「ありがとうございましたー!!」
――空京にあるクレープ屋『天使の羽』。ここに一人のアルバイト店員がいました。その店員の名前は天翔 翼(あまかけ つばさ)。この空京へやってきてまだ三ヶ月ほどの地球人です。
「……さって、今日のお仕事もおしまい! それじゃあ愛しの我が家へ帰るとしますか!」
パラミタになら面白いことがありそう! と着の身着のままやってきた翼でしたが、今は『天使の羽』でアルバイトをして生活費を稼ぐ日々を過ごしていました。今日の仕事も終わり、翼はこれから現在住んでいる安下宿へ帰ろうとしています。
「ちょっと散歩しながら帰るのもありかな……っと」
すぐに帰るのももったいないと思ったのか、翼はいつもの帰宅ルートから少し外れ、散歩がてら遠回りでアパートへと目指していました……が。
その翼を囲うようにして、ツタで覆われたような化け物が突如として姿を現し、翼の足を止めてしまいました。
「な、なに……なんなのこいつら?」
じわり、じわりと翼に近づくツタの化け物。翼は頭で考えるよりも先に身体が動き、ツタの化け物たちの間を一気に走り抜けて逃走を図ります。
化け物の動きが緩慢なおかげか、すぐに振り切ることができましたが、それでもツタの化け物は翼を追ってきます。……しかも、それなりに数を増やしながら。
「いったいなんなのよぉーーー!!!」
このままでは家にも帰れそうにない――そう感じた翼は、なんとかこのツタの化け物から逃れようと、自慢の体力だけを武器に走り続けていきます……。
一方その頃、空京の大通りにて着物姿の少女が周囲を見渡しながら誰かを探していました。――少女の名は仙道院 樹菜(せんどういん じゅな)。マホロバ人である樹菜は葦原島にある仙道院家の一人娘であり、ある目的を持って空京へやってきたのですが……。
「ここは……どこなのでしょう?」
……従者と共に初めてやってきた空京で、樹菜は迷子になっていました。天性ともいえるべき方向音痴のせいで従者ともはぐれてしまい、一人で空京をさ迷っています。
「……欠片の気配は確かにこの空京から感じ取れるのですけれど……いったいどこにあるのでしょうか……?」
樹菜が探している物……それは“鍵の欠片”と呼ばれるもの。仙道院家の女子に宿る欠片の気配を感じ取れる力によって、空京にあるとまでは判明したのですが、力が弱いせいかそこまでしかわからないようです。
(契約を結べばまた感じかたも違うとは思うのですが……今はぜいたくを言っていられませんね。なんとかして、“鍵の欠片”を見つけませんと)
動きを止め、しばらく思考した樹菜はある行動に出ることにしました。――それは、近くを歩いていた契約者と思しき人へ協力を求める、というものでした。
「あの、すみません。探し物をしているのですが……よかったら、一緒に探してもらえませんか?」