「人が石になったという伝説はたくさんあるよね。だったら、あたしたち石は、呪いがとけたら、人に戻るわけ?」
2020年12月23日(水) クリスマスイヴ前日
マジェスティック中央教会(跡)
あ、あー、あー。
アンベール男爵とテレーズ嬢は、結局、結婚しませんでした。
大人の男女の心理のあやなんて、私には、わからないし。(あの二人は、うさんくさすぎよ!)
だいたい結婚は当人同士の問題なので、他人様の恋愛話で振りまわされた私たちは、くたびれ損というか。(アホな相談にホイホイのるルディが悪いんです。それだけです)
ルディとニトロ、それに私と一緒にがんばってくれた方々、他にもテレーズと男爵のために一肌脱いでくださったみなさん、ありがとうございました。
メリークリスマス! & ハッピーニューイヤー! お元気ですか?
「ヘイ。ユー。はしためセリーヌ。なにしてんの」
「ん。誰がはしためだ。ダメ兄貴。
ビデオレターだよ。
今年、お世話になった方に送るの。
そういや、ニトロはクリスマス、どうするの」
「イエーイ。オールナイトライブだぜ。
おまえもくるか?
ここにいるとルディの怪しげなミサに付き合わされるぜ」
「あんたのも似たり寄ったりだ」(どうせ、空家か廃墟で、どんちゃん騒ぎだろ。聖夜に不法侵入&不法占拠でヤードに逮捕されんなよ。ボケ)
「チッチッチッ。
今度のライブはスケールがでかいぜ。
会場は、あの、ストーンガーデンだ。
オー、サプライズ!
聞いて、驚け。
ジャジャーン。俺たちハイパーニトロが、パーティのスペシャルアクトだ」
「ストーンガーデンって、あの、変人の巣窟のアパートメントの。
あんたのバンドが招待されたわけ?」(そういやルディもストーンガーデンがどうとかこうとか言ってた気が。ブルッ。なぜか、激しい寒気がするんですけど)
アンベール男爵邸
「お顔をお挙げください。ルドルフ神父様。あなたに罪はありません。
おっと、私があなたにこんなことを言うのはおかしいですね。ははは」
「アンベール男爵様。
なんのお役にも立てず、誠に、誠に、申しわけありませんでした。
あなた一人に手強き悪魔の相手をさせてしまって。
しかし、あなたが知恵と勇気を持って悪魔の誘惑を振り払われて本当によかった。私はあなたの勇気を称えます」
「お噂通りのことをおっしゃる。
テレーズと私は、式こそ延期しましたが、まだ婚約は破棄しておりません。
いつ式をあげられるかはわかりませんが、私は、あれとは、理解し合えたつもりでいるのです。
今日、あなたをお招きしたのは、手紙に書かせていただいたように、神父様のお力をお借りしたいと思いまして」
「前回のお詫びをかねて、なんでもお申し付けください、と再三、書状をお送りしたのは、私の方です。
私の謝罪の気持ちにこうしてお応えくださって、感謝します。
ええ。お手紙は読ませていただきました。
私に、ストーンガーデンにゆけ、ということでしたね」
「あのアパートメント群の立っている土地は、私のものです。書類上は」
「ほう。実際は、そうではないのですか」
「私があの土地の持ち主になったのには、いわく因縁がありましてね。
もっとも、私の人生はそれだらけだが。
実は、私は、来るべき時が来たのなら、ガーデンの真の所有者にあそこの権利を譲渡しようと思っているのです。
思っている? いや、違うな、そうすることはすでに決まっています」
「私は、なにをすればよろしいのですか」
「石工たちが集まり、己らの欲求に従い、増改築を繰り返した、奇想建築物、巨大複合アパートメント、ストーンガーデン。
凶事が起こらなければいいのですが。あそこに住民として潜入している、私の部下から知らせが届きました。
ガーデン内に悪い噂が広まっていると。
あなたには、ガーデンに行って噂の真偽をたしかめてきていただきたい」
「噂とは」
「近いうちに、ガーデンの住人が皆殺しにされる。
それは、逃れられない運命である。
住人たちの中には、すでに死を受け入れる覚悟をかためた者たちもいるようです」
「狂信、ですか。
迷える子羊たちは、ただ死を待つ生贄などでは、断じてありません!
例えあなたの依頼がなかろうとも、人心を惑わす流言飛語ならば、神父として私は放っておけません」
「頼もしい人だ」
2020年12月26日(土) クリスマス翌朝
ストーンガーデン(マジェスティック内巨大複合アパートメント)
FUNHOUSE管理人室
「パールが殺されたとなると、次は、ガーネットか」
「トパーズ様。
しかし、犯人の身柄はすでに確保しております」
「バンドマンだったな」
「ニトロ・グルジエフです。
彼のバンドの夜通しのコンサートの最中に、パールは殺害されたのです。
暗く、混雑した会場内ですが、やつが凶行を行ったのを目撃したものもおります」
「本人はどう言っておるのだ」
「飲んで騒いでいたので、自分がなにをしていたのかよくおぼえていないと」
「ふ。不運な。
まあよい。疑いが晴れるまで捕らえておけ。
それと、ヤードではアテにならん。
探偵を呼べ。誰か腕の立つ探偵を呼んで事件を喰い止めさせろ! このままでは、ゾディアックが」
「事件はまだ続くとおっしゃるのですか。だが、果たして小説のような名探偵がいるとは」
「ノーマンやクロウリーがいるのだ。
いるに決まっているだろう!
少年探偵は、いまは別の事件で忙しいらしいな。
噂では、切り裂き魔事件の時には、事件解決のために、地球のロンドンから、あの男の子孫がマジェスティックに派遣されていたらしいぞ。
そうだ。最近、よくマジェに出入りしている学生探偵たちがいたな。
連中に事件を解明させるのだ」
ストーンガーデン入り口
「マダム。ここが四つの建物からなる巨大アパートメント、ストーンガーデンですね」
「え、ええ。
あなたとは、どこかで。
わたくし、いつかお会いしたことがある気が」
「いいえ。はじめて、おめにかかります。
私のような、燕尾服でシルクハット、片眼鏡のフランス人は、マジェスティックの観光客には、よくいるタイプだと思いますよ」
「フランスの方なのですか」
「オウイ。
変装した自称犯罪王ではなく、本物のフランス人です」
「犯罪王?
そうそうガーデンでもいま、物騒な事件が起きていて。
あなたは悪い時にいらしたわね。
見学できる場所はかなり限られるんじゃないかしら」
「フフフ。メルシー。
その厄介事が私を呼んでいるようです。
失礼」
紳士は礼儀正しく一礼すると、ストーンガーデンへと入ってゆきました。
年末のマジェスティック(空京の十九世紀のロンドンを再現したテーマパーク)、石工たちが集まって建設、居住している巨大複合アパートメント、ストーンガーデンが今回の舞台です。
石の庭で起きる奇妙な連続殺人の謎を暴き、犯人のたくらみをくいとめるのは、あなたです!