シナリオガイド
あなたの行く先に、あなたの望むものがありますように。
シナリオ名:さよなら貴方の木陰 / 担当マスター:
比良沙衛
空京大学施設の建設中、その一角でひとりの機晶姫が発掘されました。
発見されたときの状態は非常に悪く、なんとか目覚めはしましたが、自分の名前も忘れ、残されたものはいくつかの断片的な記憶だけ、新しい記憶すらそう長くは持たなくなっていました。
メンテナンスで手足もかろうじて動かせるようにはなっていますが、すぐに伝達異常を起こします。
機晶石にはヒビがはいり、記憶回路には手のつけられない劣化が襲い、まともに身体も動かせない…いずれにせよ彼女を救う技術は失われて久しいのです。
機晶石は最近交換がなされた事例があるようですが、そうして永らえるよりも、その機晶姫は自分の最後をどうするか、自分で選びました。
彼女はマリーと名づけられ、大学の研究室に身を置くことになりました。
マリーは、自分の居た場所が学び屋になるのだと知り、自分も長くないことを自覚して、自分の身体情報を機晶姫研究のために差し出して残された日々を淡々と過ごしていました。
研究員たちと過ごし、その中で小さな驚愕や感動をかみしめて最後の時を待っていました。
これはとても幸運な事です。まともに起動しない機晶姫は、ほとんどがパーツ取りに使われる運命を辿るのです。
やがて、彼女はもう一月と持たないだろうという診断が下されました。
「その彼女が、死ぬ前にやりたいことがあると言い出した。すまんが迷惑をかける、力を貸してほしい」
研究員のひとり、フューラーのパートナーでもある壮年の男シラード・ヌメンタが、AIヒパティアとフューラーに頼み込みました。車椅子から降りてまで頭を下げようとするのを止めて、彼は快諾しました。
「わかったよじいさま、何か考えてみる」
「おじさま、私たちも力を尽くさせていただきます」
マリーは手足や記憶の異常の他には、全く「色」というものを知覚できなくなっています。
ヒパティアの電脳世界に接続してからは、時折正常な回路を模倣した状態になるらしく、色の知覚だけでなく、正常な感覚を全て取り戻すことができるのですが、その状態を長く保つことができません。
ヒパティアは、彼女の記憶や模倣感覚をとりこぼさないようにかき集めることにかなりの演算を割いて、外部ストレージの役目を果たしています。
彼女にうまく接続できている限りは、マリーも新たに獲得した記憶を失うことはないのでした。
マリーは時々、昔の記憶の片鱗を思い出します。
彼女が時折口走る花あふれる野原は、情報を総合すれば今は荒野になっています。
彼女が思い出す絢爛な建物は、その位置が合致する場所には遺跡があることが確認されています。
マリーの思い出の中には、血も嵐もないおだやかな光景が広がっているのです。
しかし彼女が空京で埋まっていた理由や、それまでのいきさつも全て抜け落ちています。何よりもパートナーについてのことが、ただ印象しかないというのです。
そのひとの髪の色や、瞳の色が、ただうつくしかったという思い出しか残されていません、それがどんな色だったか、どんな具合に輝いていたか、とても曖昧で幸福な『やさしい』というフィルタにスクランブルされて、彼女の中に焼きついているのでした。
その相手が男性か女性か、抱く思いが恋情であったか親愛であったかさえ、もはや定かではないのです。
その色がどんな色だったか、彼女は思い出したくてなりません。
たくさんの人たちと、たくさん楽しいことを分け合って、そうしてたくさん笑えば、その中に忘れてしまったあの人のかけらに似たものがあるかもしれない。
騎士物語や恋にまつわるおとぎ話、心震わす伝記伝承を熱心に聴いては、もしかしたらそれらのいずれかの役割に、似たものがあったかもしれない。
マリーはそうやって、もういないパートナーの輪郭を辿ることをやめられないでいました。
いずれにせよその空しさを、悲しいほど理解していても。
「本当に、マリーを救う手立てはないのかな」
フューラーはシラードを問い詰めます。
「彼女から得られるデータで、それが見つかるかもしれん。だがそれは彼女自身を救うことは出来ん、手遅れだよ」
