サルヴィン川周辺の村に、集団の男たちがやってきた。
身体を鎧で身に纏い、腰や背には武器を提げ、顔や手など肌の露出した部分には古い傷跡が残る。
その風貌はその辺の盗賊たちでは出せない得も言われぬ風格と血の匂いを漂わせていた。
そんな集団が村の前に立っており、村の人達も怯えの色が浮かんでいる。
「あ……あの……この村に何か御用でしょうか?」
集団の前に出て来たのは、この村の村長の息子だった。
代表者が出てくるのを確認すると、集団の中かから一際身体の大きな男が前に出て来た。
「我らは、早天党という……まあ、革命軍のようなものだ。私はリーダのジョブスという者だ」
「はぁ……?」
「この村の代表である君に問おう──なぜ人は争うと思う?」
「え……そ、それは……申し訳ないです……そんな大きな事考えたこともなくて……」
「考えないのであればそれに越したことは無い。争いとは、思想の違いから生まれるのだ。それは一個人同士でも、集団であっても国家であっても変わりはない……そして争いが起これば人はその思想の中で命を落とし、大事な者を失ったりもする。……悲しいことだ」
「なるほど……確かにその通りかもしれません」
村長の息子は感心したように頷いているとジョブスは話しを続けた。
「故に我らはこのパラミタ大陸全てを掌握し、思想を一つに束ね、争いの無い理想世界の実現に向けて活動している。そのために君たちには早天党に入って一緒に戦ってもらいたい」
話しが本題に入り、村長の息子も、それを遠くで聞いていた村人たちも顔色を変える。
「そ、それはご勘弁を! 我々はクワや鎌しか持ったことのない農民です……戦うなんて」
「……そうか、まあそう言うだろうと思ってこちらも対策はしてある……ハーメルン!」
「は、はいぃ!」
ジョブスが声を上げると、鎧の集団から線の細い男が横笛を持って前に出た。
「始めろ」
ジョブスが短くハーメルンと呼ばれた男に命令すると、
「……了解しました」
ハーメルンは泣きそうな顔になりながら横笛を奏で始める。陽気な音楽が村を駆け巡り、村長の息子は怪訝な顔をする。
「あ、あの……一体なにを……」
訊ねるのとほぼ同時に、村長の息子から目の光りが消える。それに続くように村人たちも村長の息子の背中に一列縦隊で並ぶ。
男も女も子供も皆、瞳から光りを失い生気を感じられなくなった。
「ふふふ……ハーメルンの対象の人心を操る吹奏術と我ら早天党が加われば、パラミタの夜明けは目前だな……よし! 本部に戻るぞ」
ジョブスの号令に男たちは吼え、村から立ち去っていった。
村に残ったのは耳の不自由な村長、ただ一人となった。