「俺らは慈善活動団体じゃねぇんだがなぁ」
シャンバラ大荒野に建つ種もみの塔の屋上に教室を構える種もみ学院のカンゾーが、苦々しい表情で手にしていた紙を机に放りました。
その紙を持ってきたチョウコは苦笑して宥めます。
「けど、これは学院の名を広めるチャンスだよ。この会社のバイトを引き受けて、ついでに担当者を通じてアタシらの活動に協力者を増やしてもらえるよう話すんだ。」
「お菓子メーカーにか?」
「お菓子メーカーを侮るなよ。人脈は広いぜ」
「見てきたように言うなよ。けど、うまくすれば寄付をくれるかもな。移住者は増えたけど、相変わらず貧乏だもんなぁ」
事の始まりは、チョウコが空京に行ったことでした。
ある有名なお菓子メーカーが、バレンタイン企画で働いてくれるアルバイトを募集していたのです。
それは、依頼者から届け先へチョコを配達するという簡単な内容でした。
依頼者は個人から組織まで幅広く、届け先もまた個人から組織あるいは各施設とさまざまです。
配達範囲はシャンバラのみということなので、チョウコはアルバイトに応募しました。
その面接で言ったのです。
「うちの学院のやつらも雇ってくれよ」
面接官は目を丸くしました。
チョウコは示された配達範囲から配達人はそうとうな人数になるはずだと思い、それなら学院の生徒をと持ちかけたのです。
普通なら、即座にノーと言われて終わりですが、チョウコは粘りました。
その中で種もみ学院の所属であることを出した時です。
「あなた、あの分校の人でしたか! ネット配信のドキュメンタリー映画や中継は見ましたよ。若いのにこんなに必死にオアシスのために戦う人達がいると知り、何か力になれないかとずっと思っていたんです。いいでしょう、種もみ学院生で希望する方は雇いましょう」
面接官は力強く言いました。この人がバレンタイン企画『配り愛』の担当責任者だったのです。彼は広田と名乗りました。
チョウコは、総長はじめ先輩達に深く感謝しました。
それから、学院には所属していないが協力してくれる人達もいることを話し、希望するならその人達も仕事を任せてくれないか頼みました。
配信動画からその辺も承知していた広田は、それにも頷いてくれたのです。
そんなわけで、学院に戻ったチョウコがカンゾーに知らせたのでした。
「ま、いいか。たまには愛を配る側になるのも悪くねぇな。一生懸命働く俺の姿に、あの人も心を打たれるに違いねぇ」
カンゾーの脳裏に、きらきらと微笑む憧れの人の姿が浮かびました。
それから数日後、チョウコ達は空京の倉庫で依頼人から届けられたバレンタインチョコの配達先の仕分けをしていました。
その中に、気になる名前を見つけたのです。
「これは、行方不明の地球人……? やっぱりこっちに来てたのか」
ネットでパートナー契約を結んだまま、パートナーとは会わずにどこにいるのかわからない地球人の名前が差出人欄にあったのです。
しかも、届け先はほったらかしのパートナーのもとではありません。
「捕まえてやる……!」
チョウコは覚えている限りの地球人の名前をメモしていきました。
覚えていたのは三人です。
そして調べた結果、どこにいるかもわかりました。
坂井 康介 蒼空学園生
雨宮 沙菜 葦原島で舞妓の修行中
ケビン・マツシマ ヒラニプラの工場で働いている
チョウコは、契約の泉で健気に待っているパラミタ人達を思いました。
また、こうして見つかったのも『契約情報サービス屋』を立ち上げた人のおかげだと感謝しました。
「さーてと、アタシも個人的に愛を届けに行こうかな」
チョウコは配達ついでに、親しくなった(と思っている)イケメンにチョコを渡しに行こうと思っていました。
それを聞いた他の人達も、自分もあの人に……と思うのでした。