策謀。略奪。猟奇犯罪。
何代にも渡って、悪魔も眉をひそめる背徳を重ねてきた尋常ならざるゲイン家。
かの一族の現当主ノーマン・ゲイン六世が、空京に所有する洋館「墨死館(ぼくしかん)」で晩餐会を開催しました。
「さあ、終りが始まるよ」
「ああ。あれは、楽しいな。楽しいな」
「僕はきみが言う通りになんでもする。だって僕は」
「そんなの、口にしなくてもわかっているさ」
晩餐会に招かれた、ゲイン家と業深き縁を持つ客たちは、そのまま全員、館から戻りませんでした。
客たちの家族、友人からの問い合わせに対して、ノーマンは、その不自然なまでに整いすぎた白面に冷笑を浮かべながら、
「たしかに当館にお招きはしたが、無事に帰す約束など、どなたとも交わしておりません。もし、我が館のもてなし方に不服がおありならば、一度、お越しなって御自身で墨死館の晩餐会を体験されたいかがでしょうか? 無論、貴殿が、当館からお帰りになられる確約はございませんが」
慇懃に言い捨てました。
日本在住の虚弱体質の天才小学生探偵、弓月くると(ゆみづき くると)は、彼の介助者兼伝記作者を自任するメガネっ娘の女子高生、古森あまね(こもり あまね)に、空京へ上がって、墨死館へ行く決意を告げました。
「あまねちゃん。ボクは、あの館へゆくよ」
「ムチャよ。きみは、推理能力以外は、なんの力もない、病弱で小柄な男の子なんだよ。こんな異常者は、相手にしないほうがいい」
「彼の犯罪を暴いて、バカなことはやめさせたいんだ。あまねちゃんが来ないのなら、一人でいく」
「ったく。万年半病人のクセに、しょうがないなあ。じゃあ、あたし以外にも、心強い助っ人に来てもらって、ナルシストの先天的犯罪者の館に行くとしましょうか。ほんとに気がすすまないけど」
そして、くると、あまねコンビと共に、各学園から、勇気ある学生たちが集まり、忌まわしき洋館の扉を叩いたのでした。
開いた扉の先にいたのは、玄関ホールに立ち並ぶ、黒いゴスロリ調のメイド服の少女たち、二十人以上は優にいる彼女らは、同一人物としか思えない寸分たがわぬ顔を来訪者にむけ、全員、静かな微笑みを浮かべます。
まったく同じ姿かたちのメイドの中の一人が、口を開きました。
「お待ちしておりした。お客さま方、お楽しみになられるお部屋をお選びくださいませ」
どうやら、ゲイン家の晩餐会とは、大人数で同じ部屋で一緒に参加するものではなく、客、各人が選んだ場所ごとに別個で行われる様子です。
それぞれ、
「人の分をわきまえよ」
「明日を見ぬ身」
「死を覗く淵」
「流血の檻」
「貴賓室」
と名付けられた五つの部屋が、みなさんの訪れをいまや遅しと待ち構えています。
戸惑うみなさんに、メイドは簡単に各部屋を紹介しました。
「人の分をわきまえよ」……「このお部屋を選ばれるとは、本当に勇気がおありなのですね。さあ、人を超えた高みへようこそ」 超人的な能力が要求されるのでしょうか? それとも、高いところにあるのでしょうか?
「明日を見ぬ身」……「可哀想なあの子も、これだけたくさんの方がいらしてくれれば、きっと喜びますわ。いえいえ、なんでも、ございません」 誰かいるようです。いや人かどうかは、わかりませんね?
「死を覗く淵」……「死を受け入れることを安らぎと考える方たちにとって、死の淵をさまよい続ける行為は、いかがなものなのでしょう。フフフ」 死の淵をさまよう、ということは、半殺し、なのですかねえ。
「流血の檻」……「もし、単純に答えを見つけたいのなら、それはここにありますわ。でも……皆さんの御幸運をお祈りいたします」 流血の檻には、答えがある。そして、御幸運を祈る、とは。はて、ラスボスでもいるのでしょうか?
「貴賓室」……「当館の主人と御対面なさりたいのならば、こちらへどうぞ。主人は、準備を整えてから参りますので、少々、お待ちくださいませ」 金髪、痩身、白面のノーマンは、見た目通り? の男色家という噂があります。彼と会って、楽しい人は多くないでしょう。しかし・・・・・・。
「強い魔法が存在するパラミタ大陸。不吉な名前の部屋。最初の客たちと、多すぎるメイドさんと、ボクたち。ねえ、一人がたくさんいるきみたちも、ここへ来た他の人間たちも、ボクらも、なにかの儀式の生贄なの?」
「存じません」
いきなりのくるとからの問いに小声で答え、メイドは目を伏せました。隠しごとをしているようにも見えますが、表情に変化はありません。
「そう言えば、たしかノーマンには契約したパートナーがいるはず。パートナーとは、ボクらは会えないの?」
「・・・・・・」
「ここに来る前に調べたんだけれど、彼は、鏖殺寺院や「闇の帝王」と関係があるの?」
「クス。なぜなに坊や、か」
メイドは微かに笑みをこぼし、すぐに無表情に戻ると無言でくるとを見つめ、視線を学生たちへとむけました。
「お客様方、お部屋はお決まりになられましたか」
さあ、あなたは、どの部屋へむかいますか?