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空京大学大騒動! 伸びて縮むぜ怪ゴムだぁー!
シナリオ名:らばーず・いん・きゃんぱす / 担当マスター: 桂木京介

 よく晴れた日の空京大学、雲少なく陽差しもあるものの、やや肌寒い日中のことでした。
 大きく開かれた門扉脇に、毛筆体で書かれているのは『入学説明会』の文字です。その下には『見学会も開催』としたためてあります。好天に恵まれたこともあったのか なかなかの盛況で、説明会開催中の講堂は、多くの学生で賑わっていました。
 壇上、マイクを握っているのは学長のアクリト・シーカー(あくりと・しーかー)です。一見、堅物でとっつきの悪そうなアクリトではありますが、その実は優れた教育者なのです。弁舌爽やかな話しぶりで聴衆を魅了し、入試や学科、カリキュラムについて一時間半もの長きに渡りたっぷり語ったものの、席を途中で蹴るような者はいないのでした。
 説明を終えると、彼はこの一言で説明会を閉じました。
「……以上で説明を終わる。百聞は一見にしかず、という。午後は自由に学舎を見学していってくれたまえ」

 盛大な拍手を背に受け、アクリトは学長室に戻りました。話しっぱなしでさぞかし疲れたかと思いきや、彼はいたって元気、悠然とコーヒーを沸かすと、ざぶざぶと砂糖を入れてかき回しています。その砂糖の量たるや、心ある人なら「ウソっ!?」と言わずにはおれないほどのウルトラ超絶メガ盛りなのです。しかもその傍らには、ハニーソースがかかりすぎて皿から溢れそうになっているドーナツがあるのでした。
 天才数学者の頭脳の原動力は砂糖……なのでしょうか、さりげなく甘いもの好きのアクリト学長であります。
 甘すぎて歯が浮きそうなランチに学長が口をつけようとした、そのときです。
「大変です学長っっ!」
 ドアを吹き飛ばすほどの勢いで、卜部 泪(うらべ・るい)が飛び込んで来ました。
「どうかしたのか」
 泰然自若たるアクリトは、取り乱すでもなく声を荒げるでもなく、ただ冷静に泪を見上げました。
「……っ、と」
 勢いが良すぎてたたらを踏んで、泪は急に自分の非礼に気づいたのか、開けてしまったドアに後ろ手で、トントン、と小さくノックをしました。
 今さらノックでもあるまい、とアクリトも思わないでもないのですが、そこはそれ、意を汲んで「どうぞ」と告げます。ドーナツを持つ手は止まったままなので、黄金の蜜がたらーりと皿に零れ落ちていました。
「大変です学長っっ!」
 ノックしようがしまいが、結局同じ切り出し方になる泪なのでした。
 泪は本来、テレビ局のアナウンサーであり戦場レポーターでもあるのですが、その経験と能力を買われ、特別臨時講師として蒼空学園や空京大学でも講義を担当しています。学園の異変をいち早く察知した彼女は、一も二もなく学長室へ駈け込んだというのです。
「怪物……いや、生命があるかわからないので『怪有機体』とでも呼ぶべき存在が、学舎のあちこちに発生しているんです!」
 その姿はアメーバ状、広がったときの大きさは畳二畳分ほど、しかも体がゴムそっくりの物質でできているといいます。この怪ゴム(?)は空京大の化学研究室の一角から出現したらしく、現在、分裂を繰り返しながら学舎内を徘徊しているようです。
「人を襲う性質があるということも確認されています。一刻も早くこれを止めなくては……!」
 アクリトは即断即決の人です。熱々の(そして甘々の)コーヒーを一息であおると立ち上がり、見学会の中止と退避勧告の発令を決めました。ところが泪は、もう間に合わないのでは……と進言するのです。
「……既に、大学じゅうに見学者は散らばっています」
 実際、中止を訴えるには遅すぎます。学舎の至るところに見学者がいますし、下手に刺激的な連絡をすればパニックになりかねません。
 こうなっては致し方なく、アクリトは方針を変更、空京大生に事態の収拾を伝達し、キャンパス内に散らばったゴム怪物の捕獲ないし討伐を命じることにしたのでした。

