天御柱学院

　タシガンの一角に、魔法道具や怪しげな薬を扱う店が並ぶ路地がある。「霧深き市場」と呼ばれる路地は、その名が示す通りタシガンの中でも一際霧が深く、見通しが悪いと言われている場所だ。
「タシガン家の家臣」を自称する上杉謙信と、暴れる猛牛のような荒々しさを身にまとった巨漢吉永　竜司（よしなが・りゅうじ）が入っていったのは、細い路地を何度も曲がった先にひっそりと佇む酒場「迷える者達の行燈亭」であった。不細工なコーギー犬のゆる族アイン・ペンブローク（あいん・ぺんぶろーく）が、ひしゃげた鼻を鳴らしながら、短い足でトポトポと二人の後についていく。
「あの場で退くなんざ、てめぇもつくづくお人好しな女だな」
　竜司は剃り上げた頭を撫でながら、ため息をついた。
　本人は謙信を気遣っているのかもしれないが。謙信を見つめる顔は、極悪そのものである。何か企んでいると思われてもしょうがない。
　案の定、謙信は顔をしかめると、竜司を睨み付けた」
「で、用件はなに？　回りくどいのは好きじゃない」
　促された竜司は、ポンッと手を叩いた。
「おう、それよ。アンタ、領主邸の周りにいる薔薇学の連中が邪魔なんだろ？　追い払うのならば、協力してやろうかと思ってな」
　謙信は竜司に鋭い視線を投げかけた。
「…地球人であるアンタが何故、薔薇学に敵対するのさ？」
「オレは薔薇学の連中が大嫌いなんだよ」
　吐き捨てるように言いはなった竜司の顔を、謙信はジッと見つめた。
　竜司はどれくらい多くの戦場を駆けめぐったのだろうか。
　剃り上げられた頭は、ボコボコとしていてまるでジャガイモみたいだ。顔の面積に対し、明らかに小さな瞳。対してカッと開かれた大きな口は、今にも誰かに噛み付きそうである。
　どう贔屓目に見ても、麗しい美少年とは真逆の存在である竜司が、薔薇学生達を嫌うのも尤もに思えた。
「私はあのドラゴニュートと約束したんだ。日を改めて話し合おう、とね！　同じパラミタ人との約定を破るわけにはいかない」
「だが、よ。てめぇは上杉謙信の英霊なんだろ？　だったら元々は地球人じゃねぇか。パラミタ人との約束なんざに縛られることはねぇよ」
　竜司がそう言った瞬間、謙信は大声を上げると目の前の卓を両手で叩いた。
　派手な音を立てて、卓の上に乗っていた木製のジョッキが床に落ちる。
「…私はタシガン家に忠誠を誓った吸血鬼だ！　アーダルヴェルト様の顔に泥を塗るような卑怯な手を使えるか！」
　竜司を怒鳴りつける謙信の目には、涙すら浮かび上がっている。
「…お、おい」
　謙信は英霊であっても、吸血鬼ではないはずだ。
　訳の分からねぇ女だ…そう思いつつも、竜司とて女の涙には弱い。日本鎧を身にまとってはいるものの、謙信は震いつきたくなるような美女である。半ば自分が泣かせたような状態であるのに、このまま放っておくのも寝覚めが悪い。
　それに謙信の力になることで、薔薇学生達に一泡吹かせることができるなら、竜司としても大満足だ。
「何だかよく分からねぇが。薔薇学連中と話し合う時には、オレも一緒に行ってやんよ。あっちは何十人って人間がいるのに、こっちはてめぇ一人だけってのは、寂しいじゃねぇか」



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　砂上楼閣第三話は、タシガンが主な舞台となります。タシガン領主アーダルヴェルト自身は外務大臣との会談に乗り気ではありません。彼を会談の席に着かせるには、それなりな準備が必要となるでしょう。

　ひとつはタシガン家の家臣を自称する上杉謙信に協力を要請すること。彼女の協力が得られれば、領主と外務大臣の会談が成功する可能性が高くなります。
　しかし、アーダルヴェルトも謙信も、地球人排斥派です。その上、謙信の周りには薔薇学生を良く思っていない人々が集まってきています。そのため一筋縄では行きません。

　他にも直接、アーダルヴェルトと接触する方法がありますが、彼もそうそう普通の学生の前には顔を出してくれません。そこで第二話のマスターコメントでもお伝えした通り、主に次の2つのルートが考えられます。

　ひとつは薔薇学のリアン・エテルニーテ（りあん・えてるにーて）くんルート。彼に対するアーダルヴェルトの嫌疑を晴らすことで、何らかしかの歩み寄りが生まれるかもしれません。

もうひとつは天魔衆のラフィタ・ルーナ・リューユ（らふぃた・るーなりゅーゆ）さんルート。彼の場合、攻略の難易度は高いです。天魔衆に与していたラフィタさんが自分の出自を簡単に明かすとは思えません。そのためまずは彼もしくは、彼の相方である白菊くんから話を聞き出す必要があります。ラフィタさんのPLさんは、アクション提出の際に情報を流す条件をお書き添えいただければ幸いです。

