(まだ、終わってないのにさ・・・・・・)
空京の外れにある、神社に組まれた檜の野外舞台では、かわい家(かわいけ)の当主継承のための儀式、清流の舞いが演じられています。
繊細にして、華麗に舞うのは、次期当主の配偶者または養子となる、内田麻美(うちだ あさみ)です。
舞いの後、麻美が自分の配偶者または養父母に選んだ相手が、かわい家の新当主となり、莫大な財産を相続するのです。
貴賓席には、地球、空京の各界の有力者、百合園女学院校長の桜井静香(さくらい しずか)とパートナーのラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)の姿もみえます。
「あ」
「落ちるぞ!」
舞台上の麻美の体が、揺らめきました。和服姿で仮面をつけた麻美は、よろめき、舞台から数メートル下の地上へ。
「くるとくん。麻美さんが」
「・・・・・・これは」
「もし、彼が亡くなったら」
「あまねちゃん。ボクは・・・。たぶん、映画が違う・・・間違えた」
麻美転落の四日前、墨死館事件で一緒に調査をしたメンバーに送られて、地球行きの新幹線に乗ろうとしていた小学生探偵、弓月くると(ゆみづき くると)とその介助者兼伝記作者の女子高生、古森あまね(こもり あまね)の前に、男はあらわれれました。
「くるとくん、いや弓月さん、あなたの力を貸して欲しい」
「あの、どちら様ですか、あたしたち、この新幹線で地球に」
「このままでは、かわい家は血に染まる。麻美くんを守ってやって欲しい」
「かわい家? が血に染まるって、どういう意味」
「ううっ!」
突然、男は苦悶の表情を浮かべ、喉をかきむしると、ホームに倒れ、亡くなりました。
毒殺でした。
男の名前は、オサム。長年、かわい家に仕えてきた家つきの医師でした。
地球から空京にやってきた大資産家かわい家は、当主のみのるが亡くなり、彼が残した遺言状によって、いままさに一族は骨肉の争いを始めようとしていたのです。
争いの鍵を握るのは、内田麻美。
幼少の頃から、屋敷に使用人として置いてもらっていた彼は、遺言状の内容が公にされて以来、渦中の人となりました。
私の死後一週間以内に、当主継承式を行うこと。
その場で、私と血を分けた者のうち、麻美が自分の配偶者もしくは養父母として選んだものに、全財産を与える。
もし、麻美が誰も選ばなかった場合、財産は、麻美に半分、残りは私と血を分けた者たちに均等に分配される。
なんらかの理由で麻美が財産を相続できる状態にない場合、財産は私と血を分けた者たちに均等に分配される。
オサム医師の遺志を受け、かわい家に足を踏み入れた、くると、あまね、各学園の生徒たちを同族殺しの殺人計画が待ち受けていたのでした。
主な登場人物 ()内は年齢、「」内は、心の声です。
かわいみのる(63)…かわい家当主。建築業で莫大な財をなした実業家。故人。「すまない。きみにも、麻美にも、なにもしてやれなかった。麻美をあんなふうにしてしまったのは、すべて私が・・・」
<犯罪(計画)者たち>
かわい潔(きよし)(33)…みのるの弟。かわい家の居候。建築家。*自ら設計した、かわい家の母屋「エーテル館」の仕掛けを利用して、一族の皆殺しを画策している。「兄さんとあの人も、おもしろいと言ってくれた隠し部屋、隠し通路、光の魔術。体の弱い私は、館の力を借りるしかない。みんなを滅ぼし、館と私自身にも幕をおろす」
中島薫(なかじま かおる)(?)…潔の内縁の妻。作家。みのるの元妻。*自らが脚本を書いた少年愛劇「黒衣之死神」を継承式で上演することにし、その練習をゲストも含めた現在、かわい家にいる一同にさせることで、少年たちの心を惑わし、殺し合わせる美少年連続殺人事件を画策している。「ぼくは、負け犬さ。平凡に生きるよりも、一時の祝祭を。きみたちの危険な愛を目覚めさせてあげるよ。ぼくの子供たち、みんな殺しあっておくれ」
