※前回のあらすじ
浮遊島目指して飛び立ったナオシ達。
だが雲海の魔物達の壮絶な攻撃により、一分と持たずに船は爆散!
果たして乗組員(という名の奴隷)達は無事なのか!?
* * *
――『貴方』達が目を覚ますと、見知らぬ天井でした。
見たことが無い光景に少し戸惑いつつ、『貴方』達は現状を把握しようとします。
思い出せる記憶は、ボロ船に無理矢理乗せられ、出発した直後に激しい攻撃を受けて――
「お、目を覚ましたか」
ふと、誰かが『貴方』達が目を覚ましたことに気付いたようです。声をかけてきた者の顔には見覚えがあります。それは、ボロ船の乗組員の一人です。
「兄貴ー、ナオシの兄貴ー、コイツら目を覚ましやしたぜー」
乗組員が声をかけると、ナオシは「おう」とやる気なく返事をし、ちらりと視線を向けます。
「『何が起きたかわからねぇ』って顔してるな……本当、なーんでこんなことになってるんだかなぁ」
ナオシが天井を見上げ、呟きますが誰も答えません。
そこで『貴方』達は気づきます。今自分達が居るのは、一つの部屋。小さな窓と出入り口は鉄格子が備えられています。
――『貴方』達は今、檻の中にいるのでした。
* * *
――話は少し前に遡ります。
「ああ、やっぱ駄目だったな。あの船ボロかったしな」
雲海に散らばる漁船の残骸を眺め、ナオシがケラケラと笑います。
「もー、勘弁してくださいよナオシの兄貴。真面目に死ぬかと思いましたよ」
苦笑しつつも、部下達も笑っています。その足元には、雲海の魔物たちの攻撃による衝撃で気絶している『貴方達』が無造作に転がされていました。
「全くだ。我々が見つけたからいい物を、自殺行為としか言いようがないぞ」
腕を組んだ屈強な男――モリ・ヤが呆れた様に言いました。
* * *
――現在ナオシ達が居るのは一隻の漁船。モリ・ヤはこの漁船の船長です。
魔物達の壮絶な攻撃を受けボロボロになったナオシ達を偶々見かけ、助けてくれたのでした。
「いやー助かったぜおっさん。礼を言う」
笑いながらナオシは礼を言います。それに対しモリ・ヤが「気にするな」と言った直後でした。慌ただしく、漁船の船員が駆け寄ってきます。
「モリ・ヤ船長大変です! いやヤバいです! 非常にヤバいです! 奴らに見つかりました!」
「ちィッ! 奴らもう追いついてきやがったか!」
「あん? 奴ら?」
ナオシが首を傾げた直後でした――漁船の前に、武装した艦が現れたのは。
艦は漁船の進路を阻む様に前に留まり、明らかな敵意を込め砲門を向けました。
「そこの密漁船! 無駄な抵抗は止めればこちらは危害は加えない! 大人しく降伏せよ!」
そして艦からスピーカーを通し、女性の声が響き渡りました。
* * *
「大体てめぇら密漁者だったのかよバカヤロウ! どおりで漁船なのに船に弾痕があったりしたわけだよ!」
「い、いいではないか! 我々が助けなければ今頃雲海の藻屑だったぞ!?」
「結果的に仲間と思われて捕まる羽目になってんじゃねぇかコノヤロウが!」
ナオシとモリ・ヤが大声で喧嘩を始めました。
他の面々は『止めるべきだろうか』とオロオロしていたり、『止めても無駄だな』と目を背けたりと止める気がありません。
――これは逃げられないと悟ったのか、モリ・ヤが素直に白旗を上げ降伏すると、艦から降りてきた武装した女達が拘束していきます。
ナオシ達は勿論、拉致され強制的に船に乗せられた『貴方』達も「自分達は無関係だ」と武装した者達に無実を訴えました。
しかし傭兵達には「同じ船に乗っていてそんな言い訳が通用するわけないだろう! 第一お前達みたいな堅気がいるか!」と一蹴され、連行されてしまったのです。
「ああもう! うるさいですよ! 貴方達自分の立場を解ってるんですか!?」
騒がしさに顔を顰め、見張りの少女が持っている銃を向けます。
「やかましい! とっとと出さねぇかこっちは無関係だぞコノヤロウ!」
ガシガシとナオシは檻を蹴り飛ばし、少女は「ひぃっ!?」と小さく悲鳴を上げます。
「そ、そう言われましても、貴方達同じ船に乗ってたじゃないですか!」
半分涙目になっても尚、少女は銃を向けます。
「だから無関係だって言ってるだろバカヤロウ! 大体ここ何処なんだよ!?」
「ひぇッ!? こ、ここは参ノ島ですよぉ! 貴方達はこれから太守の――あれ?」
少女の言葉を聞いて、ナオシはガンガンと檻を蹴るのを止めます。
「――『参ノ島』だと?」
「え、ええ……今は所用により出かけていますが、戻り次第貴方達の処遇はミツ・ハ様に――」
「ミツ・ハだと!?」
その名を聞いたナオシが目を見開きます。
「……やべぇ、やべぇぞ……! あいつが出てきたら間違いなく殺されるぞ……!」
「あ、あの……さすがにそんな事は無いかと……ってちょっと!?」
ナオシが一度は止めた蹴りを、何度も檻に放ちます。
「こんな所いられるかってんだ! とっとと逃げるぞてめぇら!」
ナオシが『貴方』達に言います。乗組員が立ち上がりますが、そもそも拉致されてきた『貴方』達は「従う必要がない」と反論します。
「まぁ、確かにそうだわな」
『貴方』達の言葉に頷きつつも、ナオシは真剣な顔で言います。
「けどな、事態が事態だ。どうしても嫌なら協力することはねぇがこれだけは言っておく。お前達は俺と関わっちまった。それだけで殺される理由は十分だ」
「ちょ、ちょっと聞き捨てなりません!」
半べそをかいていた少女が、少し怒った様にナオシに言います。
「ミツ・ハ様は……そりゃ確かにヒャッハーでクレイジーな方ですが、そんな簡単に、うっかりでもない限りは命を奪うような事をする方では――」
「ミツ・ハじゃねぇ」
「へ?」
「他にいるんだよ、そういう事をする奴がな。詳しくは言えねぇが、ミツ・ハにバレると拙いんだよ……あぁもういい加減開けってんだよコノヤロウ!」
牢の扉を開けようとしていたナオシが、痺れを切らして蹴りを入れ始めます。
「そ、そんなことしても意味ありませんって。第一これ電子ロックだから蹴っても――」
「うるせぇんだよバカヤロウ!」
そうナオシが叫び、思いっきり蹴りを放ちます。
すると、扉の一部から黒い煙が上がり、嫌な音がしたかと思うとあっさりと檻が開きました。
「よーっし、偉いぞ扉」
「……う、嘘?」
「ついでにここの地図兼人質も確保ー」
「は、はい? え? ひ、人質?」
「ってなわけで、てめぇらとっとと逃げるぞ!」
『応ッ!』
「その為には……まず船が必要だな。おい人質、船のある場所教えろ」
「な、なんでこうなるんですか……?」
少女は涙を流し、乾いた笑みを浮かべます。
――こうして、脱走劇は始まろうとしていました。