認されています。

 フランセットがその後店の動向を確認させた結果、店には寝具店などが並ぶ通りに構えた一軒の店(作業場・倉庫付き)と、街から2~3時間ほど歩いた沿岸部に、小さな工場を持っています。
 店では販売と作業の仕上げなど細かい仕事を行っており、店員や職人に不審なところはありません。店長や副店長の事務室、店員の休憩室などを覗き、店の作業工程等の見学ができます。
 店長と副店長の女性、彼らの用心棒は材料の運搬等で時々工場と行き来をしています。
 工場は大きな倉庫を兼ねており、材料の保管や下ごしらえ的な作業を行っていますが、近づけば警備員だというガラの悪い男たちが追い返します。
 どちらも何の証拠・許可もなく強制的に踏み入れば不法侵入です。ちなみに、踏み込んだ後に何らかの決定的な証拠が見つかれば、不法侵入等は不問になりますが、もし一般人などに見つかった場合、シナリオ終了時刻までは現地の警察権を持つ商人の傭兵たちが呼ばれ、足止めを受けます。
 警備員の中には契約者も混じっているようです。また、失踪者が人質に取られる可能性もあります。

 とはいえのんびりしていては、気絶したユルルのチャックに手がかけられ、他の人質を巻き込んで、居場所もろとも吹き飛ばされてしまうでしょう。ゆる族たちは無事かもしれないですが、守護天使や瓦礫での怪我人出ることは必至です。
 更に近くで他のゆる族が爆発すれば、ユルルが誘爆する危険性もあります。彼女の意識が戻れば、彼女はチャックを開けられないよう抵抗しますし、スキルが使えるようになれば爆発の威力を通常程度に戻すことができます。ただし、ユルルの外見はシナリオガイドにもあります通り不明ですし、彼女は理由なく自分から話そうともしません。
 なお、今回のシナリオではゆる族とヌイ族特製ぬいぐるみ、ただのぬいぐるみが混在しておかれている場面にかなり遭遇することになります。
 今回限定の扱いとしまして、暗がりや遠目で気絶しているゆる族とただのぬいぐるみを、一瞬で見分けることができるのは、ゆる族だけです。他の種族は光源を確保してでチャックを確かめたり、近くで数分かけてよく見たりしないと判別はできないとさせていただきます。これはNPCも同様です。
 また、ユルル以外のゆる族が単独で爆発しても、こちらは怪我もギャグの範囲で済みます。


 なお、ゆる族、守護天使、ヴァルキリーのLCのみ、「シナリオ開始前に誘拐されていた」ことにできます。その場合、以下の状況となります。
 ・MCメイン/LCメイン(主体)の描写、のどちらかをお選びください。特に明記がない限りアクションで判断いたしますが、判断が付きかねた場合はMCメインで描写します。
 ・種族・見た目の性別ごとにそれぞれ数人ずつ地下牢に閉じ込められています。ゆる族は(色々な意味で)結構アバウトに入れられています。
 ・魔力の枷がかかっている間、スキルは使用できません。武器・防具及び携帯電話も没収されています。
 ・所持情報はガイドの守護天使が知っている範囲の他、見聞きした範囲で以下のものです。失踪の噂は聞いたことがあっても、犯人や場所は検討が付きません。
  牢屋と枷の鍵は中年の男と女、現地傭兵の隊長が所持している各3本。食事と水は一日一回、傭兵が交代で運んできます。
  定期的に囚人は地下から連れ出され、綿や羽根をもがれてまた帰ってきます。地下にはゆる族の爆発対策にぬいぐるみ専用の解体部屋、ぬいぐるみ作成部屋などがあるらしいです。
  どうやら閉じ込められているのは地下で、どこかで外部とも繋がっているようです。
 ※逆にこれらの情報は、閉じ込められていた人物に尋ねるか、実際に遭遇しない限り、閉じ込められていないPCには判りません。

 なお、原色の海については、シナリオ「誰がために百合は咲く 前編」「誰がために百合は咲く 後編」及びキャラクタークエスト「原色の海へ」「原色の海をゆく」
 守護天使は「原色の海をゆく」(緑の旗ルート)と「who done it?」
に登場しています。これらの知識は、なくても全く問題ありません。

 長いガイドを読んでいただきましてありがとうございました。色々と詳細を書きましたが、シナリオの問題解決自体は、難しいことを考えないでも大丈夫です。
 なおタイトルの「あと5分」は実際に残り時間が5分ということではありません。
 最後になりますが、百合園女学院の会長が行方不明になっていますが、今回は当選しやすい学校はありません。
 みなさんのアクションをお待ちしています。

5月10日追記
今回に限り、LC主体のアクションをかける場合は、「キャラクターの目的・動機・手段」及びMCのアクション欄を、LCのアクション欄として使用できます。
この場合は、MCのアクションはLCのアクション欄にお書きください。
MC欄だけでなく、LC欄のアクションも(MCではなく)LCに使用することもできますが、その場合はMCは、ほぼ名前だけの出番になります。

▼サンプルアクション

・失踪者を救出する

・誘拐される(LCメイン)

・店に乗り込む

▼予約受付締切日 (既に締切を迎えました)

2012年05月07日10:30まで

▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)

2012年05月08日10:30まで

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2012年05月12日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2012年05月25日


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