森の中。口論している二人の少女がいました。
一人の頭には角があり、もう一人の頭には機械で出来た耳のようなものがあります。
「くーちゃんのことなんか知ったもんか!」
「アタシもルーのことなんか知らない!」
二人は互いに顔を背けるとその場から姿を消しました。
それから数日後のことです。
青空学園分校の掲示板に一つの張り紙が掲示されました。
その内容は――
「人探しています」
という簡素なものです。
大きく書かれた文字の下には似顔絵らしきイラストが描かれています。ですがその姿はモンスターにしか見えません。
頭には大きな角、凶悪そうな顔つき、筋骨隆々の身体。斧でも持たせたらミノタウロスに見間違えるかもしれない絵でした。
備考欄には魔女との記載がありますがどう見ても魔女には見えない絵です。
依頼人に絵心がないのか、もしくはわざとそんな風に描いたとしか思えません
「魔女探してます……ですか」
個性的な絵ですねぇ、などと思いながら久瀬 稲荷(くぜ・いなり)がその場を後にしました。
歩くこと数分。彼は何かを思い立ったように足早に掲示板の前に戻ると、探し人の張り紙を剥がし、どこかへと姿を消しました。
それからしばらくして分校でとある噂が流行し始めます。
『ツァンダ東部の森に魔女がいるらしい』
『魔女を見つけた人には懸賞金が出るらしい』
『魔女の肉を食べれば不老不死になれるらしい』
『森の中にお菓子の家があり、魔女がそこに住んでいるらしい』
『魔女と視線が合うと身体が石になるらしい』
などなど、どう考えてもデマとしか思えない話がチラホラと見受けられます。
ただ確実なのは森に魔女がいるらしいということ、そして魔女を探している人がいるということです。
話題の中心となった掲示板の張り紙を見て、生徒の幾人かが探しに行こうかなどと話しています。
すでに出かけた生徒もいたようで、森の中で「絶対に許さない。二度と会うものか……」という気味の悪い声が聞こえたと話している生徒の姿もありました。
魔女は本当に森にいるのでしょうか、なぜ依頼人は魔女を探しているのでしょうか。
そして依頼人は魔女と会えるのでしょうか?