 抜群の取材力を持つ泪は、判明している限りの怪ゴムの性質を短時間で調査してきました。
 この怪ゴムは色違いの三種が確認されており、どちらかといえば用心深く、簡単には姿を現さないようです。ですが、種類によって特徴的な呼び出し方をすると、襲いかかって被さり、こちらを窒息させようとすることが判りました。
 まず、褐色の怪ゴムはカラメルの香りが大好きのようで、カラメルを使ったお菓子(プリンなど)の香りをかぐと飛んで来るそうです。
 次に白色の怪ゴムは、黒い服を着ている人間を見ると襲ってくるといいます。

「そして桃色のゴムは……」
 とまで言いかけたところで泪はふと口をつぐみ、学長に身をすり寄せました。
「あの……唐突なんですが、私を抱いて下さい」
 女子アナウンサーであることを差し引いても比類なき美女、それも、目のやり場に困るような服装をしている泪からそんなことを言われれば、まず普通の男性であれば餓狼と化してしまうような状況でしょう。ですが、アクリト・シーカーの知性と理性は、そうしたものを超越します。
「随分、非論理的なことを言うのだな」
 とだけ言って、泪の体に腕を回すフリをしました。なにか目算があってのこと、と判断したので彼女の身には触れません。アクリトの紳士ぶりに喜んでいいのやら残念がるべきやら迷うような声で、泪はさらに言いました。
「……あと、なにか甘い言葉を囁いて下さい、私に」
ハニードーナツ
「いえ、そういう意味の『甘い』ではなくて……わ、私が言いますね。……アクリトさん、ずっと好きでした。こうして抱きしめてもらえて嬉しいです……ぽっ」
 ぽっ、まで口で言っているのには深い意味はありません。ともかく、少々硬い演技ながら泪は愛の告白をするのでした。
 するとこのとき!

「リアジュウシネー!」

 狂おしく切なくそしてあまりにも悲痛な、あるいは百年の孤独をグツグツ煮込んで薬瓶に詰めたものを一気飲みしたような……そういう、悲しい哀しい叫びが二人の頭上からしたのです。
「そこですっ!」
 泪はアクリトを突き飛ばすやガーターベルトから短銃を抜き、落ちてきた桃色の怪ゴムに押し当てて発砲したのです。怯む標的に次々数弾を見舞うと、怪ゴムはべったり床に這いつくばって、急速に収縮していきました。
「……ふぅ、やっぱりいましたか。桃色の怪ゴムはイチャイチャしているカップルを見ると、こんな奇声を発し襲ってくるそうです……」
 肩で息をしながら泪はアクリトを見ました。頬が少し、紅潮しています。
「そうか。興味深いな」
 しかし、とことん理性的なアクリトは何ら動じないのでした。

 *******************

 その頃、イルミンスール魔法学校の小山内 南(おさない・みなみ)もキャンパスの敷地内にいました。
 東シャンバラに属す彼女にとっても、やはり空京大学は憧れの最高学府です。東西シャンバラ間に緊張感が高まりつつあるこの頃、西側を代表する空京大に興味を持つのは少々はばかられるところ……とわかってはいても、その憧れは変わらないのでした。
 こんなところに来ているのを知られたら、アーデルハイト・ワルプルギスあたりに怒られそうな気がしますが、『偵察』の名目で単身、南は説明会と見学会に参加しています。

