「例外を認めろだと!」
石造りの部屋に大きな声が響きました。
リリーを連れ帰ったゴワンはドグマ教の拠点に帰還しました。
ゴワンはリリーを許してほしいと教団のトップのウェスペル・ブリッツに頼み続けています。
「知ってるだろ?リリーは奈落人。地上じゃ生きていけねえ種族なんだ。
奈落人は俺たちみたいに丈夫じゃねえ。だから首飾りがねえと地上で生きていけねえ。頼む、今回だけは大目に見てくれ」
「駄目だ。リリーは契約者共と関わりを持っていたのだ。ドグマ教の一員と認めぬ。認められぬ」
「カーッ!こんだけ頭下げても駄目ってか。相変わらず頭が硬いぜ」
ゴワンの傍らに立つリリーは不安そうに2人の口論を見ていました。
いいか。俺とウェスペルの話には絶対口を挟むなよ。
リリーは予めゴワンに口止めをされていました。
彼はウェスペルがリリーの言葉を聞き入れないことを分かっていたのでしょう。
ゴワンとウェスペルの声に混じって、カチャカチャと金属の擦れ合う音が聞こえます。
部屋の片隅の柱に寄りかかったレーゲン・ブリッツは1人カチャカチャと知恵の輪を解いています。
「前から思ってたんだがよウェスペル。お前ドグマ教の教えに厳しすぎるぜ]
「背教者共に情けなど無用だ。戒律を破ることはドグマ教の裏切りだ。
それはつまりネフェルティティ様の冒涜。許すことなど出来ぬ」
「……なあ聞いてくれや。今日、リリーのパートナーに会ったぜ。
細い体の女だった。だが見た目に似合わず無茶する奴でな、体張ってリリーを助けようとしたぜ」
「――だから何だ。何が言いたい」
「思ったんだ似てるってな。オレと似てるって思ったぜ。
性別だって違う。見た目だって岩石みたいなオレと、もやしみてえなアイツじゃ全然違う。なのによ。そっくりだと思ったぜ。
なあウェスペルよ。あまりでかい声じゃ言えねえが、契約者はよ……実はよ……本当は……」
突如ゴワンが壁まで吹き飛びました。
壁に寄り掛かったまま彼はへたりこみました。胸に大きな傷跡が出来ています。
ウェスペルの攻撃でした。彼は腰に携えた剣を素早く抜いてワゴンを斬りつけたのです。
レーゲンの手が止まりました。
彼はため息をつくと、解き終わった1つの輪を無造作に投げ捨てました。
「契約者の擁護に回るか!仲間だと思っていた私が甘かった。……失望したぞゴワン!
お前ほどの力の持ち主だ。まさかとは思うが反逆を企てているのではあるまいな!」
ウェスペルは一歩一歩ゴワンに近づいていきます。
「待って!」
いてもたってもいられなくなったのでしょう。リリーが2人の間に割って入りました。
「退け。背教者」
「待ってウェスペル!悪いのは全部私よ。ゴワンは悪気があったわけじゃないわ。
ちょーっと口がすべっちゃっただけなの。裏切るようなことはしないわ!」
ウェスペルはじっとリリーを見つめています。
「ゴワンは許してちょうだい。斬るなら私を斬って!」
「……ほう。見上げた心意気だ」
ウェスペルはリリーに剣の切っ先を向けました。
リリーは動かないでいます。ただじっと剣の先を見つめています。
「大変です!」
そのとき、重い空気の中へ割って入ったのはドグマ教の兵士でした。
「た、大変です!契約者が、契約者たちが現れました」
「契約者だと!居場所を突き止められたか。奴等め、報復にきたか。ペステを投入し守りを固めろ!進入を許すな!」
兵士は敬礼をすると、素早く部屋から出て行きました。
ウェスペルはリリーの背後のゴワンを見つめました。
「ゴワンを牢に放り込め!」
ウェスペルの命令に従い、数名の兵士が現れて、倒れたゴワンの体を引きずっていきました。
「リリー!」
ウェスペルがリリーを睨みます。
「契約者共を討て。ドグマ教の一員であるというなら証明してみせろ。
契約者共を倒したそのとき――再び仲間として迎えてやる!」