ここは蒼空学園のとある研究室――。
乳白色のツインテールにダボッとした白衣を着た、一人の少女がいました。
「うーむ……ジアンニ伯爵の残した古文書か……」
名前はシェミー・バズアリー。
蒼空学園の客員教授で、歴史学者を自称する研究者です。
見た目はどう見ても小学生、ひいき目に見ても中学生ぐらいに見えますが、これでもれっきとした大人です。
お酒だって飲めるのです。
そんなシェミーは、とある本とにらみ合って顔をしかめている最中でした。
そのとき、ドアをノックする音がしました。そして、また別の一人の少女が入ってきたのです。
「失礼します」
ふり返ったシェミーはその少女を見て、おっという顔をしました。
「コニレットじゃないか。どうしたんだ?」
すると少女は、両手で持ったおぼんと茶器を見せて、ほほ笑みました。
「お疲れかと思って……お茶を用意してきました」
少女の名前はコニレットといいます。
人間ではありません。魔導書です。褐色色の肌に民族衣装風の服を着ているのが、特徴的でした。
コニレットは元々壊れかけた魔導書だったのですが、それをシェミーに復元してもらった過去があります。
それ以来、彼女はこの蒼空学園でシェミーの助手として働き、その仕事をサポートしてきたのでした。
「研究ははかどってますか?」
たずねながら、コニレットはお茶をシェミーの机に置きました。
「ぼちぼちだな……」
シェミーはずずっとお茶を飲んで、あまり景気が良くなさそうな顔でそう言いました。
と、ふと、コニレットはシェミーがにらめっこしている古文書に気がつきました。
「これ、いったいなんの古文書なんです?」
するとシェミーはにっと笑いました。
「知りたいか?」
他人に自分の研究の成果や経過を説明するのは、シェミーの大好物でした。
嬉々として、彼女は話しはじめました。
「これはジアンニ伯爵という、古代の魔法使いが残した書物でな。名を〈グランダルの書〉という」
「グランダルの……書?」
「ああ。とある町……迷宮図書館グランダルという場所について、その詳細を事細かに記したものだ。もっとも、グランダルは実際には存在しない都市で、ジアンニ伯爵が考え出した創造世界だがな」
「架空の町について記しているんですか?」
「そういうことだ。どうも調べたところによると、ジアンニ伯爵はこの手の実際には存在しない図書館都市についてかなり熱心に調べていたらしいな。これだけの細かな町の形態を残せたのも、その成果だろう。常人にはそう出来ることじゃない」
シェミーはジアンニ伯爵の書物を賞賛しましたが、コニレットはどうもそんな気にはなれませんでした。
なぜなら、古文書からはどこか不気味な雰囲気が感じられたからです。
そして、それは決して間違いではありませんでした。
次の瞬間、〈グランダルの書〉は二人の目の前でいきなり輝き出したのです。
「な、なんだっ!? 何が起こった!」
シェミーが怒鳴りました。
同時に、書から不気味な影が姿をあらわしました。
それは二つの赤い瞳でこちらをのぞき込み、にやっと笑います。
シェミーとその影の目が合いました。するとその瞬間、シェミーは書の中に吸い込まれていったのでした。
「シェミーさんっ!」
コニレットが叫び、手を伸ばしましたが間に合いません。
代わりに影が笑いました。
『ふはははははっ! 残念だったな! 魔導書よ……小娘は我が輩が預からせていただいた』
「なんですって……!?」
『我が輩の名はジアンニ伯爵。迷宮図書館グランダルの支配者にして、書に君臨する魔法使いだ』
影は言いました。
魔導書よ。小娘を助けだしたければ、我が迷宮図書館まで来るがいい!
いくらでも助けを求めてかまわん。それだけ、我が輩は退屈せずに済むのだからな。
それまで、あの娘は人質として預かっておく。
――助けに来なければ命はないものと思え!
影はそう言い残すと、笑い声とともに消えていきました。
シェミーさんを助けないと――!
コニレットは決心します。
迷宮図書館グランダルへ向かうため、仲間を集めることにしたのでした。
古文書の研究をしていたシェミーが本の中に連れさられてしまいました。
助けるには皆さんの協力が不可欠です。
どうか、コニレットと一緒に、シェミーを助けてあげてください!