　また、ラフィタさん、リアンくんのPLさんは、自分だけが知っているタシガン領主の「弱点」もしくは「好きなもの」を一つだけ指定することができます。こちらもアクションをかける際に活用してください。

　ただし、お二人が第三話に参加されていない場合、上記2つのルートは使えませんので、他の参加者の方々はご注意ください。

　不時着組及び救出組については、浮遊島残留と、タシガンへの帰島、どちらかをお選びください。

　浮遊島残留を選ばれた場合、大河及びブルーノ・ベリュゲングリューン（ぶるーの・べりゅげんぐりゅーん）とともに遺跡の調査を続行していただきます。ただし、こちらのルートは、主に第二部に向けての布石となります。第三話のラストでタシガンに帰島する予定ではありますが、第一部最終話で活躍するのは、状況的に難しいかと思います。その点はご了承ください。

　タシガンへの帰島を選ばれた場合、アクションは移動中の飛空艇内及び、タシガンに帰島後になります。第三話で薔薇学生に拘束された天魔衆のハーリー・デビットソン（はーりー・でびっとそん）くんもいますので、彼から天魔衆についての情報を聞き出すのも良いかもしれません。ただ、ハーリーくんはバイク型機晶姫ですので、人間の言葉をしゃべれません。意思疎通できる方は限られていますのでご注意ください。

　また、不時着組及び救出組が帰還後、タシガンで教員会議を開きます。先生設定をされている方は、学校を問わずこちらにご参加することもできます。
　話し合いの内容は、上杉謙信を初めとする地球人排斥派について、及び鏖殺寺院の存在についてですので、参加される方は今後の方針について意見をまとめておいてください。
　尚、教員会議には、ジェイダス・観世院（じぇいだす・かんぜいん）、ルドルフ・メンデルスゾーン（るどるふ・めんでるすぞーん）、中村　雪之丞（なかむら・ゆきのじょう）、ディヤーブ・マフムード（でぃやーぶ・まふむーど）の4人が参加します。

「砂上楼閣　第一部」第三話のシナリオガイドをお届けします。最終話で外務大臣と領主の会談が開かれるか否か、さらには薔薇学がタシガンに残れるか否か。そのための布石を打てる最後のターンとなりますので、皆さん頑張ってくださいね。

　砂上楼閣はあくまでも群衆劇です。そのため一人で何もかも頑張るのではなく、ある人が情報を集め、ある人が集めた情報を元に舞台を作り上げ、ある人が突撃する…といった感じでしっかりと役割分担が成されていると、アクションが成功しやすくなるかと思います。

　今回、天魔衆の方々については、次のような行動が考えられます。

　第二話のラストで大河が目覚めさせた剣の花嫁が持っていた「光条兵器らしきもの」は現在、天魔衆のお一人メニエス・レインさんがお持ちです。それが本当に光条兵器なのか否かを調べるのも良いでしょう。
　また、薔薇学捕まった仲間の解放を求めたり、何らかしかの交渉を持ちかけるのも面白いかもしれません。
　もちろん、浮遊島に残って遺跡の調査をしている薔薇学生もいるはずですので、そちらに再襲撃をかけるのもありですし、タシガンの地球人排斥派と接触を図るのも良いでしょう。

　ただ、「光条兵器らしきもの」を天魔衆がどういう風に扱うのか。
　交渉のカードとして利用するのか、手元において調査するのか、メニエスさんがちょろまかするのか。それだけは天魔衆の皆さんで相談して、大まかな方向性を決めておいていただければ幸いです。ちなみに、マスター的には、第二部開始まで持っていた方が良いと思ってます。


　また、第三話から途中参加いただく場合の理由付けですが、描写はされなかったものの「その場にいた」とするのがひとつ。
　他にも上杉謙信の仲間として、地球人排斥派に参加するのも良いでしょう。
　英霊である謙信が吸血鬼を自称しているのには何らかしかの理由がありそうです。
　もちろん薔薇学をタシガンから追い出すために活動するのも大歓迎です。

　情勢の悪化でタシガンに足止めをくらった旅行者というのもありですね。タシガンの平和を取り戻そうと奮闘する薔薇学生に協力してくれる正義感あふれる方もお待ちしております。

　尚、タイムリーな情報伝達が実現するのはパートナー間のみです。そのため第三話の段階では、浮遊島に遺跡があったこと、3体の剣の花嫁が発見されたことは、その場にいた人達しか知りません。そのため、現状、遺跡調査隊として新たに乗り込むことはできません。


　それからマスターの手元に届く資料には、キャラクター同士の「感情設定」は記載されていません。そのためリアクションの中で絡みたい（もしくは状況的に絡みそうな）他PCやNPCがいる場合、どのような感情を持っているのかをお書き添えいただけると、執筆の際の参考になります。

・外務大臣とともにタシガンに帰島（不時着組及び救出組）

・大河やブルーノとともに遺跡調査（不時着組及び救出組）

・リアンくん（orラフィタさん）とタシガン領主のわだかまりを解決する

・地球人排斥派に参加する（学校問わず）