ツァンダ東部、シャンバラ大荒野と草原の境にある街ではある異常が起こっていました。
町を東西に分ける大通りを一台の機晶車が物凄いスピードで走行しています。
進む先には街と外を隔てる門がありました。見るからに頑丈そうな門です。
異常に気付いた街の警備隊が詰所からわらわらと出てきますが、迫ってくる車に驚いて散り散りに逃げ出します。
――キイイイイイッ!!
ブレーキ音が鳴り、タイヤの跡が路面に焼付きました。
そしてガシャアアアアンッ!という車と門が激突する音が辺りに響きました。
「おいっ! 大丈夫か!?」
警備隊の一人が車に近づき、中にいた運転手に声をかけます。
運転手は気を失っているようで頭から血を流していました。
すぐに救急車が呼ばれ、運転手は病院へと運ばれていきました。
暴走する車。この街で最近になって増えてきた事件の一つです。
車の暴走だけではありません。他にも――
・狩りに使った銃が暴発した
・遺跡の発掘で使っていたドリルが止まらなかった
・包丁が食材だけではなくてまな板まで切った
・街灯のランプが破裂した
などなど、色々と変な事件が多発しています。
街の人々は事件の早期解決を望んでおり、掲示板などで冒険者らに事件の調査と解決を求めました。
その掲示板には他にも『遺跡調査のお手伝い』も募集されています。
街が色々な意味で賑わっている様子とは異なる様子を見せる人たちもいました。
街の中央に掛けられた石橋の下、三人の男たちの姿があります。
一人は騎士風の格好をした大柄な男です。
男は二人に話しかけます。
「わかっているな。我らは何としても手に入れねばならんのだ」
騎士風の男の言葉に、黒い外套に身を包んだ二人が応えます。
「――様が望んでいることは僕たちの望んでいることです」
「――さまに僕たちは救われたのです」
「その気持ちを嬉しく思う」
か細く、聞き取りにくい二人の声に騎士風の男は大仰に頷きました。
「アレがどんなものなのか、まだわかっていません」
「アレを知るためにいましばらく時間をください」
「ああ、好きなようにやってみろ。だがそう遠からず奴を起動させる。それまでに――」
騎士風の男は二人を見据えると告げます。
「どんな力を秘めていたのか、片鱗でもいいから調べるのだ。我らが欲しているのは我らにはない力なのだから」
今はまだ誰も、彼らでさえもこの街でこれから起こるであろう一大事件が始まりつつあることに気付いてはいませんでした。