かわい美沙(みさ)(22)…みのる&薫の長女。教員。*敷地内の湖で船上パーティを行い、老朽化している船の設備を利用して事故にみせかけた殺人事件を画策している。「お船ごと炎上させて華麗に殺してあげるわ。待ってらっしゃい。お京がその気なら、組んであげてもいいわよ」
かわい歩不(ほふ)(21)…みのる&薫の長男。美沙の弟。病弱。民俗学者*古くから伝わる、ナタラの死神伝説に見立てた、連続殺人事件を画策している。「僕は、両親の美学は認めてないんだ。正直、価値がわからない。ナタラの死神は、口笛を吹いて人を惑わし、その人のもっとも望む姿での死を与えるというよ。シャンバラに山ほどある伝説の一つが現実になっても、おかしくないよね(勝手にいってろよ。なに考えてるの?)」
かわい次郎(じろう)(20)…みのる&薫の次男。京子の双子の兄。愛猫家。若手映画監督。ゲストも含め、現在、かわい家にいる一同を出演者にした、女子高校が舞台のミステリー映画「愚者の舞踏祭」の撮影中に、事故に見せかけた殺人を画策している。「甘酸っぱいミステリアスな死をプレゼントしますよ。姉さんと京ちゃんには、負けたくないから」
かわい京子(きょうこ)(20)…みのる&薫の次女。次郎の双子の妹。鉄道評論家。かわい家の広大な敷地内を走る鉄道を利用した殺人を画策している。「美沙姉。ボクが美沙姉のお船にいる時に、ボクの電車の中で人が死んでも、ボクは関係ないだよん。その逆もまた然り。お姉、ボクら無敵っぽくない?」
<思惑をひめた者たち>
かわい流水(りゅうすい)(10)…潔&薫の長女。多重人格者。探偵。歩不の親友(のつもり)。「歩不は、一人でムチャをしようとしておる。あいつは、一人で二人だが、ワシは一人でたくさんだ。ワシは歩不を助けてやりたいが、たくさんの中には、いろんなやつがいるがいるのでな」
かわい維新(いしん)(8)…潔&薫の次女。虚言癖。次郎の映画のスタッフ。「次郎くんは、天才監督。ぼくは、才能を試されるのは、心臓に悪い経験だから、できればカンベンして欲しいけど、生き残る才能を示さないと淘汰されてしまうこの家は、芸能界?」
かわい王太郎(おうたろう)(6)…潔&薫の長男。数学少年。京子の恋人(のつもり)。「京子さんが考えている計画を支えるのは、綿密な計画と計算。でも、京子さんは、正確に数字を求めると、手の中のコップさえ実在しない可能性があるって、知らないんだよね。ねえ、実はオレが一番、賢いんだよ」
リン太郎(りん たろう)(24)…かわい家書生。教授(通称)。潔の友人。「友人として忠告しよう。潔さん。これは、愛する人のもとへ去ったきみのお兄さんが、残った一族に仕掛けた罠、試練だと思う。冷静に考えて行動すべきだ」
えつ子(えつこ)(72)…かわい家女中頭。麻美の育ての親。「麻美の出生の秘密は、私が墓まで持ってゆきます」
竹丸(たけまる)(41)…かわい家執事。美沙の元夫。元作家&脚本家。薫のかってのライバル。「一族の他の者と麻美くんを殺して、自分だけが生き残る。ここの連中が考えそうなこった。元義母、元ヨメさんがバカをするなら、止めたいが・・・」
阿久路井門(あく ろいど)(51)…医師。かわい家住み込み。オサムの親友。「ついに、こんなことに、なってしまったか。私は、骨の髄までこの家のしがらみにとらわれちまったらしいな。探偵くん。学園のみなさん。バカげた悲劇をくい止めてくれ。オサムくんの分も、私はなんでも協力する」
内田麻美(うちだ あさみ)(21)…出生不明の青年。使用人。「・・・・・・母さん」(いつも儚げで、心をどこかに置いてきてしまったかのように、空を眺めてぼんやりしていることが多い)
<事件を探る者>
弓月くると(ゆみづき くると)…少年探偵 。
古森あまね(こもり あまね)…女子高校生。くるとの介助者兼伝記作者。
and you.
突然の遺産相続話にとまどう出生不明の青年と、それを囲む一癖も二癖もある人物たち。惨劇の舞台は整いました。
貴方の来訪を「かわい家」は待っています。