「お願い。言うことをきくから、助けて」
「ダメです。自分の力でなんとかしてごらんなさい。さあ!」
少女連続惨殺事件。
十九世紀のロンドンの街並みを再現した空京のテーマパークMajestic(マジェスティック)内で、事件は起こりました。
人気のない場所で、被害者を必要以上に傷つける残虐な手口から、犯人は同一人物ではないかと推測されています。
“Dear Boss”
二件の事件の後、新聞社シャンバラ・ニューズ・エイジェンシーに届いた手紙は、上記の言葉からはじまっていました。
「書きだしも、手紙の内容も、それに犯行の手口も、十九世紀末にロンドンを恐怖に陥れた彼をイメージしてるわね。くるとくん。これって、彼が英霊として甦ったってことかしら。そうなると、パートナーは、やっぱり」
「パラミタ ミステリ クロニクルが開幕したのかな」
事件に関して意見をききたいと、シャンバラ・ニューズ・エイジェンシーに招かれた、少年探偵弓月くるとと、彼の介助者兼伝記作者の女子高生古森あまねも、まだ判断がつきかねている様子です。
「手紙によると、犯人は、契約者を毛嫌いしており、まだまだ犯行を続けるつもりらしい。公にはされていないが、二つめの死体が発見された日に、現場近くの外壁にチョークによる落書きが見つかった。
「The Shambhalan are not The men That Will be Blamed for nothing.(シャンバラ人は理由もなく責められる人たちなのではない)
この文章も、十九世紀の事件の模倣だ。
弓月くん、どこのどいつかわからないが、この悪趣味なお遊びをいつまでもやらせておくわけにはいかない。くいとめるぞ。
全部で五件だか、二十件だか知らないが、ロンドンの悪夢をこれ以上、再現させてたまるか!」
シャンバラ・ニューズ・エイジェンシーのピンカートン編集長は、振り上げた拳をデスクに叩きつけました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
同じ頃、パラミタ上空を訓練飛行中のイコンが、突如、コントロールを失い山中に墜落、炎上!
場合によっては大惨事になるところでしたが、幸いにも墜落に巻き込まれたものは、いませんでした。
「おい、こりゃあ、どうなってるんだ?」
救助のためにイコンのコクピットへむかったレスキューたちが、声をあげました。
パイロットとパートナーがいるはずのコクピットは、大量の血で汚れ、二人はもはや人とはいえない姿、たくさんのパーツになって、そこにあったのでした。
「うっ。ひでえな」
「いくら、墜落したからって、衝撃だけでパイロットがこんなふうになるのか」
「ありえないよ」
「おや、ミステリですね。状況的には、密室バラバラ殺人事件とでも呼べばいいのでしょうか」
天御柱学院を訪れていた、地球のロボット技術のエンジニアと名乗る、スーツの姿のこぎれいな男は、事件の噂をきき、微笑みました。
整いすぎた顔に、どこか淫らな感じのする不穏な笑み。
「新たな王よ。歴史に残るのは、名前だけだ。この事件も、イコンの名を歴史に残すに役立つといいね」
「ふふ。悪名を極めし博士。そう言えば、こんな事件にはかかせない名探偵が、シャンバラには、たくさんいるはずですよ。私の愛する名探偵諸君。彼らに博士の実験レポートを送ってあげたらいかがです? きっと、喜ぶに違いありません」
天御柱学院の客員講師メロン・ブラック博士とエンジニアは、親しげに言葉を交しました。
事件は、事故として秘密裏に処理され、公にはなりませんでした。
しかし、この事件の後から、シャンバラ各地のアミューズメント施設に設置されている人気アーケードゲーム対戦型イコンシュミレーター“蒼空の絆”の擬似イコンコクピット内での、プレイ中の人間の失踪、原因不明の負傷等、不可解な事件が起こりはじめたのでした。
マジェスティック連続殺人事件、都市伝説化への兆しをみせている蒼空の絆事件、からみあう二つの事件の謎を解くのは、あなたです!
注意 *ガイドに登場したイコン密室バラバラ殺人事件の影響で、当シナリオ内では、天御柱学院は厳戒態勢がしかれており、他校生はもちろん学院生徒によるイコンの搭乗、整備も一切禁止、さわったり、実物も見られない状況となっています。
ですので、本シナリオ内にイコンの実物は一切登場しません。
イコン密室バラバラ殺人事件も、重要機密扱いで情報は秘匿されています。
シナリオ開始の時点では、参加PCは全員、イコン密室バラバラ殺人事件について、事件の存在すら知りません。
蒼空の絆事件を捜査する場合は、問題のイコン自体は調べずに、各地の蒼空の絆事件の情報収集、メロン・ブラック博士や学院の生徒たちへの聞き込み等の調査を行い、事件の真相に序々に迫ることになります。