先月に新設されたばかりの分校でのこと。
「どうしてわたしばかり災厄が降り懸かるの……」
雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)は自分に降りかかった不幸に嘆いた。
彼女にとって不幸は日常的なものだった。楽しみにしていた遠足では雨が降り、飛行機や列車に乗れば事故に遭遇し……。
不幸体質とでも言うのか。それほどまでに彼女は不運なのだ。
だが今回の不幸は一味違った。
間が悪い不幸なのだ。
「この学園は我々が占拠した!」
迷彩服に身を包み、ゴーグルとマスクそしてヘルメットを被った集団が叫ぶ。
銃器を所持しているが本物か偽物かわからない。
「班長。何の反応もありませんよ」
「こっちに人質がいることは伝えてある。そのうちなんらかのアクションがあるはずだ」
そう言うと彼女を含む数名の生徒や教師たちに視線を送りました。
彼女たちは両手両足を縛られ、身動きできない状態です。
(それにしても何かおかしいですわ……)
雅羅は現状に疑問を感じていた。
この分校は近代的な機械によるセキュリィティシステムを導入していたにも関わらず、それらがまったく作動していないように感じられたのだ。
言ってしまえば手際が良すぎる。まるで内部に協力者がいるのか、もしくは……。
自分と同じように捕縛されている他の人たちに視線を送る。
生徒が怯えているのに対し、教員はどこか落ち着いているように感じられた。
なるほど、と雅羅は意を得たりといった様子の表情を浮かべると近くに座していた教員に話しかけた。
「先生。これってもしかして……」
「静かにしてなさい。今の私たちは助けを待つ立場なのですから」
その言葉に雅羅は自分の推察は正しいのだと確信を得る。
時計を見るとすでに昼過ぎ。ちょっと新しい分校とやらを見学に来ただけなのに――。
せっかくの休暇がなくなることを感じた彼女は呟きました。
「わたしって本当に不幸ね」
一方その頃。
学園の外ではテロリストの話題で生徒たちが浮足立っていました。
一般生徒たちは事態の行く末に興味を抱いたり、不安を感じたりと様々です。
「クラスメイトが捕まってんだよ! 誰かなんとかしてくれよ!!」
「俺たちには何もできないよ。自警団は何してるんだ?」
「電話が通じないんだ。助けなんて呼べないって……」
「どうなっちゃうのかな」
何の前触れもなく蒼空学園分校で起きた立て篭もり事件。
しかも新設の分校なので熟練の冒険者たちの姿は見当たりません。
生徒たちだけで事件を解決することができるのでしょうか?