(「あの人……」)
 南はふと、自分の数メートル先を歩む少女に目を止めました。
 彼女は黒ずくめの衣装、大きな帽子、パラソル、ゴス風味のワンピースから靴にいたるまですべてが黒で統一されていました。その反面、異様なくらい肌が白いので、一人モノクロ調でもあります。気品ある顔立ちからして、ひょっとしたらどこかの貴族なのかもしれません。
 説明会のときも近くの席にいたので、南は彼女に見覚えがありました。なんとなくミステリアスな魅力を感じて、「一緒に回りませんか?」と声をかけようかどうしようか迷っていたのですが……。
 耳がキンキンするほど甲高い声が頭上から聞こえました。
 そちらを見ると背の高い木から、黒ずくめの少女目指して白い風呂敷包みのようなものが落下してきます。すごいスピードです。南が身構えたそのときには…………………黒ずくめの少女は姿をくらませていました。
 彼女のいたはずの場所には、紙吹雪みたいに細かく、しかも均等に切り分けられた風呂敷(?)が散乱していました。
「え……っ!? ええっ……!?」
 どう反応したらいいのかわからず、南はひたすら狼狽するのでした。
 もちろん南は、あの黒ずくめの少女が、塵殺寺院が差し向けた機晶姫――クランジΟ(オミクロン)――であるなどとは夢にも思いません。

 *******************


 この物語の重要な登場人物であるあなたは、このとき空京大学キャンパス内にいました。
 あなたは現在、どんな立場にいるのでしょう?
 校長から依頼を受け、ゴムを捕まえるべく奔走する空京大生でしょうか?
 その報を知らず、見学者を案内したり日々の勉学に精を出す空京生かもしれませんね。
 あるいは、たまたまこの場に居合わせたため、ゴムとの遭遇を強いられる見学者かも……。
 
 キャンパスに咲くは恋の花? いいえ、「らばーず」といってもそれは「Rubbers」っ! 伸びるか縮むかその行く末は、ずばりあなた次第となるでしょう!
 さあ、騒動の幕が開きます!

担当マスターより

▼担当マスター

桂木京介

▼マスターコメント

 マスターの桂木京介です。よろしくお願いします。

 このシナリオは、本年9月の関西オフ会にて、多くのお客様よりご要望いただいた『空京大学を舞台としたシナリオ』です。遅くなってしまい申し訳ありません。あの日、歓迎して下さった皆様への、桂木からのささやかなお礼です。お楽しみ下さい。
(設定上、抽選では空京大学生が有利になると思いますが、予約・参加ともあらゆる学校の生徒が可能のはずです)

 怪しいゴム怪物(?)と繰り広げる、コミカル風味のシナリオとして製作しました。
 分類は『学園生活』となっていますが、『冒険』のテイストも楽しめるかと思います。日常生活の舞台たる学校で、非日常な騒動を楽しみましょう!

 このシナリオは、戦闘に主眼を置くものではありません。
 ゴム怪物はそれほど強い相手ではないでしょう。その性質を突いて攻撃すればさしたる苦労もなく勝てます。
 また、塵殺寺院から偵察者も潜入しているようですが、その目的は戦闘ではないので、こちらから積極的に仕掛けない限り戦いにはならないはずです。(なお、固有名詞『クランジ』については、拙作『ハート・オブ・グリーン』のリアクション4ページ目中頃に説明を記しています。余裕があればご確認下さい)

 ゴムによって異なる「呼び出す方法」が設定されているのはもうおわかりかと思います。
 捕まえるのであれば、呼び出すシチュエーションを工夫してみましょう。大学には様々な場所があります。そのどこで出会うかも決めておくと、行動方針を定める一助になるのではないでしょうか。
 逆に、事情をまったく知らずに大学生活を営んでいる人、ないし見学している人は、どんなシチュエーションで怪ゴムに遭遇してしまう(=襲われる)かを考えてみて下さい。

 それでは、次はリアクションでお会いするとしましょう。
 皆様のアクションを楽しみにお待ちしております。
 桂木京介でした。

▼サンプルアクション

・学長の応召に従い、ゴムを捕獲しに学内へ赴く。※このアクションは、空京大生しか選択することができません

・空京大生としての日常生活を送る。※このアクションは、空京大生しか選択することができません

・見学をかねてキャンパス内を駆け巡り、怪ゴムを捕獲する。※このアクションは、空京大生『以外』しか選択することができません。

・見学中にゴムに襲われてしまった! しかし切り抜けてやろう! ※このアクションは、空京大生『以外』しか選択することができません

▼予約受付締切日 (既に締切を迎えました)

2010年12月02日10:30まで

▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)

2010年12月03日10:30まで

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2010年12月07日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2010年12月21日


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