ポータラカなら、ヒラニプラなら、という思いは誰しも同じですが、研究員達は、現状でそのレベルに到底及ぶことができないことに歯噛みするばかりです。
中には、どうせ最後ならば解体して、徹底的にデータを採取しつくそうという動きもあれば、彼女の望みを遂げてやろうと思うものもいます。後者は少数で、彼女の処遇について対立をしています。
しかし話を聞いたアクリト・シーカー(あくりと・しーかー)学長はばかばかしいと一蹴し、通常通りのデータ採取と研究を命じます。
フューラーは、地球の物語や、記憶にある絵本を彼女に読み聞かせます。
ヒパティアも、それらを人形劇や映画にしてマリーに伝えます。
少女はそれらを無邪気に喜び、仮想空間でなら自由に動く華奢な手足を躍らせて、かつてのようにふるまうのでした。
「マリー、幸せですか?」
「ええ、幸せよ」
「マリー、楽しいですか?」
「ええ、楽しいわ」
「マリー、死ぬのは、こわいですか」
「ええ、怖いわ、でもそれ以上に寂しいわ、きっと」
電脳空間のとある大樹の陰で、彼女達は他愛もない会話を続けています。
目の前の陰の中にも木漏れ日は踊り、マリーはそれさえ何かの思い出のよすがとして目を細めるのでした。
フューラーは、有志の一学生として、各校にボランティア募集要項を掲示しました。
―――――――
・遺跡の発掘隊助手募集
―小さな遺跡です、それでも人手が足りませんので、お手伝いして下さる方を募集します。
・劇上映のアイデア募集
―構想だけ持ってきて下されば結構です。舞台や材料などはこちらの3D機材ですべて用意できます。
これらはひとりの記憶をなくした機晶姫のために催すイベントでもあります。
皆様の働きが、彼女の記憶を取り戻す手がかりになるかもしれません。
空京大学機晶姫研究科第四分室 フューラー・リブラリア
―――――――
掲示には来てくれる人が気負うことのないよう、マリーの状態については一部伏せられています。
しかし大学の中ではそれまで特に隠されている事ではなかったので、訪れた生徒の中には、『第四分室』及び彼女のことを知っているものもいるようです。
マリーの姿は、もしかすると自分達にも降りかかる未来のひとつかもしれません。
あなたも、パートナーとの絆を、もう一度見つめなおしてみませんか?
担当マスターより
▼担当マスター
比良沙衛
▼マスターコメント
マリーの死は確定事項とさせていただきます。
こんにちわ、比良沙衛です。
今回は今までやってきましたシナリオとは少々異なるジャンルでお送りさせていただきます。
電脳シナリオではありますが、電脳メインではありません。
全ての学校に掲示は貼られていますので、どなたでもお越しいただけます。
以下補足となります。
マリーが身を置く研究ブースは、兵器開発等とは関係ありませんのでお気をつけください。
アクションに、パートナーへ伝えたい言動などあれば明記ください。(MC→LC、LC→MC、親密な関係のPC同士など)
ヒパティアはほかの研究員からは、新しく開発したマリー専用のデータ取得用機器という説明をして、その正体を隠し、本体を偽装しています。
フューラーも、ただの一学生の助手としてマリーにずっとついています。
遺跡については、既に一度発掘隊が調査しており、目新しいものはないかもしれません。
しかし、その全てが明かされたわけではないでしょう。
発掘物を見たマリーは、時折何らかの反応を起こすことがあるようです。
劇の上映は電脳空間で行われます。その時はヒパティア達はその姿を明かして、電脳空間へ案内してくれるでしょう。
それでは、皆様の思いやりに満ちたアクションをお待ちしています。
▼サンプルアクション
・遺跡を探索して手がかりを探す。
・マリーのための劇を上映する。
・あえて心を鬼にして、知識を突き詰めます。
▼予約受付締切日
(既に締切を迎えました)
2010年06月01日10:30まで
▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)
2010年06月02日10:30まで
▼アクション締切日(既に締切を迎えました)
2010年06月06日10:30まで
▼リアクション公開予定日(現在公開中です)
2010年06月18日